【#68】地下6階・第四話:死者たちの宴
——血と叫び声が夜宴の鐘となる。
俺の剣がミイラの修道女の胴を断ち割った。
「……あ……が……っ……」
干からびた喉から、搾り出すような声が漏れる。
その声には恐怖と懇願が混じっていた。
「クソッ、こいつもか……」
これで何度目だ。
魔物と化した奴らが、助けを求める。
殺してやることが、果たして”救い”になるのか。
「迷うな、蓮」
ミスティが静かに言う。
「この場では、お前が”死神”なのよ」
「……ああ、分かってる」
足元の血溜まりを蹴り、次の標的へと向かう。
「トリック・オア・トリート!!」
甲高い叫びとともに、カボチャ頭が宙を舞った。
いや——“首が飛んだ”のか。
「っ……!」
振り返ると、そこにいたのは——
“海賊姿の俺”
「……追跡者」
不気味な三角帽子に、黒いコート。
顔は——俺とまったく同じ。
だが、その目には、感情がなかった。
「貴様……」
剣を構えると、追跡者も同じ動きをした。
「また”俺”と戦うのか……」
呟いた瞬間、追跡者が跳ぶ。
俺の剣を模した漆黒の刃が、宙を切り裂く。
「チッ……!」
かろうじて後退し、回避。
しかし、追跡者は空中で体を捻り、俺の死角へ回り込む。
「——っ!」
反応するより早く、刃が肩を裂いた。
ゴッ……!
痛みに顔を歪める間もなく、次の斬撃が来る。
「遅い——!」
ミスティを振るう。
金属音が響き、互いの刃が激突した。
「お前、いつの間にそんな機動力を——」
気付くと、追跡者の足元には”黒い足場”があった。
「……またチート能力持ちか。不正しなけりゃ勝てないことを、よくご理解で」
俺は嘲笑し、膝を落とす。
次の一手——考える間もなく、追跡者が踏み込んでくる。
「なら……これでどうだ!」
俺は床の血溜まりを蹴り上げる。
赤黒い液体が宙に舞い、追跡者の視界を奪う。
「……!」
その隙に懐へ潜り込む——。
「喰らえ……!!」
ミスティを突き出す。
——が、追跡者は、まるで見えていたかのように刃を弾いた。
「な——っ!?」
そのまま、カウンター気味に剣を振るってくる。
「っ……!!」
紙一重で避けるが、腕に浅い傷を負った。
「……お前……」
改めて見ると、追跡者は微かに”笑って”いた。
まるで、“俺の成長”を楽しむかのように——。
「……クソッタレが……」
次こそ、決めてやる。
俺はミスティを構え直し、血の海に足を踏み入れた——。




