【#65】地下6階・第一話:終わらぬ悪夢の回廊
足を踏み入れた瞬間、違和感を覚えた。
壁、天井、床——すべてがどこか歪んでいる。
朽ちた街灯が立ち並び、空には巨大な三日月が浮かんでいる。
まるでハロウィンの夜そのものだ。
「……また妙な場所に来たな」
俺は剣を握り直し、慎重に進む。
すると——
「た、助けて……」
声が響いた。
影の向こうから、よろめく人影が現れる。
だが、その姿を見て、俺は眉をひそめた。
——人間と、魔物が融合している。
手足は人間だが、胴体は膨れ上がり、背中には無数の触手。
顔は涙を流しながらも、目だけは獣のように光っている。
「助け……殺して……助けて……ッ!」
次の瞬間、そいつは叫びながら襲いかかってきた。
俺は迷わず剣を振るう。
ズバッ!!
刃が魔物の身体を断ち、鮮血が飛び散る。
「ぐ……あぁ……!」
倒れた魔物は、最後まで「助けて」と呟きながら絶命した。
「……クソッタレ」
エルゴスの仕業だろう。
奴らはこんなことをしてまで戦力を増やしているのか。
「どうする?」
ミスティが問いかける。
「どうすることもできないだろう。全部斬る他にない」
そう答えながらも、心の片隅では打算的な考えを巡らせていた。
もしも俺に縁のある者が魔物化していれば、ミスティの力になる。地上に帰還し、エルゴスの本部を破壊する、という目的を第一に考えるなら、分の悪い話ではない——
自分はここまで冷酷で狡猾だったのか、と嫌になる。だが、自己嫌悪に陥っている暇はない。
再び周囲を警戒しながら歩を進める。
しかし——気づけば、俺は同じ場所に戻っていた。
「……なるほどな」
このフロア、適当に進んでいると元の場所に戻る仕掛けか。
どこかに”正しいルート”があるはずだ。
と、その時だった。
「トリック・オア・トリート!」
突然、上空から声が響く。
見上げると——
カボチャ頭の魔物が宙を舞っていた。
「ハッピーハロウィン!」
——ドンッ!!
カボチャ頭が何かを投げつける。
それが地面に着弾した瞬間——
視界が一変した。
「ッ……!?」
俺はいつの間にか、暗い空間に閉じ込められていた。
周囲は石造りの牢獄。
「……クソ、やられたか」
異空間に飛ばす能力か。
だが、こんなところで足止めを食うわけにはいかない。
「ミスティ、ぶち破るぞ」
「ええ、やってみましょう」
俺は魔剣を構え、一気に振り下ろした——。




