表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/102

【#5】地下19階・第一話:追跡者

 階段を上りきった先に広がっていたのは、どこまでも続く暗闇の回廊だった。

 壁の材質は20階と同じ黒曜石のような石だが、微かに違和感がある。足を踏み出すと、靴底に伝わる圧が変化した。


 ——重量が違う?


 俺は慎重にもう一歩進む。今度は逆に、まるで重力が弱くなったかのように体が軽くなった。さらに別の場所に足を置くと、一気に足が沈み込み、身体が鉛のように重くなった。


「……なるほどな」


 ダンジョンのギミックか。エリアごとに重量が異なる——つまり、地形を利用すれば敵を封じ込めたり、一方的に攻撃することも可能というわけだ。


「蓮、後ろに敵がいるわ」


 ミスティの声が響く。同時に、背後の階段から何かが這い出てくる気配がした。

 振り向いた俺の視界に映ったのは、自分自身だった。


 追跡者チェイサー——エルゴスの刺客。


 癖のある茶髪、無精ひげ、精悍な顔つき——すべてが俺と同じだった。ただ、一つだけ違うのは、焦点の合わない空虚な双眸。

 まるで、“俺”の抜け殻のようだ。


 奴は、俺の動きを完全に模倣しながら、静かにこちらへと歩を進める。


「……出たか」


 ダンジョン内でエルゴスの意に反することをすると現れるという『追跡者』。俺の容姿・能力をコピーし、ひたすら抹殺しようとする不死身の敵。

 俺はミスティを構え、奴の出方を窺う。


「……どこまで模倣できるのか、試してみるか」


 俺はわざと重量の変わる地形へと足を踏み入れた。次の瞬間、体がふわりと軽くなり、軽快な動きが可能になった。一方、追跡者も同じように足を踏み入れる——が、その直後、奴の動きが鈍る。


 ——さてはハズレのエリアに乗ったな。


 見た目では分かりにくいが、このダンジョンは一定の法則で重力を操っている。俺が軽くなるエリアは、逆に奴にとっては動きが鈍くなる仕組みになっているらしい。


「チャンスだな」


 俺は一気に距離を詰め、ミスティを振り下ろした。剣閃が追跡者の胸を裂き、黒い霧のような血が舞う。

 だが、奴は表情ひとつ変えず、裂けた傷口がゆっくりと再生していく。


「……不死身というわけか」

「でも、回復には時間がかかるようね」


 ミスティの淡々とした声が響く。確かに、完全回復するまでには多少の猶予がある。だったら、その隙にこの階を突破するしかない。

 俺は剣を構え直し、奥へと駆け出した。


 この階を抜けるまで、時間との戦いになる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ