【#58】地下8階・第四話:終わりに近づく
──静まり返った広間を抜けて、俺は次のエリアへ足を踏み入れた。
奥へ進むにつれ、空気が濃く、重くなっていく。視界の端で、パネルが軋みながら崩れ落ちていくのが見えた。映されていた地上の映像は、もはや闇と瘴気に覆われていた。
そのときだった。
「ギィィ……アアアッ!!」
低く、響く咆哮がフロア全体にこだました。
現れたのは、異様に膨れ上がった四肢を持つ魔物。骨のような外殻に覆われ、頭部には目が複数ある。俺を見た瞬間、殺意に満ちた視線が突き刺さった。
「……やる気か。なら、さっさと終わらせよう」
ミスティが黒く光り、剣から小さな火花が散る。
魔物は吠えながら突進してきた。速度は速くないが、重さが桁違いだ。地面がひび割れ、床石が宙に浮くほどの衝撃。下手に正面から受ければ、ひとたまりもない。
「だが、お前は一つ、見落としてる」
俺は回避しつつ、床の端を踏む。
──カチッ
重い音とともに、罠が作動した。
ボォオッ!!
壁から噴き出した炎が、魔物の脇腹を焼く。炎を浴びながらも動きを止めなかったが、外殻の一部が砕け、露出した肉があらわになった。
「そこだッ!」
ミスティを大きく振りかぶり、跳躍と同時に剣を叩きつける。黒炎を纏った一撃が、魔物の体を真っ二つに裂いた。
断末魔を上げる暇もなく、魔物は砕け散り、黒い蒸気を上げて地面に沈んだ。
「──終わりだ」
あっけないほどだった。だが、躊躇う理由はなかった。
ミスティは無言のまま、淡く刀身を震わせた。
呼吸を整え、罠の残るフロアを慎重に渡っていくと、やがて目の前に階段が現れた。
──地下7階への階段。
ここを登れば、また一つ、終わりに近づく。
だが、同時に確信する。地上が歪んでいくこの異常は、ただの侵食じゃない。エルゴスは、何かを完成させようとしている。
「……ぶっ壊してやるよ。全てをな」
俺はミスティを握りしめ、黙って階段を登り始めた。




