【#57】地下8階・第三話:罠に踏み込む
ゴォォォッ!!
壁の罠から吹き出す炎が、魔物の分裂体を焼き尽くす。
だが、俺の視線の先にはもう一つの影──俺と同じ姿の追跡者がいた。
「……さて、どうする?」
追跡者はニヤリと笑う。
俺が罠を利用して魔物を倒したのを見て、自分も同じことをしようとしているのは明らかだった。
つまり、こいつも俺と同じように”状況を利用する”思考を持っている。
「俺とお前、どちらが上か……決めるとしようか」
ザッ──
俺は床を蹴り、追跡者の懐に踏み込んだ。
やつもまた剣を構え、正面から俺を迎え撃つ。
──刹那、二本の剣が交錯した。
ガキィン!!
黒炎を纏うミスティの刃と、追跡者が持つ剣が火花を散らす。
しかし、俺の一撃は完全に受け止められ、逆に鋭いカウンターが襲いかかってくる。
咄嗟に後退しながら、俺は床の模様に目をやった。
今、俺が立っているのは炎の罠があるエリアのすぐ近く。
もし俺が後ろに下がりすぎれば、自ら罠に飛び込むことになる。
だが、追跡者もそれを理解しているのか、俺を無理に押し込もうとはしなかった。
「……なかなかやるじゃないか」
追跡者は余裕の笑みを浮かべながら、静かに構えを変える。
──だが、それが隙だった。
俺は一瞬だけ視線を後ろに向け、あえて罠の上に足を踏み入れる素振りを見せた。
「……!」
追跡者の視線が一瞬、俺の足元に引き寄せられる。
──その刹那。
俺は一気に踏み込み、低い姿勢からミスティを振り上げた。
「しまっ──」
追跡者が身を引こうとした瞬間、俺の刃がやつの剣を弾き飛ばす。
そのまま俺は一気に剣を横へ振り抜き、追跡者の胴体を断ち切った。
ズバァッ!!
追跡者の身体が二つに裂け、黒い霧となって崩れ落ちる。
やがてその姿は完全に霧と同化し、消え去った。
静寂が訪れる。
「……終わったか」
俺は深く息を吐きながら、剣を構え直す。
ミスティの黒炎が静かに燃え、その刀身がかすかに脈打つように揺らめいた。
俺は勝った──だが、気を緩める暇はない。
すぐに俺は周囲の状況を確認し、地下7階へと続く階段の場所を探した。
しかし、その途中で俺は奇妙な空間にたどり着く。
広間──いや、異様な空間だった。
そこには、宙に浮かぶ薄いパネルがいくつも漂っていた。
まるで巨大なモニターのように、それぞれが何かの映像を映し出している。
俺は警戒しながら、そのうちの一枚に目を向けた。
……そこに映っていたのは、地上の光景だった。
だが、異変が起きていた。
建物が歪み、空が裂け、大地から黒い瘴気が噴き出している。
都市の一部がねじれ、ダンジョンの構造と融合しつつあるのが分かった。
「……何が起きてやがるんだ」
俺の背筋に冷たい感覚が走る。
ダンジョンが侵食している?
地上がダンジョンと混ざり合っていく?
ありえない……はずだった。
しかし、俺の目の前で確かにそれは進行している。
「……急がねば」
俺は奥に続く道を見据え、再び歩き出した。
地上がダンジョンと融合する前に──この戦いを終わらせなければならない。




