【#52】地下9階・第五話:死神が来る前に
死神の掃討が過ぎ去り、フロアは静寂に包まれた。
エルゴスの戦闘員たちは護符の力で即死攻撃を耐えたものの、完全に無傷というわけではなかった。
呼吸を荒げる者、膝をついている者──その数は減りつつある。
だが、まだ動ける者がいる。
俺は剣を構え直し、奴らの視線を受け止めた。
「……なかなかしぶといじゃないか」
「貴様こそ……よく生き延びたな」
前衛の一人が、息を切らしながらも立ち上がる。
その手には護符が握られていたが、表面には細かい亀裂が入っていた。
何度も死神の掃討を受ければ、護符も持たない──それが分かっただけでも収穫だ。
「蓮、どうする?」
ミスティの声が頭に響く。
俺は一瞬だけ思案し──すぐに答えを出した。
「アイツらの護符を破壊する」
次の掃討まで、あと10分。
──それまでにケリをつける。
俺は足を踏み出した。
「殺せ!」
戦闘員たちが一斉に駆け出し、剣を振るう。
だが、俺は彼らの攻撃を最小限の動きでかわしながら、隙を突く。
「遅い」
刹那の間合い。
俺の剣が一閃し、護符を握る戦闘員の腕を断ち切った。
「がっ……!」
護符が床に転がり、すぐに俺が踏み砕く。
これで次の掃討には耐えられない。
「次!」
俺はさらに間合いを詰め、別の戦闘員の手元を狙う。
奴らは護符を守ろうと必死だったが、焦りは隠せていない。
「貴様……!」
「そう何度も死神の攻撃に耐えられると思うな」
俺は刃を走らせ、もう一つの護符を破壊した。
──あと8分。
生き残った戦闘員たちの顔に明らかな動揺が広がる。
「もう、お前らに勝ち目はない」
俺は剣を構え直し、さらに前進する。
──だが、次の瞬間だった。
「……ッ!?」
突然、空間が揺らいだ。
背後から、強烈な殺気が迫る。
振り向くと──そこに”追跡者”がいた。
黒いコートをまとった男が、無言でこちらを見つめている。
「面倒なタイミングで復活しやがったな……」
俺は舌打ちしながら、剣を握る手に力を込めた。
エルゴスの戦闘員、そして追跡者。
次の死神の掃討まで、あと7分。
ここからが本番だ。