【#50】地下9階・第三話:迫りくる影
「……また来たか」
鋭い気配が背後に迫る。
俺は即座に横へ跳び、振り向きざまに剣を構えた。
──”追跡者”
常に俺の行く手を阻み、執拗に追ってくる、俺と同じ姿の”処刑人”。今回は黒いコートを翻し、奇妙な仮面を着けている。
「お前、今の戦闘に割り込んでくるか」
追跡者は無言のまま、銀色の刃を抜いた。
次の瞬間、黒い霧のような気配が弾け、奴が一気に間合いを詰めてくる。
「クソッ──!」
俺は剣を振るい、襲い来る斬撃を弾いた。
だが、追跡者は即座に体勢を立て直し、さらに斬りかかってくる。
その間もエルゴスの戦闘員たちは包囲を崩さず、俺を取り囲んでいた。
──最悪の状況だ。
「蓮、どうする?」
ミスティの声が頭に響く。
「まずは、包囲を抜けねばな」
俺は床に目を走らせる。
このフロアには回転床がある──それを利用できるか?
追跡者が斬りかかる瞬間、俺は足元のパネルを踏みつけた。
ガコン!
次の瞬間、床が回転し、俺の体が勢いよく流れる。
予測不能な動きに、追跡者の刃が空を切った。
「──もらった!」
俺は回転の勢いを利用し、エルゴス戦闘員の一人に剣を突き立てる。
ズブッ!
深々と刃がめり込み、戦闘員が血を噴きながら倒れた。
「二人目」
俺は剣を振って血を振り払う。
しかし、その瞬間、追跡者が新たな刃を抜き、俺の首を狙ってくる。
──速い。
俺は反射的に身を引いた。だが、刃先が頬をかすめ、鋭い痛みが走る。
「蓮!」
ミスティの声が響くが、俺は歯を食いしばり、すぐに体勢を立て直した。
そして、15分ごとの死神の掃討が迫っていることを思い出す。
──ここで長引かせるわけにはいかない。
「……そろそろそこを退いてもらうぞ」
俺は剣を構え直し、戦闘員と追跡者を睨み据えた。
追跡者は無表情のまま、刃をゆっくりと上げる。
エルゴス戦闘員たちも攻撃の準備を整えていた。
──時間がない。
俺は奥の魔法陣を視界に捉え、即座に決断する。
「全力で突破する」
ミスティが刃の脈動を強める。
──ここを抜けなければ、死ぬ。
俺は死神の掃討が来る前に、この戦場を駆け抜けることを決意した。