【#49】地下9階・第二話:野生ではない
マーカス・レインズは笑みを浮かべたまま、悠然と手を挙げた。
「やれ」
その言葉を合図に、背後からエルゴスの戦闘員たちが姿を現した。
黒い強化スーツに身を包んだ兵士たち。だが、彼らの身体はすでに魔物と融合している。
腕が異形の刃と化した者。
背中から触手を生やした者。
目が赤く輝き、鋭い牙をむき出しにした者。
──人と魔物の完全融合体。
それでいて、彼らの目には理性が宿っていた。
「九條蓮。貴様は”不要”と判断された」
戦闘員の一人が無機質な声で告げる。
「“Sクラス覚醒者”でなくなった貴様は、エルゴスの計画にとって価値がない」
「それがどうした?」
俺は剣を構えた。ミスティの刃が微かに脈動する。
「俺は最初から、お前たちの価値基準になんか興味はない」
戦闘員たちは一斉に動いた。
──来る!
俺は魔法陣の上から飛び出し、目前の戦闘員に斬りかかった。
キィィン!
刃が激突し、火花が散る。
俺の剣を受け止めた戦闘員の腕は、硬質な鱗に覆われていた。
「この強度……厄介だな」
「貴様に勝ち目はない」
戦闘員が鋭い爪を振りかざす。俺は身を翻して回避し、カウンターで斬りつけた。
──その刹那。
背後からの気配に気づき、咄嗟にバックステップする。
俺のいた場所を、別の戦闘員の触手の槍が貫いた。
「囲んだぞ」
……チッ、やはり組織的な動きをするか。
彼らは野生の魔物とは違う。
冷静に連携し、俺を仕留めに来る。
「蓮、どうする?」
ミスティの声が響く。
「少し、荒っぽくなるが……」
俺は床を蹴り、回転床のギミックを利用して戦闘員の側面へ滑り込んだ。
──ミスティの刃を深々と突き刺す!
「ッ……!!」
戦闘員の体が痙攣し、赤黒い血を撒き散らす。
「一人」
刃を引き抜き、振り返る。
だが、すでに他の戦闘員が包囲を固めていた。
「……面倒だな」
息を整え、剣を握り直す。
そして、マーカスがそれを見下ろしながら薄く笑った。
「さあ、“元Sクラス”。どこまで持つ?」
──戦いは続く。




