【#4】地下20階・第四話:閉ざされた扉
——目の前に、階段。そしてもう一つの道。
19階へと続く石造りの階段の横に、場違いなほどに古風なエレベーターが設置されていた。
「……こんなものがあるとはな」
ダンジョン最下層からここまで、ひたすら魔物と罠に満ちた空間を進んできた。
だが、このエレベーターは妙に整備されている。まるで、管理されているかのように。
俺は扉に手を伸ばし——止まった。
「……やはりな」
エレベーターの扉に刻まれた紋章が、青く光を放っている。
エルゴスの紋章——鎖と三つの剣が交差する独特のデザイン。
それを見た瞬間、胸の奥に抑えきれない怒りが込み上げた。
エルゴス。
人類の上に君臨する、ダンジョンと融合したこの世界の「支配者」。
彼らは力なき者を切り捨て、「適者生存」の名のもとに人間を魔物と交配・改造し、実験体として利用する。
俺がかつてSランク覚醒者だった頃、この組織の正体を追っていたが……裏切りによって捕らえられ、ここに幽閉された。
「クソが……」
このエレベーターは、奴らのものだ。
当然、俺が使えるはずがない。
「ミスティ、起動できるか?」
「魔術認証が必要です。蓮の魔力では強制開放はできません」
やはり、か。
俺が持つ魔力では、このエレベーターを動かすことはできない。
「なら、使える道を行くまでだ」
俺はエレベーターを睨みつけ、踵を返す。
そして、階段の壁に目を向けた瞬間、あることに気がついた。
「……こっちにも、か」
石壁の表面に、エレベーターと同じくエルゴスの紋章が刻まれていた。
薄青い光を放つそれは、まるで監視されているような不快感を覚えさせる。
俺は深く息をつき、階段を上り始めた。
——その瞬間。
ゴッ……!!
鈍く低い音が響き、背後で光が変わる。
青から、赤へ。
壁に刻まれた紋章が、不気味な赤光を放っていた。
「……何だ?」
俺は剣を構え、警戒する。
しかし、それ以上の変化は起きなかった。
「ミスティ、何か反応は?」
「魔力の変化を感知しました。危険度は低いようです」
「……今は問題ないってことか」
何かのトラップか、あるいは警告の類か。
エルゴスの意図は分からないが……いずれにせよ、俺は進むしかない。
俺は最後にもう一度、エレベーターを振り返った。
静かに鎮座するそれは、まるで「資格なき者」を嘲笑うかのようだった。
——上等だ。なら、力尽くで乗っ取るまで。
決意を胸に、俺は地下19階へと足を踏み入れた。