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【#48】地下9階・第一話:死神の時間

 階段を上がると、空気が一変した。

 この階層には、どこか冷たい圧力が満ちている。


「……嫌な感じがする」


 ミスティがかすかに震える声で言った。俺も同感だった。

 フロアの中央には巨大な魔法陣が描かれ、その周囲には不規則に配置された小さな魔法陣がいくつも浮かび上がっている。壁には宙に浮かぶ黒いパネルがいくつもあり、そこには地上の光景が映し出されていた。


 ──燃え上がる街。崩れた建物。逃げ惑う人々。


 エルゴスの支配が進行しつつある現実を、無慈悲に映し出していた。


「くそ……」


 奥歯を噛みしめながら前へ進もうとした、その瞬間だった。


 ──コォォォォォ……ン……


 低く響く鐘の音。


 次の瞬間、フロア全体に闇が満ちた。


 死の気配。


「蓮! 避難しないと!」


 ミスティが叫ぶ。俺は直感的に近くの魔法陣に飛び込んだ。

 次の瞬間、闇の中から無数の鎌が現れた。


 シャアアアアッ!


 漆黒の刃がフロア全体を貫くように駆け抜ける。

 魔法陣の外にいた魔物たちは悲鳴を上げる間もなく塵となった。


 ──死神の掃討。


 このフロアには15分ごとに死神の即死攻撃が発動する。

 唯一の安全地帯は、魔法陣の上だけ。

 俺は魔法陣から出る前に、周囲の様子を確認した。


 ──異変がある。


「……アイツ、動いてない?」


 少し離れた場所で、マーカス・レインズが悠然と立っていた。


 彼の足元には魔法陣がない。

 にもかかわらず、彼は無傷だった。


「……やはり、気づいたか」


 マーカスはポケットから小さな黒いアミュレットを取り出して見せた。


「これは死神の祝福──エルゴス製の即死無効化アイテムだ」


 俺を見下ろしながら、不敵に笑う。


「お前も欲しいか?」

「……別に」

「ふっ、強がりを」


 マーカスは鼻で笑い、俺の背後にあるパネルを指さした。


「……お前も見ろ。地上がどうなっているかを」


 俺は振り返る。


 ──そこに映し出されていたのは、かつて俺が守ろうとした街。

 瓦礫の山と化し、至る所で爆発が起き、人々が倒れていく光景。


「これは……」

「“エルゴスの進行”だ」


 マーカスの声には嘲りと冷たさが混じっていた。


「このままでは、お前が帰るべき場所はもう無くなる」


 俺は拳を握りしめた。


 ──今すぐにでも地上に戻りたい。

 だが、それができないのは分かっている。


「……だったら、ここを突破するまでだ」


 俺は剣を握り直し、マーカスを睨みつけた。


「次の掃討が来る前に、お前を片付ける」


 マーカスは笑みを深めた。


「ほう……やってみろ、“元Sランク”」


 ──戦闘開始だ。

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