表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

45/102

【#44】地下10階・第三話:埋もれた記録

 暗闇の中、鋼鉄の床にエージェントの死体が転がる。


「……片付いたか」


 俺はミスティを振り払い、血のついた黒刃を清めた。

 エルゴスのエージェント三名──武装は強化型のライフルと近接用の高周波ブレード。鍛えられた動きだったが、結局、俺を止めるには至らなかった。


「おい、ミスティ……さっきから何だ、その反応は」


 俺の手の中で、ミスティが微かに震えていた。

 彼女は通常、俺が意識的に力を込めない限り、ただの剣の形を保っている。しかし今は、まるで何かを感じ取っているかのように波打っていた。


「……ここに何かあるのか?」


 呼びかけても、ミスティは答えない。ただ沈黙のまま、僅かに光を帯びた。

 その光は──保管庫の奥へと導くかのようだった。


「……わかったよ」


 ミスティを握り直し、俺は保管庫の奥へ進む。


 この空間にはいくつもの記録が並んでいた。データ端末、紙の資料、ホログラム装置──どれもエルゴスの機密情報に違いない。

 中でも、一つの端末にミスティの光が反応した。


「こいつか……」


 俺は端末を手に取り、電源を入れる。

 古びた装置だが、すぐに起動した。

 モニターに映し出されるのは、膨大な記録の一覧。

 俺は目的も分からぬまま、ミスティが示したファイルを開いた。


 ──そこには、一人のSランク覚醒者に関する記録が残されていた。


 


《実験記録 1734-A》

•被験者:Sランク覚醒者「ロザリンド・E・アルムガルト」

•志願理由:エルゴスの超越的融合実験への協力を希望

•実験内容:特異エネルギーとの同調・変質試験

•結果:対象は融合の過程で実験施設からの逃亡を試みる

•結末:対象は逃亡中、エルゴス戦闘部隊によって射殺

•付記:「死によって術が完遂された」




 ……ロザリンド・E・アルムガルト。


 その名前を見た瞬間、俺の脳内に何かが突き刺さった。

 俺の師──五歳年上のSランク覚醒者。

 だが、俺の記憶には、何故か彼女の姿がない。

 いくら思い出そうとしても、彼女の顔を思い出せない。

 しかし、目の前の記録の『ロザリンド・E・アルムガルト』の顔写真には見覚えがある。

 彼女はミスティによく似ている──


「……死によって、術が完遂?」


 この記述は何を意味しているのか。

 超越的融合──まさか、ロザリンドは……


 俺は視線を落とし、手にしたミスティを見た。

 彼女は、何も語らない。

 だが、まるで俺の動揺を感じ取っているかのように、微かに脈動していた。


「……まさか」


 もし、ロザリンドが本当にエルゴスの実験体であり、“死によって術が完遂”されたのだとしたら……


 ──俺の手にある、この魔剣の正体は?


 嫌な予感が脳裏を過る。

 俺は端末の電源を落とし、再び剣を握りしめた。


 ──先へ進む。


 今できることは、それだけだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ