【#43】地下10階・第二話:記録の眠る場所
追跡者が俺に向かって剣を構えた瞬間だった。
刹那、闇の中で青白い閃光が奔る。
「……っ!」
咄嗟にミスティを振るい、追跡者の剣を受け止める。火花が散り、金属音が暗闇に響いた。
「……また俺の姿か」
相対する追跡者は、まるで鏡に映ったかのように俺と同じ姿をしていた。
だが、決定的に違うのは、奴の持つ剣──魔力を帯び、遠隔攻撃が可能なそれだった。
追跡者は即座に距離を取り、剣を振るう。
「──ッ!」
青白い刃の軌跡が闇を裂き、魔力の斬撃となって俺を襲う。
俺は紙一重で身を捻り、斬撃を回避した。背後で床が抉れ、火花が散る。
奴の武器は厄介だ。暗闇の中でも正確にこちらを狙い、射程も広い。
だが──
「……お前は、暗闇の中では何も見えないんじゃないか?」
試しに横へ跳躍し、別方向から攻撃を仕掛ける。
──追跡者の動きが、一瞬だけ遅れた。
やはり、こいつもこの”暗闇のギミック”の影響を受けているらしい。
ならば、使いようはある。
俺は意図的に足音を響かせ、別の方向へ転がる。追跡者は音を頼りに斬撃を飛ばしてきたが、俺のいた場所はすでにもぬけの殻だった。
「……終わりだ」
背後に回り込むと同時に、ミスティを振るう。
黒き刃が、奴の身体を深々と貫いた。
追跡者は動きを止め、胸元から黒い霧を噴き出す。
「やはり、お前は倒せない……だが、しばらく動けないはずだ」
追跡者は膝をつき、霧に包まれながら消えていった。復活には時間がかかる。
「……今のうちに、進むか」
俺は息を整え、闇の中を慎重に進んだ。
──そして、足元が消えた。
「……っ!?」
何が起こったのか理解する前に、俺の視界は一瞬で歪んだ。
全身が引きずり込まれるような感覚。次の瞬間、俺は別の場所へと放り出されていた。
「……転移か」
立ち上がり、周囲を見回す。
そこは地下10階の大広間とは異なる空間だった。
壁も床も天井も、無機質な金属で覆われている。
光源はなく、ほのかに青白い光が漂っているだけ。
「……ここは?」
どうやら、ランダムテレポーターの罠にかかったらしい。
俺が立っていた場所は、大広間のクリスタルの周囲。
おそらく、あのクリスタルの周囲には”転移の罠”が仕掛けられていたのだろう。
だが、通常の転移罠と違うのは──
「……ここ、地下10階じゃないな」
テレポーターの転送先は、このフロアではなく”独立した空間”だ。
つまり、ここは”ダンジョンの内部”ではなく、何か別の施設。
ふと、足元を見る。
俺が立っているのは、金属製の床。
その先には、ガラス張りのケースが並んでいる。
「……記録保管庫?」
中には、無数のデータ端末や書類のようなものが収められていた。
「エルゴスの……記録か?」
俺は慎重にケースに近づいた。
エルゴス──ダンジョンを支配する組織。
俺を幽閉し、実験を行い、追跡者を生み出した連中。
「こいつが何かの”証拠”になるかもしれないな……」
俺はケースの一つを開け、中にある端末を取り出した。
──その時。
警告音が響いた。
「……罠か」
直後、金属製の扉が開き、武装したエージェントが数名、こちらに向かってきた。
「記録保管庫に侵入者を確認──排除する」
「チッ……!」
逃げる暇はない。
俺は魔剣・ミスティを構え、迎え撃つことを決めた。




