【#41】地下11階・第四話:炎の果て
追跡者が俺と同じ技を繰り出す中、炎の海を挟んでの戦いは熾烈を極めた。
奴の剣から放たれる冷気が橋を凍らせ、俺の足元を奪おうとする。
「……やりにくいな」
俺は一歩後退し、回転する浮遊足場へと飛び乗る。
だが、追跡者もまた同じように跳躍し、俺の動きを完璧にトレースしてくる。
──いや、違う。
(コイツは”俺”を模倣している……なら、“俺”が予測不能な動きをすればいい)
俺はわざと不規則な動きをし、橋の端でバランスを崩したふりをする。
追跡者も即座に同じ動きをし──
「そこだ!」
ミスティを回転させ、橋を支えている要所を斬る。
橋は崩れ、追跡者が一瞬だけ宙に浮く。
「……しまった」
気づいた時には遅い。
俺はすぐさま《フロスト・エッジ》を発動し、炎の海へと飛び降りた。
──否、氷の橋を作りながら、足場にする。
「──お前の真似には、“発想の差”がある!」
追跡者は跳躍力を活かして戻ろうとするが、俺はその前にミスティを振り抜いた。
刃が氷の波を生み出し、追跡者の体を貫く。
「ぐっ……」
追跡者は霧のように消滅した。
だが、どうせ復活する。長居は無用だ。
俺は崩れゆく足場を駆け抜け、最後の橋を渡り切った。
──そして、目の前に現れたのは階段。
いつものように壁にはエルゴスの紋章が浮かび、青く光っている。
俺がその前を通ると、光は赤に変わった。
「……やっぱり、“見られて”いるのか?」
追跡者の発生装置なのか、ただの識別装置なのかはわからない。
だが、少なくともエルゴスがここを支配しているのは確かだ。
「なら、“奴らの支配”を壊すまでだ」
そう思い、足を踏み出した瞬間──
「九條蓮、ここは通さんぞ」
階段の上から聞き覚えのある声が降りてきた。
──エルゴスのエージェント。
階段の陰から現れたのは、黒い防護服に身を包んだ三人の男たちだった。
全員がライフルを構え、俺を狙っている。
「お前はここで終わりだ」
「さっきの戦いで消耗してるだろ。大人しく死ね」
「……どこが大人しい死に方だよ」
俺はミスティを構え、迎撃の体勢に入る。
先手を取ったのは敵の方だった。
轟音とともにライフルの銃弾が俺へと殺到する。
だが、俺は最初の一撃を見切り、足場を蹴って左右へ跳ぶ。
──回転床に乗った。
タイミングよく回転した床が、俺の体を敵の死角へと滑り込ませる。
「なっ……!」
背後を取った俺は、ミスティを逆手に持ち、最も近い敵の喉元を貫いた。
鋼鉄の装甲ごと裂かれ、男は短い悲鳴を上げて崩れ落ちる。気のせいか、ミスティが僅かに軽くなった。
「クソッ、こいつ──!」
二人目が拳銃を抜き、至近距離で発砲。
銃弾が頬をかすめるが、すでに俺は次の行動に移っていた。
──ミスティを振るい、弾丸を弾き返す。
銃弾はまるで導かれるように男の肩に突き刺さる。
「ぎっ……!」
怯んだ瞬間を逃さず、俺は腹部に蹴りを叩き込んだ。
内臓を破壊された男は、そのまま後方の炎の海へと落ちていく。
「バカな……」
最後の一人が恐怖に足をすくませた瞬間、俺はすでに彼の目の前にいた。
「次はお前だ」
ミスティを突き出し、心臓を貫く。
戦闘員は声を発する間もなく、倒れた。
──三人、排除。
俺は短く息を吐き、ミスティを振って血を払い落とした。ミスティの切れ味が増しているような気がするが、俺の集中力が研ぎ澄まされていたからか。
「さて、行くか」
もう邪魔者はいない。
俺は階段を上り、地下10階へと足を踏み入れた。




