【#30】地下13階・第一話:落ちる天井
階段を降りた瞬間、鈍い轟音が響き、空気が一気に張り詰めた。
目の前に広がるのは、奇妙に整った石畳の回廊。だが、そこかしこに床の模様が不自然に歪んでいる。——回転床か。さらに奥の天井は異様に低い。そして、壁には巨大な石の塊が等間隔に並んでいる。
「……落下する天井、ってわけか」
タイミングを誤れば圧死。慎重に進む必要がある。
俺は足元を警戒しながら、一歩踏み出した。
すると、頭上から、ギギギ……と不気味な軋み音。すぐに横へ飛ぶ。
直後、背後の天井が急降下し、地面を抉った。粉塵が舞い、石畳が砕ける。もしも反応が一瞬でも遅れていたら、今頃は肉塊になっていただろう。
「容赦のない罠だな。殺意の程が伝わってくるよ」
回転床と落下天井の組み合わせ。天井の下で足を取られたら、確実に潰される。慎重に進まざるを得ない……と思った矢先、後方の階段で重い足音が響いた。
「……来たか」
振り向けば、そこには”俺”がいた。
——追跡者。
今回は俺と同じ姿、同じ服装。そして、手にしているのは魔力を帯びた剣。しかも俺と違い、遠隔攻撃も可能ときた。
ニヤリと笑う”俺”。
その瞬間、青白い魔力の刃が飛来する。
俺は即座に床を蹴って回転床に飛び乗った。狙い通り、床がグルンッ!と勢いよく回転し、魔力刃の軌道がずれる。
「お前も乗ってみろよ。遊園地気分でな」
挑発するように床を蹴り、さらに奥へ。
——だが、そこで思わぬ事態が起こった。
暗がりの中、“俺”が踏み込んだ瞬間、天井が落ちた。
ドゴォンッ!!!
巨大な石が轟音とともに叩きつけられる。追跡者は即座に回避行動を取ったが、完全には避けきれなかったらしい。岩に肩を削られ、微かに膝をつく。
……なるほど。こいつも、罠でダメージを受けるのか。
ならば、使わない手はない。
俺は回転床の動きを読みつつ、意図的に危険エリアへと移動した。追跡者は即座に追ってくるが——そのたびに、天井が轟音とともに降り注ぐ。
回転床に乗る俺を狙い、魔力の刃を放ってくるが、床が不規則に回るせいで狙いが定まらない。
「どうした。調子が狂ったか?」
ニヤリと笑う俺。
追跡者は無言で剣を構え直す。表情はないが、その目がじわじわと敵意を増しているのが分かる。
——だが、俺の方が一枚上手だ。
次の一歩で、俺は”わざと”足元を滑らせた。狙い通り、回転床が激しく回り、俺の身体が大きく傾く。
当然、追跡者も同じ動きをする——その瞬間。
ゴゴゴゴッ!!!
天井が落ちる。
回避行動を取る時間はない。轟音とともに、“俺”の姿が岩の下に埋もれた。
……とはいえ、これで終わるとは思っていない。
俺はすぐにその場を離れ、先へ進む。どうせしばらくすれば復活してくる。ならば、無駄な戦闘は避け、ギミックを利用して進む方が得策だ。
先に進めば、出口への道が見えてくる。
——だが、その途中に、魔物の気配がした。
まだまだ、厄介な戦いは続きそうだ。




