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【#28】地下14階・第三話:魔物の破片

 鏡の破片が床に散らばる中、俺は新たな敵を見据えた。


 鏡の中に潜む魔物——“映し身の怪異”。


 黒い影のようなそれは、人の形をしているが、輪郭がぼやけている。

 まるで鏡の中に映った”俺”が、自らの意思を持って動き出したかのようだった。


「……おかしな奴が出てきたな」


 奴は鏡の破片から伸びるように現れ、ゆっくりと立ち上がる。

 その動きと同時に、周囲の鏡が揺らめき——


 ズルッ……!


 新たな”映し身”が、いくつも這い出してきた。


 ——一体じゃない。

 数十体の”俺”が、鏡の世界から現れ始めた。


「増えるのか……厄介にも程がある」


 鏡を壊して逃げ場を潰したつもりが、今度はそれが仇となったらしい。

 奴らは鏡の破片を”出口”として現れる。

 つまり、俺が壊した鏡の数だけ敵が増えている、ということだ。


「……だったら、まとめて消すしかないか」


 俺はミスティを構え、身を低くする。


「蓮、気をつけて。……奴らは”本物”じゃないけど、攻撃は通じるわ」

「問題ない」


 俺は一気に踏み込んだ。


 ——そして。


 鏡の中から現れた”俺”を、片っ端から斬り裂いた。


 ザシュッ! ザンッ!


 次々と黒い影が弾けるように霧散する。

 だが、その度に新たな影が生まれ、俺を囲むように広がっていった。


「クソッ、これではキリがない……!」


 このままでは、どれだけ倒しても増える一方だ。


「蓮……! 後ろ!」


 ミスティの声に反応し、俺はすぐさま振り向いた。


 そこには——


 俺と同じ顔をした”映し身”が、ミスティを模した剣を手に、俺を狙っていた。


「っ……!」


 とっさに身を反らし、相手の剣をギリギリで回避する。

 そのまま体勢を整え、ミスティを振り抜いた。


 ——しかし。


 俺の一撃は空を切った。

 “映し身”は、まるで蜃気楼のように揺らめき、再び鏡の中へと消えていったのだ。


「……攻撃を受ける前に、鏡へ戻る……か」


 厄介なことに、奴らは倒される寸前で”逃げる”。

 つまり、このまま戦っていても決定打にならない。


「……だったら、鏡ごと全部消すしかねぇな」


 俺は天井を見上げる。


 ——このフロアの”本体”は、壁や床にある鏡そのもの。

 この空間を成す”核”を破壊すれば、奴らの逃げ場は完全になくなるはずだ。


「ミスティ、力を貸せ」

「……ええ、やりましょう」


 ミスティの刃が、淡い光を放つ。

 俺は深く息を吸い込み——


「——失せろ!」


 全力でミスティを振り抜いた。


 ——刃が空間もろとも断ち切る。


 ガシャァァァァァンッ!!


 その瞬間、鏡の世界が砕けた。

 壁も、床も、天井も。

 全ての鏡が、一斉に砕け散る。

 映し身の怪異も、逃げる場所を失い、消滅していった。


「……終わったか」


 俺は静かに息を吐き出し、剣を収める。

 辺りには、もはや鏡は存在しない。

 追跡者の姿も、どこにもなかった。


 ——だが、違和感があった。


 俺の足元に、割れ残った”一枚の鏡”があったのだ。

 その鏡の中には、俺の姿は映っていなかった。


 代わりに映っていたのは——


 黒い影の”何か”。

 それはニヤリと笑うと、ゆっくりと消えていった。


「…………」


 俺は無言で、その鏡を踏み砕いた。

 嫌な予感が、胸の奥に残る。

 だが、今は先へ進むしかない。


 俺は静かに歩を進め、上階に通じる階段に向かった。

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