【#24】地下15階・第四話:落とし物
ダンスホールの狂騒がようやく沈静化した。
燃え尽きた魔物の残骸が溶岩の熱気に消えていき、骸骨たちはなおも踊り続けている。その向こう、ホールの奥には黒鉄の扉——エレベーターの入り口があった。
「……間に合わなかったか」
扉の向こうから、軋むような音が聞こえる。
シエナはもう、ここにはいない。
追跡者にエスコートされ、すでに別の階へと移動したのだろう。
俺はエレベーターの制御パネルに手を伸ばす。が——
バチッ!
目に見えない障壁が弾け、俺の指を拒んだ。
「……やっぱりな」
エルゴスが管理するエレベーターだ。そう簡単に使わせるわけがない。
俺は小さく息を吐き、ふと視線を落とす。
そこで、見覚えのあるものが落ちているのに気づいた。
小さな銀色のペンダント。
——シエナのものだ。
「……随分と、懐かしいな」
俺はそれを拾い上げ、掌にのせた。
古びた意匠のアクセサリーだった。中央には淡い青色の宝石がはめ込まれている。
俺がまだエルゴスの正体を追っていた頃、シエナがいつも身につけていたものだ。
「お前が落とすなんてな……らしくない」
彼女はこういうものを大切にするタイプだった。戦闘時でも決して手放さなかった。
それをここに落としていったということは——何かに気を取られていたか、あるいは、わざと落としていったのか。
「……」
試しに魔力を込めてみる。
瞬間、ペンダントが淡い光を放ち、俺の体を包み込んだ。
「っ、これは……!」
魔術的な防御結界が展開される。
かつてシエナが使っていた防御魔術。これがあれば、少なくとも一定のダメージを軽減できる。
だが、問題はそこじゃない。
——なぜ、シエナはこれを残していった?
これはエルゴスの戦闘員として動いている彼女には、貴重な防御手段のはずだ。
捨てていく理由がない。
「まさか……」
俺はペンダントを見つめる。
シエナが俺に何かを伝えようとしていたのか?
それとも、単なる偶然か——
考えても答えは出ない。
「……使えるものは使わせてもらおう」
ペンダントを首にかけ、俺は扉に背を向けた。
今はエレベーターに乗る手段がない。
ならば、やるべきことは一つだ。
——階段を探し、地上へと進む。
俺はダンスホールを後にし、新たな戦場へと歩を進めた。