【#23】地下15階・第三話:地獄の舞踏会
——踊れ。地獄の舞踏会で。
俺は剣を構え、真紅の甲殻を持つ《ヘル・スコルピオン》と対峙した。
溶岩の熱気が肌を焼く。背後では半透明の骸骨たちが、狂ったリズムで踊り続けている。
だが、今この場で最も危険なのは、骸骨でも溶岩でもない。
——この巨大なサソリ型の魔物だ。
「蓮。この魔物は非常に高い斬撃耐性を有します」
「……それでも、やるしかないだろう」
ガキン!
鋭い爪が床を抉る。ゆっくりと間合いを詰めながら、鎌のような腕を振り上げた。
「ッ!」
俺は横に飛び、寸前で回避する。だが、直後——
バシュッ!!
魔物の尾がしなり、鋭い毒針が一直線に飛んできた。
——避けきれない。
とっさに剣を盾にして受ける。
ギィィン!!
強烈な衝撃が腕を痺れさせる。毒針はミスティに弾かれ、床を貫いた。
「っ……クソ、パワーもスピードも桁外れだ」
《ヘル・スコルピオン》は溶岩の中を移動できるため、機動力が尋常じゃない。さらに、甲殻の防御力が異常に高く、生半可な攻撃では傷すらつけられない。
——だが、ここはダンスホールだ。使えるものは全て使う。
俺は一歩踏み込み、魔物の懐に入り込んだ。
「ミスティ、斬るぞ!」
「了解」
剣を振り下ろす——が。
カキン!!
斬撃は魔物の甲殻を滑り、浅い傷しかつけられなかった。
「やはり……硬いな」
俺が後退するより早く、魔物の巨大な爪が迫る。
「——ッ」
飛び退いた瞬間、背後の骸骨に触れそうになった。
——ここで触れれば即死だ。
俺は咄嗟に体勢を崩し、ぎりぎりで回避する。
その時、思考が閃いた。
——待てよ。
この骸骨、触れた者にダメージを与えるんだったな?
ならば——魔物にも効くのか?
俺は息を整え、足元のリズムを変える。まるでこのダンスホールの主役であるかのように、一歩ずつ慎重に動いた。
「来いよ」
《ヘル・スコルピオン》が再び鎌を振りかぶる。
——その一撃を、俺は回避しなかった。
「……っ!?」
魔物の鎌が振り下ろされ、俺の身体を狙う。だが、直前で俺は足元をずらし——
——骸骨の方へ飛び込んだ。
鎌の勢いのまま、魔物の爪が骸骨に触れる。
バシュッ!!
骸骨が光り、瞬時に炎が爆発した。
「ギギャァァァァ!!」
《ヘル・スコルピオン》が絶叫する。
——なるほど、効くじゃねえか。
俺は素早く距離を取りながら、魔物の甲殻が黒く焦げているのを確認する。
「どうやら、このホールのルールはお前にも適用されるらしいな」
——ならば、踊るしかないだろう。
俺はさらに骸骨の密集した場所へ移動し、《ヘル・スコルピオン》を誘い込む。
魔物は怒りに燃えながらも、俺を追ってくるしかない。
そして——
ズシャァ!!
また一撃、また一撃と、魔物自身の攻撃が骸骨に触れるたびに、炎が魔物の身体を焼いた。
「ギシャァァァ!!」
最後の悲鳴を上げながら、《ヘル・スコルピオン》は炎に包まれ、ゆっくりと崩れ落ちた。
……勝った。
だが、まだ終わりじゃない。
俺は溶岩の向こう、ホールの奥にある階段を見据えた。
——シエナ。
「……逃げ切れると思うなよ」
静かに呟き、俺は次の戦場へと足を踏み入れた。