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【#21】地下15階・第一話:死霊のダンスホール

 階段を登りきると、熱気が肌を焼いた。


 視界が開けた先には、広大なホール。

 天井は見えないほど高く、壁はどこにもない。その代わり、足元から広がるのは、真っ赤に煮えたぎる溶岩の海だった。

 だが、それ以上に異様だったのは、その中心にある巨大なステージだ。


「……なんだ、これは……」


 煌びやかなシャンデリア、赤いベルベットの幕、そして……ドレスやタキシードに身を包んだ骸骨たち。

 骸骨たちは音のない音楽に合わせ、優雅に踊っている。その全身は青白く、うっすらと透けていた。


 ——死霊のダンスホール。


 攻撃を仕掛けるつもりはないらしく、俺を見ても何の反応も示さない。だが、それは好都合とは言えなかった。


「果たして本当に無害なのか、確認した方が良さそうだな」


 俺は軽く息を吐き、床に落ちていた小石を拾って投げる。

 石はステージに転がり、すぐそばの骸骨に触れた——瞬間。


 ジュッ、と音を立てて蒸発した。


「触れただけでダメージ、か」


 実体があるのかないのか、よく分からないが……厄介なことには違いない。


 だが、それ以上に気になるものがあった。


 ステージの中央に、見覚えのある女がいる。

 エルゴスの戦闘員を背後に従えた、若い女——


「……シエナ」


 薄いピンク色のウェーブのかかったロングヘア。短く切り揃えられた前髪、大きな水色の瞳。

 そして、俺と一緒に買いに行った、赤いドレス。


「久しぶりね、蓮」


 シエナは微笑みながら、ゆっくりと俺を見つめた。


「……テメェ」


 無意識に拳を握る。

 こいつの裏切りが、すべての始まりだった。


「何をそんなに怒ってるの? お互い、もう別の立場なのよ」

「もう、だと? 最初から、の間違いだろう」

「ずいぶんと薄情なことを言うのね。人との縁は大切にしなさいって、教わらなかったの?」


 こいつとの縁なんざ、悪縁以外の何ものでもない。

 しかし、シエナの声は、どこか楽しげだった。


 ——そして、俺の横に気配。


「……」


 気づいた時には、すでにそこにいた。


 黒いスーツに開襟シャツ、癖のある茶髪を一つに束ね、顎ひげも見栄え良く整えた男。


 追跡者。


 だが、今回はいつもと様子が違う。

 身なりの良さもさることながら、追跡者は俺に向けて武器を構えようとはしなかった。その視線は俺ではなく、シエナへと向けられている。


「……おい」


 俺が一歩踏み出そうとすると、追跡者は超越的なジャンプ力で死霊の輪を飛び越え、シエナのそばに着地した。そしてシエナの腕を取る。


「エスコートの時間ね」

「ああ。君に危害を加えかねない男が来たからね。安全な場所までご案内しよう」


 シエナは軽く肩をすくめると、優雅な足取りでステージの奥へと向かう。

 そして、その先にあるのは——


「エレベーター……」


 黒い扉に、青く光るエルゴスの紋章。

 あのエレベーターに乗られたら、追うことは不可能になる。


「待て、シエナッ!」


 床を蹴った瞬間、骸骨たちが一斉にこちらを向いた。

 無表情のまま、スッと手を伸ばしてくる。


「クソッ!」


 素早く後ろに跳び、間一髪で回避。

 すぐにミスティを構えるが……


「蓮、警告します。攻撃は無意味です」


 わかってる。だが、このままじゃシエナを逃がすことになる——


「じゃあ、またね」


 シエナは楽しげに笑い、エレベーターに乗り込んだ。

 追跡者もその後に続く。


 ——そして、扉が閉まる。


「……待てッ!」


 咄嗟に手を伸ばしたが、シエナには届かない。


 死霊たちは何事もなかったかのように踊りを再開し、ステージは再び静寂に包まれた。

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