【#20】地下16階・第四話:紋章の謎
森を抜け、静かな空間へと踏み込む。
枝の動きは止まり、背後からの脅威はひとまず遠ざかった。
だが、まだ安心はできない。
「ミスティ、追跡者の動向はどうなっている?」
「接近は一時停止。環境適応のため、しばらく動きを抑制しています」
「つまり、すぐには追ってこないということか」
ならば、この隙に前へ進むしかない。
俺は周囲を見渡し、先へ続く道を探した。
森の出口からしばらく進むと、石造りの階段が見えてきた。
「……ようやくか」
16階から15階へ——ダンジョンを進むための階段。
だが、それだけではなかった。
「……またか」
階段の横の壁に、見覚えのある紋章が刻まれている。
エルゴスの紋章。
青白く光るその印は、まるでここが彼らの管理下であることを示しているかのようだった。
「15階に進めば、また色が変わるんだろうな」
今までもそうだった。階を移動するたびに、紋章の色が変わる。
普段は青。俺が通ると、赤。
——それは何を意味している?
考えたくもない可能性が、脳裏をよぎる。
「……まさか、こいつが“発生装置”ってことはないよな」
追跡者の出現条件は、ダンジョン内でエルゴスの意に反する行動を取ることだった。
ならば、俺が階段を通るたびに色を変えるこの紋章が、奴を召喚する“装置”になっている可能性もある。
「ミスティ、紋章の魔力を調べろ」
「了解。解析を開始します……」
人間形態を取ったミスティの瞳が淡く光る。
「……魔力の痕跡を確認。ただし、発生源は不明です」
「そうか。やはり……」
紋章には何かしらの仕掛けがある。だが、具体的にどう機能しているのかはわからない。
それでも、一つだけ確実なのは——
『エルゴスは、俺の動きを監視している』
そう考えるのが自然だった。
俺が階を移動するたびに紋章が反応し、追跡者が出現する。
となれば、今後の行動次第では、さらに厄介な敵を呼び寄せる可能性もある。
ここまできて引き返すつもりはないが、これ以上“奴らの手のひらの上”で踊らされるのも癪だった。
「ミスティ、15階に行くぞ」
「承知いたしました」
ミスティが再び剣の姿に戻る。
俺は紋章を睨みつけながら、ゆっくりと階段を登る。
——その瞬間、壁の紋章が青から赤へと変わった。
まるで、俺の動きを“報告”するように。
だが、今は止まっている暇はない。
俺はそのまま、15階へと足を踏み入れた。