【#18】地下16階・第二話:絡みつく枝
追跡者の刃を弾いた瞬間、周囲の枝が一斉に襲いかかってくる。
——まずい。
この森にいる限り、俺の動きを封じるように魔物の枝が絡みついてくる。まともに立ち回れる状況ではない。
「……クッ!」
瞬時に身を屈め、最も太い枝の攻撃を回避する。同時にミスティを振り抜き、迫り来る細い枝を両断した。手応えはあるが、完全に切り裂くには至らない。やはりこいつらの防御力は異常だ。
——ガギィンッ!
俺が枝の攻撃をかわした直後、鋭い金属音が響く。
見ると、追跡者の短剣が魔物の枝とぶつかり、弾かれていた。
「……なるほど」
こいつらの防御力は、俺だけでなく追跡者にとっても厄介らしい。となれば、この森のギミックを利用しない手はない。
俺は素早く周囲を見渡し、枝の動きが少ない隙間を見極める。
「森を突っ切る。ミスティ、誘導してくれ」
「了解しました」
感情のない声が返るのを確認し、俺は即座に前方へ駆け出した。
——シュバッ!
追跡者が空を蹴り、一瞬で俺の真横に並ぶ。
速い。しかも短剣のリーチを活かし、俺の動きを先読みするように攻撃を繰り出してくる。
「クソ……!」
右へ回避すると、待ち構えていたかのように魔物の枝が俺の足元を狙う。跳躍してかわすと、今度は上から別の枝が振り下ろされてきた。
この階の構造は明らかに俺の動きを封じるようにできている。しかも、追跡者の機動力がそれをさらに厄介にしている。
——ならば、逆に利用するしかない。
俺は一瞬、追跡者の動きを観察する。
こいつは俺の行動をコピーし、最適な攻撃手段を選んでくる。つまり、俺が追跡者の進行ルートを意図的に作り、魔物の枝にぶつかるように仕向ければ——。
「……来い。こっちで相手をしてやる」
俺は森の奥へと跳び込む。
追跡者は即座に反応し、俺を追う。短剣を構え、致命傷を狙うように一直線に接近してきた。
しかし、その瞬間——。
「——ッ!」
俺が踏み込んだ場所の枝が、突然、四方から勢いよく収束する。
追跡者の動きが鈍る。足を止めたその一瞬の隙を逃さず、俺は渾身の一撃を叩き込んだ。
「はぁっ!!」
ミスティの刃が追跡者の胴を斬り裂く。
——ドシャッ!
追跡者が後方へ吹き飛ばされ、枝の群れに飲み込まれる。すぐに起き上がろうとするが、無数の枝が絡みつき、逃げ場を奪っていた。
「……よし」
追跡者は不死身だが、ダメージを受ければ回復に時間がかかる。今のうちにこの森を抜けなければならない。
「行くぞ、ミスティ」
「了解」
俺は息を整え、再び前へと走り出した。
地下16階の攻略は、まだ始まったばかりだ。