【#11】地下18階・第三話:逆転の一手
息を整える間もなく、追跡者が迫ってくる。
回転床の上でもバランスを崩さず、曲刀を低く構え、まるで獲物を狙う獣のような動き。俺と同じ戦闘スタイルをコピーしているはずなのに、奴はまるで違う生き物のように感じる。
「……お前、また成長したな」
「当然だ。貴様を殺すために生み出された存在だからな」
奴はゆっくりと剣を振る。黒い刃が僅かに波打ち、霧のようなものを発する。
「今度は剣も似せてきたか。効果のほどもコピーしたのか?」
「試してみるか?」
そう言いながら、奴は一瞬で間合いを詰める。
「……ハッ、遠慮させてもらうよ」
俺はすぐに後退するが、奴の動きは明らかに速くなっている。
もしかすると、こいつは戦闘経験を重ねるごとに身体能力そのものも向上しているのかもしれない。
「蓮、テレポーターを利用してはどうでしょうか」
ミスティが淡々と助言を送ってくる。
「ああ、そうだな。悪くない」
俺は視線を巡らせ、床に埋め込まれた赤い魔法陣を探す。
このギミックは敵味方問わず転送するが、どこに飛ばされるかは完全にランダム。下手をすれば、自分だけが不利な位置に飛ばされる可能性もある。
しかし、使いようによっては逆転の一手になり得る。
「その剣、まさか……似てるのは見た目だけじゃないだろうな?」
俺は追跡者を挑発しながら、テレポーターの床へと足をかけた。
そして——
「——飛べ!」
赤い光が弾け、視界が一瞬歪む。
身体が無重力状態になり——気づけば、俺は別の通路に立っていた。
「……成功か?」
周囲を見渡す。すぐ横には巨大な岩柱がそびえ立ち、背後には広大な空間が広がっていた。
地下18階はこれまでの階層よりも圧倒的に広い。天井も高く、もはや地底の都市のような雰囲気さえある。
そして——
「ギャアアアアア!」
甲高い咆哮が響いた。
前方の通路の奥から、群れを成した魔物が現れる。
赤い目を光らせ、剣のような腕を持つ二足歩行の魔獣——カッターリザードだ。
「……これは、やるしかねえな」
ミスティを構え、ゆっくりと息を吐く。
テレポーターで追跡者を引き離せたのは一時的なもの。どうせ奴はすぐに俺を見つける。ならば、今のうちにこの魔物どもを片付けておくのが得策だ。
「やるぞ、ミスティ」
「了解」
俺は一気に駆け出した。
最前列のカッターリザードが大きく腕を振りかぶる。
「遅い!」
俺は身を沈め、刃をかわしながらミスティを横薙ぎに振る。
ズバァッ!
一閃でカッターリザードの胴が両断され、黒い血が飛び散る。
「エナジードレイン、発動しました」
ミスティが囁くと同時に、俺の肩口の傷がみるみるうちに塞がっていく。
「……いいね。最高の気分だ」
エナジードレインの回復効果は健在だ。これなら多少の傷は問題にならない。
しかし、敵はまだ十体以上いる。
「まとめて来いよ!」
俺は剣を両手で持ち、カッターリザードの群れへと突っ込んでいった——。