表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/98

【#10】地下18階・第二話:追跡者の変化

 獣のうなり声が響く。

 前方には装甲獣三体、背後には俺の偽者——追跡者。そして周囲には回転床とテレポーターの罠。

 この状況をどう崩すかが鍵だ。


「……いつでも来い。相手になってやる」


 俺は前方に向かってゆっくりと歩を進めた。敵に包囲されている状況で無暗に動けば、それこそ袋の鼠だ。だが、敵は俺がそう考えると見越してじりじりと距離を詰めてくる。


 装甲獣は筋肉質な四肢を緊張させ、いつでも突進できる体勢を取っている。


 そして——追跡者は、無言で俺を見つめていた。地下19階に現れた奴とは異なり、その目には意志が宿っている。


「お前、今度はその剣か……」


 前回までの奴は、俺の肉体能力とスキルを完全にコピーしていたが、武器は持たなかった。しかし、今は違う。黒く禍々しい曲刀が奴の手の中でゆっくりと揺らめいている。


 ミスティが微かに振動した。


「……剣まで真似てくるなんて。不快だわ」

「お前が感情を表に出すとはな」

「あれは模造品よ。私とは似ても似つかないけれど……表層的な性能の一部を模倣している」

「つまり、あれもエナジードレイン効果を持つ可能性があるってことか」

「ええ。そうよ」


 それは厄介だ。今まではミスティの回復能力で押し切れた場面もあったが、もしあの剣が敵を斬って自己回復するタイプだった場合、一進一退の消耗戦になりかねない。


 いや、待てよ……。


 俺は足元に目をやる。目の前には赤く光るテレポーターの床。そしてその先には回転床が広がっている。


「試してみるか」


 俺は装甲獣を挑発するように軽く剣を振った。


「こいよ」


 瞬間、三体の装甲獣が突進してきた。

 地響きが起こるほどの圧力。それぞれが鋭い角を突き出し、俺を串刺しにしようと突っ込んでくる。


 しかし——


「遅いな」


 俺は寸前で横に跳び、回転床の端へと飛び乗った。


「グルルッ!?」


 装甲獣たちは止まれない。そのまま勢いよくテレポーターの床を踏みつけ——次の瞬間、赤い光と共に奴らの姿が消えた。


 ——成功だ。


 装甲獣はどこか別の場所へ飛ばされた。これでまず三体を無力化。


 残るは——


「……やるな」


 追跡者が低く呟いた。


「テレポーターを利用したか。だが、それが通じるのは魔物だけだ」


 奴は冷静に回転床を避けながら、ゆっくりとこちらに歩を進めてくる。俺の真似事のくせに、生意気なものだ。


「さて、どうする?」


 俺は剣を構え直した。

 追跡者は慎重に間合いを測りながら、曲刀を構えている。

 俺が先に動けば、奴は確実にそれをトレースしてくる。ならば——


(動く必要はないな)


 俺は自ら回転床の中心に立ち、奴を誘った。

 回転床に入れば、バランスを崩すのは不可避。たとえ俺の動きをコピーしていたとしても、ここは地形を利用した戦いになる。


「……なるほど」


 追跡者の口元が微かに歪んだ。


「貴様、俺を試しているな」

「試すも何も、俺はお前のオリジナルだぞ?」

「ならば証明してみろ」


 奴は回転床に踏み込んだ。

 瞬間、床が回転し、奴の体勢がわずかに崩れる。


「——そこだ」


 俺は踏み込み、全力で斬りかかった。

 追跡者の曲刀がそれを迎え撃つ——が、バランスの崩れた奴に俺の一撃を完全に防ぐことはできない。


 ガキィィィンッ!!


 俺の斬撃が奴の肩口を斬り裂いた。


「ぐっ……!」


 追跡者はよろめきながら後退する。傷口から黒い霧のようなものが立ち上る。やはりこいつは普通の人間ではなく、何らかの再生能力を持っているようだ。


「蓮、追い打ちを」


 ミスティの声が響く。


「ああ、分かってる」


 奴が回復する前に仕留める——


 だが、その時だった。


 ——ガシャンッ


 遠くの通路で、何かが開く音がした。


 俺は一瞬、そちらに視線を向ける。


 すると——


「——!」


 追跡者が、一瞬で間合いを詰めてきた。


 曲刀が閃く。


 俺は咄嗟に身を翻し、辛うじて斬撃を避けたが、肩口を浅く切られた。


「クソッ……」


 傷は浅い。しかし、奴の動きは以前より洗練されている。

 学習し、進化している。


「これは……面倒なことになったな」


 俺は改めて剣を構え直した。


 勝負はまだ、これからだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ