表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/99

プロローグ:奈落に堕ちた最強

 ——暗闇の中で目を覚ました。


 視界がぼやける。冷たい石の床に横たわったまま、思考を巡らせる。俺は……なぜここにいる?


「……またか」


 口をついて出た声は、呆れとも諦めともつかない感情を帯びていた。何度目だろう、この絶望的な目覚めは。


 俺の名は九條蓮。かつて、“Sランク覚醒者”と呼ばれた存在だ。覚醒者とは、この異形の世界で生き残るために選ばれた者たち。力を持ち、戦い、ダンジョンを攻略する者たちのことだ。


 だが今の俺に、その栄光はない。


 身を起こし、周囲を見渡す。相変わらず、ここには何もない。石壁に囲まれた閉鎖空間。天井のない暗闇。微かに響く、遠くで蠢く何かの気配。


 俺は——ダンジョンの地下20階に幽閉されている。


 地上へ続く出口はない。食料も、水も、まともな休息すら許されない。いるのは俺と、絶え間なく襲い来る魔物たちだけ。


 これが俺に与えられた”処刑方法”。


「生き延びるか、喰われるか」


 エルゴス。地上を支配する狂気の組織。俺は奴らに裏切られ、この奈落へと突き落とされた。かつて世界を救う英雄の一人だったはずの俺が、今や地上に存在しない者として扱われている。


 ……だが、それも今日で終わりだ。


 俺はまだ、死んでいない。


 左手にそっと力を込める。指先に馴染む感触があった。


「……ミスティ」


 名を呼ぶ。

 応える声はない。


 代わりに、闇の中で光が生まれる。

 青白い淡い光が渦を巻き、人の形を成していく。


「……蓮、戻りました」


 感情のこもらない声が響く。

 現れたのは、プラチナブロンドの長い髪の女。

 無表情のまま、冷たい瞳で俺を見つめる。


 ——意思を持つ魔剣、ミスティ。


 彼女は俺の”武器”だ。

 本来の姿は剣。しかし、人の姿を取ることもできるし、空気に溶け込むこともできる。そして、どれほど離れても契約者のもとに戻ってくる。

 その特性のせいで、エルゴスの連中は彼女を没収できなかった。


 ……間抜けな話だ。

 手ぶらで投獄されたと見せかけて、俺は最強の武器を確保していた。


「状況は?」

「私の感知範囲内に、生存者の反応はありません」


 常人ならば絶望するだろう。

 しかし——


「俺を幽閉するには、場所が悪すぎたな」


 ダンジョンの底。

 無数の魔物が跋扈ばっこし、無限に戦うことができる場所。


 それはつまり——


「ここは、俺がどれだけでも強くなれる環境ってことだ」

「蓮、体調は? 戦闘に支障があるのなら……」

「問題ない。むしろ、久々に剣を振れるのが楽しみだ」


 ミスティの姿が揺らぎ、黒い光が収束する。俺の手の中に、一本の剣が現れた。漆黒の刃を持つ魔剣——俺の唯一の相棒。こいつがいる限り、俺は死なない。


 ——この剣とともに、俺は地上へ戻る。


 地獄の底から這い上がり、全てを破壊するために。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ