表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

「知らない」という幸せ

作者: てりやき

 こんな実験がある。

「まずボタンを押すと必ず餌が出てくる箱をつくる。

 それに気がついたサルはボタンを押して餌を出すようになる。

 食べたい分だけ餌を出したら、その箱には興味を無くす。

 腹が減ったら、また箱のところに戻ってくる。

 ボタンを押しても、その箱から餌が全く出なくなると、サルはその箱に興味をなくす。

 ところが、ボタンを押して、餌が出たり出なかったりするように設定すると、サルは一生懸命そのボタンを押すようになる。

 餌が出る確率をだんだん落としていく。

 ボタンを押し続けるよりも、他の場所に行って餌を探したほうが効率が良いぐらいに、餌が出る確率を落としても、サルは一生懸命ボタンを押し続けるそうだ。

 そして、餌が出る確率を調整することで、サルに、狂ったように一日中ボタンを押し続けさせることも可能だそうだ」


 さて、これは今で言うパチンコになるのだが、ここではもう少し、先の話をしようと思う。


 ある施設では、とある事情によって、人間が合法的に殺されている。

 世界各地に点在し、中には年間で千人以上が亡くなっている場所もあるそうだ。

 ちなみに、戦場のことではない。そこは、「人を殺す」という明確な目的を持った施設。

 ……おっと。そう怖がりなさんな。

 少々言い方が悪かった。その施設とは、刑場。死刑を執行する場所のことだ。

 近年では、この死刑を執行する、所謂「死刑執行官」という人種が少し社会問題になっている。というのも、彼らは「人を殺した」という罪悪感に依って、強烈なストレスを抱えてしまうのだ。

 そこで今回、私は、パチンコをその施設に設置したらどうだろうかと考えた。

 具体的に説明していこう。

 パチンコのシステムは基本的に変えず、皆様ご存知の、お金を投入し、ボタンやハンドルを操作して、確率で大金を獲得することが出来る、というもの。

 ただ、ここに一つ、あるものを追加する。

 それは、ボタンを、死刑執行のトリガーと接続する回路。

 パチンコを楽しむ人たちは、一人当たり何百、何千と操作を行う。パチンコ施設全体のハンドルやボタンを回路と接続すれば、毎秒何十回という入力が見込める。

 そして、事故防止のため、普段は接続を切断しておき、赤外線センサーを用いて人を感知することで、必要な時にだけ入力を受け付けるようにする。

 こうすることで、ストレスの根源である「人を殺す」というプロセスを、自動化することが可能なのだ。

 効率的だとは、思わないだろうか。


 え?

 非人道的?

 果たして、本当にそうだろうか。

「非人道的」

「倫理観に欠ける」

 それは、パチンコ屋のボタンが死刑執行ボタンに繋がっていると、()()()()()から出てくる台詞ではなかろうか?

 何も知らなければ、殺す側も、殺される側も、そんなこと思わないはず。

 でも確かに、非人道的かはさておき、知る権利が無いというのは、人権侵害になるかもしれない……

 じゃあ、処刑場とパチンコ屋を、ガラスで隔ててみますか。私は個人的に、こちらの方が非人道的だと思いますが、こうすることで、最低限、お互いの状況を()()権利が生まれます。

 ただ、その先のことを、よく考えてみてください。

 何百と居るパチンコ中毒者は、まさか、自分が押したボタンによって死刑執行が行われているとは思わない。それどころか、ガラスの先に見える景色が、現実であるとすら認識できない人が殆どでしょう。

 一方で、執行される側は、処刑場にパチンコ屋が隣接していることや、それがガラス越しで見えることに、疑問を抱き、真っ当な理由を探し始める。

 そうして、ある者は気づく。

 もしかすると、パチンコを打つことで、自分が死ぬシステムなんじゃないか、と。

 そうして、彼らは泣き叫んで訴え始めるだろう。打つのをやめろ。気づけ。こっちを見ろ。助けてくれ。

 でも、それを見てパチンコをやめる人間は、多くても数人。

 当然だ。

 そもそも、周りが見えている人間は、パチンコなど打たないだろう。

 仮に、百人に一人、その現実が見えている人が居たとしても、その一人はきっとこう言うだろう。

「気分が悪くなるから、このガラスを普通の壁にしてくれ」と。


 パチンコを打つ人たちにとって、そのガラスは害にしか成り得ない。なぜなら、彼らはただ、遊んでお金を得たいだけなのだから。

 例えば誰かが助けを求めていても、無視することで、その現実から逃げる。その方が、なんの罪悪感も無く楽しめるから。

 ……残酷でしょうか?

 サルに同じ様なことをさせたら、ボタンを押すのを止めるかもしれませんね。そういった点では、人間の方が圧倒的に残酷な生き物でしょう。

 けれども、目の前のストレスから逃げることが間違った行動である、ということではない。危機を察知する行為は、人間の生まれ持った自己防衛本能に由来するものなのだから。

 私が言いたいのは、時として、真実と向き合うことは、()()()()()生きていく上では必要不可欠だ、ということ。たとえ残酷だったとしても、真実から目を背け続ける行為は、パチンコ中毒者の思考放棄と何ら変わりないのだ。

 考えること。

 特に、自分が笑っている時、喜んでいる時、その快楽を、疑うのだ。

 大概、幸せというものは、何かの犠牲の上でしか成り立たないのだから。

参考

・https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1156849921

サル完全に破壊する実験について ---- Yahoo知恵袋


 友達と「知らない幸せ」について議論になったので、こんな話を作ってみました。

 ハッピーエンドの方が読者の方々にウケが良いっていうのは、分かってはいるんですけど、いかんせん苦手というか……

 最終的に哲学みたいになっちゃうんですよね。

 ハッピーエンドには、次の短編でトライします。多分。

 それでは、おやすみなさい〜

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
これは・・ 小説?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ