14話「見えざる鎖」
オークション会場に足を踏み入れた瞬間、カイは周囲の異様な空気を感じ取った。天井の高いホールには豪華な装飾が施され、煌びやかなシャンデリアが会場全体を優雅に照らしていた。壁には芸術的な絵画や彫刻が飾られ、ここがただの商取引の場ではないことを物語っている。場内には見るからに富豪だとわかる男たちが、奴隷や部下、護衛を従えて悠々と歩き回っていた。身にまとっている豪華な衣服や、周囲に従わせている人々の服装が、彼らの身分を物語っている。
カイとロウは、そんな富豪たちの間を縫うように歩いていく。ロウは軽く口笛を吹きながら、会場の雰囲気を楽しんでいる様子だった。
「おいおい、すごい所に来たな。ここに集まる連中は金持ちばっかりだぜ。見るからに成金って感じだ」とロウが軽い口調で呟く。
カイたちが空いてる席に座ると、会場の奥から低い音が鳴り響き、オークションが始まることを告げる鐘の音が響いた。司会者が壇上に上がり、声を張り上げて観客に呼びかけた。
「本日は皆様、お忙しい中お集まりいただき、誠にありがとうございます。バルテア屈指のオークションへようこそ! 本日は非常に希少な品々を取り揃えております。まずは、こちらをご覧ください!」
司会者が手を振ると、豪華な宝石が飾られたテーブルが運ばれてきた。宝石は鮮やかな輝きを放ち、会場の富豪たちは早速その価値を測り、目を細めて価格を競い始めた。次に現れたのは、巨大な鳥型の魔獣が捕らえられた檻。魔獣は檻の中で荒々しく動き、見物客たちを威圧していた。それを見て一部の富豪たちが喜びの表情を浮かべ、値段を競っていた。
そして、次に運ばれてきたのは、奴隷たちだった。元貴族であった女性たちは、衣装を着せられ、富豪たちに品定めされるかのように並べられていた。また、元海賊という戦闘奴隷も出品され、彼らは鋭い目つきで客を睨みつけていたが、首には頑丈な鎖がついており、その力を封じられていた。カイはその光景を見て、無意識に拳を握りしめた。自分がかつて、帝国に見つかっていたら、ここにいる奴隷たちと同じ運命を辿っていたかもしれない——そう思うと、胸の奥に不快感が湧き上がるのを抑えられなかった。
ロウはそんなカイの様子に気づいたが、あえて何も言わず、会場を見渡しながら話しかけてきた。「そういえば、まだあんたの名前を聞いてなかったな。旦那、なんて名前なんだ?」
カイは少しの間沈黙し、視線をロウに向けた後、静かに答えた。「カイ・ヴァルムンドだ」
「カイ・ヴァルムンド、か……覚えておくよ」とロウは軽い笑みを浮かべながら答えた。
その時、司会者の声が再び響き渡った。
「そして次に登場するのは、特別な一品! 古代文明アルヴァンドの遺物、戦闘用の武具『トリウムの刃』だ!」
カイの目がその言葉に反応し、壇上を見上げた。壇上に運ばれてきたのは、細長い刃の武具だった。刃全体が黒く光り、握りには古代の文字が刻まれている。それだけでなく、刃の部分には微かに魔力が宿っているのが感じられた。
「この『トリウムの刃』は、古代文明アルヴァンドの技術によって作られた、戦闘用の遺物です!その刃は魔力を通すと振動し、一度触れれば鋼さえも切り裂く力を持つ一品です!さあ、いかがでしょうか!?」
富豪たちがどよめき、値段を競り合い始めた。その中で、カイは無意識に息を止め、目の前の刃に引き寄せられるかのように見入っていた。
「さぁどうする?カイ」
「どっちみち俺の財布じゃ落札できない。それに、確かにすごい遺物だが、とても帝国の手がかりになるとは思えない」
「なんだ、カイは帝国の手がかりを探してんのか?」
ロウそう言うと、カイは一瞬しまった、という顔をしたが、すぐに気を取り直した。
「500万ベル」
すると、カイたちの斜め後方から声が上がった。見ると、豪華な指輪やローブを着た、髭を生やした中年の男が足を組みながら手を挙げていた。男の体は程よく引き締まっており、ただの富豪というよりかは盗賊や傭兵に近い雰囲気を感じた。
「500万ベル出ました!さぁこれ以上の金額を出す方はいらっしゃいますでしょうか!」
司会の男が興奮気味に話す。
「いないようなので、52番の方、500万ベルで落札です!」
男は不敵な笑みを浮かべ、部下になにか話している。
「あいつは誰だ?」カイが低い声でロウに問いかける。
ロウはその方向を一瞥し、すぐに少し声を潜めた。「あいつには関わらない方がいい」
「なぜだ?」カイは興味を持ち、もう一度その男を観察する。
ロウは少し眉をひそめながら説明を続けた。「あの男はブルーノ・ドランゴ。この辺り一帯を仕切ってるギャング、ドランゴファミリーのボスだ。名前くらいは聞いたことがあるだろう?遺物を使って戦力を増強し、それを元に傭兵の真似事や、暗殺、脅迫なんかで金を稼いでる。遺物の取引にも手を出しているって噂だ。まともな商売なんてしてない連中さ。」
カイはその言葉を聞いて、再びブルーノを観察した。全くもって初耳だったが、確かに彼の周りには、ただの護衛ではない、見慣れない装備を身につけた屈強な男たちが複数立っている。まるで戦場に送り込まれた兵士のような緊張感を漂わせていた。
しかし、カイの視線がふとブルーノの隣にいる人物に向かうと、一人の少女が目に入った。緑の髪が特徴的で、年は若く、背中を丸めてブルーノの後ろに控えている。年齢はエリーと同じくらいだろうか。彼女は首輪を付けられており、一見して奴隷であることがわかる。
「……あの少女は?」カイがロウに尋ねた。
ロウも目で確認し、ため息をつきながら答えた。「ああ、奴隷だろうな。ドランゴファミリーは、奴隷も扱っている。何でも、力のある奴を集めて訓練し、戦力にしてるらしい。あの子も、いずれ戦闘奴隷として使われるか、別の目的で売り飛ばされるかだろうな……」
カイは目を細め、少女の様子をじっと見つめた。彼女は完全に服従させられている様子で、ブルーノの命令に従うしかないという立場が明白だった。カイの胸に再び不快感が募り、かつて自分がそうなっていたかもしれないという過去の記憶がよぎる。
「お前、奴隷をどう思う?」カイがふとロウに問いかける。
ロウは少し驚いたようにカイを見つめ、肩をすくめた。「俺は商人だ。金儲けはするが、奴隷を扱うような真似はしない。人を売り買いするのはどうも性に合わないんだよ。まあ、商売の世界じゃ、そういうもんに手を出さないと儲からないこともあるが……俺はそういうやり方は好きじゃない。」
カイは静かに頷き、視線を再びオークションに戻したが、心の奥底では何かがざわめいていた。
オークションはその後も続き、次々と高価な品々が競りにかけられが、カイが興味を持つような特別な情報や進展はなく、やがてオークションは終わりを告げた。
ロウは会場を出るとき、カイに軽く手を振りながら言った。「ま、今日は大した収穫はなかったけど、いつでも声をかけてくれ。困ったことがあったら力になるさ。じゃあな、カイ!」
カイは無言で軽く頷き返し、ロウと別れた。彼はロウの飄々とした態度に不思議な印象を抱きながらも、再び仲間たちとの合流を考えて歩き出した。喧騒の中、カイは街の広場を抜け、バルテアの多くの人々が行き交うメインストリートへと向かった。
そこで、リーラ、レオン、そしてエリーと再会した。
エリーは真っ先にカイに駆け寄り、満面の笑みを浮かべながら言った。「カイ!楽しかったよ!いろんなお店があって、お菓子も買ったんだよ!これ、カイにもあげるね!」
エリーは袋から甘い匂いのするお菓子を取り出し、カイに差し出した。彼は一瞬驚いたが、軽く微笑んで受け取った。「ありがとう、エリー。」
リーラもすぐ後ろから歩いてきて、笑みを浮かべながら肩をすくめた。「まったく、エリーはいつも元気ね。でも、確かにここはすごく賑やかで、見て回るのが楽しかったわ。」
「ええ、私もこういうところは初めてだったので、楽しめました」
レイナも微笑みながら言った。
レオンも後ろからゆっくりと歩いてきて、カイに向かって頷いた。「ここには本当にいろんなものが集まっている。古書店で少しだけ興味深い本を見つけたよ。それに、アルヴァンドの遺物に関する話も少しは聞けた。大きな手がかりにはならなかったが、無駄足ではなかったさ。」
カイは彼らの報告を静かに聞きながら、自分が参加したオークションについて特に話すことはなかった。ただロウとのやり取りやブルーノ・ドランゴの存在が心に引っかかってはいたが、今はそれ以上深入りするつもりもなかった。
リーラはにやりと笑い、「たまにはこういう時間も必要でしょ?カイ、あんたはいつも真剣だからね」とからかうように言った。
カイは肩をすくめつつ、「……まあ、少しは楽しんでくれたならいい」とだけ答えた。
エリーは楽しそうにお菓子を頬張りながら、「次はもっといろんなところに行こうね!」と興奮気味に言った。
こうして、カイたちはバルテアでの時間をそれぞれ楽しんだ後、再び旅の準備に向けて動き始めた。カイの胸にはブルーノ・ドランゴやロウとのやり取りが残っていたが、今は一歩ずつ前に進むことだけを考えていた。
次の日、朝日がバルテアの街を照らし、カイたちは通りで集まり話し合っていた。
「今日こそは手掛かりを見つけないとね。」リーラが腕を組みながら言った。
「そうだな。情報を集めるために手分けして動くのが効率的だろう。」カイが答える。
レオンも同意して、「私も古書店や遺物を扱う店をもう少し探ってみるよ。ここにはまだ未確認の遺物が多く眠っているかもしれないからな」と意気込みを見せた。
「じゃあレイナちゃん、エリーを任せてもいい?」
「はい。私はエリーちゃんと街を回っておきます。あなたたちがなにを探しているかは分かりませんが、邪魔はしません」
レイナは凛とした態度でそう言った。
エリーは少し気だるそうにしながらも、「何か美味しいものが売ってる場所があったら教えてね!」と笑顔を浮かべた。
その時、不意にレオンの肩に何かがぶつかる。軽い衝撃と共にレオンが振り返ると、そこにはフードを深くかぶった小さなローブ姿の子供がいた。子供は何も言わずにその場から素早く立ち去ろうとしていたが、リーラがすばやく子供の手を掴んだ。
「それは、あなたの財布じゃないわよ。」
その言葉に、皆が一瞬で状況を理解した。子供の手の中には、間違いなくレオンの財布が握られていた。
「それは私の財布…!」レオンが驚いて声を上げたが、リーラはそのまま冷静にローブを掴んで引き下ろした。
すると、ローブの下から現れたのは、カイが昨日のオークションで見かけた、ブルーノ・ドランゴの隣にいた緑の髪の少女だった。彼女の目は鋭く、そして怯えたように揺れていた。
「おまえは……」カイが驚きの表情を見せる。
少女は何も言わず、リーラの手を振り払おうと必死だったが、リーラの力に敵うはずもなく、完全に捕らえられていた。
「知ってるの?カイ」リーラが問うと、少女はしばらく口を閉ざしていたが、やがて観念したように小さな声で呟いた。
「お願いします…離してください…」
その言葉に、リーラは一瞬だけ眉をひそめたが、カイが冷静な声で割って入った。「昨日、オークション会場でこいつを見かけた。おまえはブルーノ・ドランゴの隣にいたはずだ。」
その名前を聞くと、少女の表情が一瞬強張った。しかし、彼女はすぐにその表情を隠し、口を固く閉ざしたまま黙り込んだ。
「どうしてここにいる?そして、なぜレオンの財布を盗んだ?」カイがさらに問いかける。
少女はカイを睨みつけながらも、すぐには答えなかったが、やがて小さな声で言った。「……お願いします…逃げたいんです」
その一言に、場の空気が緊張感を帯びた。カイは無言で少女を見つめ、リーラもその言葉に一瞬の戸惑いを見せた。
レイナは一瞬少女の様子をじっと見つめ、彼女から放たれる並々ならぬ雰囲気を感じ取っていた。彼女が何か深刻な問題を抱えているのは明らかだった。レイナはその場で思わず一歩前に出て、毅然とした声で言った。
「少し、話を聞いてみませんか?何か事情があるのかもしれません。」
カイやリーラが一瞬顔を見合わせたが、レオンがすぐに頷いて同意した。
「うん、それがいいかもしれない。彼女の話を聞いてからでも遅くはないだろう。」レオンが冷静に言葉を紡ぐ。
カイもそれに静かに頷き、少女の腕を軽く引いて言った。「一度、宿に行こう。そこで話を聞く」
少女は一瞬だけ反抗的な視線をカイに向けたが、やがて観念したように顔を伏せ、何も言わずにそのままついていった。
イたちは彼女を連れて宿へ戻り、人気のない一室に通した。少女はその場で座り込むと、じっと床を見つめて黙り込んだ。緑の髪が肩に垂れ、彼女の顔を隠している。よく見ると、少女の顔や手足には無数の傷があった。服も奴隷が着るような簡易的な服だった。その姿にレイナは少し胸を痛めたが、静かに問いかけた。
「君、名前は?」
少女は最初答えなかったが、やがて小さく囁くように口を開いた。
「……フィーナ…」
その名前を聞いて、レイナは優しく続けた。「フィーナさん、あなたが逃げたいと言っていたのは、あのブルーノ・ドランゴからで間違いないですか?」
フィーナは肩を震わせ、再び沈黙したが、やがて小さく頷いた。その様子を見て、リーラが目を細めながら問いかける。
「彼に何をされたの?」
フィーナはしばらく無言だったが、ついにポツリと口を開いた。「……ブルーノの奴隷なんです。もう、ずっと……。彼は私を、ずっとこき使ってきました。」
彼女の声には震えがあり、その言葉が重く響いた。レオンは眉をひそめ、口を挟まずにじっと耳を傾けている。リーラは腕を組んだまま、無言でフィーナの言葉を待っていた。
「……逃げたくても、逃げられないんです。妹が……ブルーノに人質に取られていて……」
その言葉に、レイナが一瞬目を見開いた。正義感が強い彼女はすぐに口を開こうとしたが、リーラが手で制し、フィーナが話を続けるのを待った。
「彼が言うんです……。『お金を持ってこい、そしたらお前と妹を解放してやる』って……だから……私は……」
フィーナは視線を落とし、口ごもるように言葉を続けた。「だから……お金を盗んでしまったんです。」
その瞬間、リーラが軽く息をついて言った。「それで、レオンから財布を……」
フィーナは小さく頷き、申し訳なさそうに目を伏せた。「……すみません。でも、お金がどうしても必要で……」
「どれくらいの額を要求されたの?」リーラが静かに尋ねた。
フィーナはリーラの問いに少し躊躇しながらも、低い声で答えた。「……1000万ベル。」
その数字を聞いた瞬間、レオンは眉を上げて驚きを隠せなかった。リーラも険しい表情を浮かべ、無言でフィーナを見つめた。
「1000万ベル……?そんな金額、到底用意できるわけがありません……」
フィーナは小さく肩をすくめ、絶望的な表情を浮かべた。「……分かっています。でも、それしか方法がないんです。あの男が妹を……」
カイはフィーナの話をじっと聞き終えた後、少し考え込みながら彼女に視線を向けた。そして、静かに口を開いた。
「……フィーナ、なぜブルーノはお前をオークション会場に連れて行ったんだ?奴が奴隷をあんなところに連れていく理由がない」
フィーナはその質問に、少し戸惑いながらも言葉を探している様子だったが、やがて小さな声で答えた。
「……たぶん、私の目です。私は物を見ただけで、それがどんなものか、なんとなくわかるんです。例えば、その物がどんな効果を持っているかとか……」
カイは眉をひそめた。「どういうことだ?」
その時、レオンがフィーナに向き直り、少し丁寧な仕草で言った。「失礼するよ……フィーナさん。」そう言うと、彼はフィーナの目をじっと見つめた。
レオンの瞳がフィーナの目に向かい、しばらくの間、彼は何かを感じ取ろうとするように集中していた。そして、彼の表情が少し驚いたものに変わる。
「これは……『魔眼』だ。」
「魔眼?」エリーが驚いたように問いかけた。
レオンは頷き、ゆっくりと説明を始めた。「魔眼とは、非常に稀に魔力を持った人間に発現する特殊な力だ。フィーナのように、物を見ただけでその効果や性質がわかるという能力を持つ者もいる。魔眼にはいくつかの種類があって、発現の仕方も様々だが……その中でも『鑑定眼』と呼ばれるものは、物の本質や魔力の流れを見抜くことができると言われている。フィーナもそのような魔眼だろう」
レオンの説明を聞いて、カイやリーラはフィーナの目を改めて見つめた。その瞳には普通の人間にはない、微かな輝きが宿っていることに気づいた。
「なるほどな。だからブルーノは、お前を連れてオークションに」
フィーナは苦しそうな表情を浮かべながら頷いた。「……はい。ブルーノは私の力を使って、遺物や高価な品物を鑑定させていたんです。私が見れば、その物が本物かどうか、どれほどの価値があるかがわかるから……それで、あいつはオークションで高値をつけたり、闇市での取引にも利用していました。」
「そんなこと……」レイナは不快そうに顔をしかめ、怒りを抑えきれない様子で声を漏らした。「そんなことのために、幼い少女を使うなんて…」
レイナはフィーナの話を聞き終えると、表情を引き締め、決然とした口調で言った。「フィーナを助けるべきです。こんな酷い状況、見過ごせません。」
その言葉に対して、カイは冷静に答えた。「……俺たちには関係のないことだ。」
レイナは驚き、怒りを抑えきれない様子でカイを睨みつけた。「よくもそんなことが言えますね!どうして関係ないなんて……彼女を見て、何も感じないんですか?」
カイは冷静なまま視線をレイナに向け、淡々と答えた。「俺は目的のために動いている。余計なことに関わって、道を逸れたくはない。それだけだ。」
「目的?だからって、目の前の苦しんでいる人を無視するのが正しいとでも?」レイナの声は次第に強くなり、怒りが頂点に達していた。
しかし、カイはその怒りにも動じることなく、冷静に返した。「俺の目的は復讐だ。正しさを追求しているわけじゃない。道を外れるつもりもないし、感情に流されてはいけない。」
「……あなたには感情がないんですか?」レイナはエメラルドグリーンの目を細め、厳しい声で問い詰めた。「私は一人でも行きます。あなたたちとは偶々居合わせただけですし、協力なんて請いません。」
そう言い切ると、レイナはそのまま部屋を出て行こうとした。
「待って!」リーラが立ち上がり、冷静にカイを一瞥してから、レイナの後を追いかける。「私もあの子につく。放っておけるほど、私の心はまだ死んでない。」
レオンもそのやり取りをじっと聞いていたが、カイに目を向けて一言だけ残した。「カイ、君の言っているも理解できるけど……今はそれが正しいかどうか、よく考えてみるべきだ。」
レオンはそう言うと、エリーに優しく声をかけた。「エリー、フィーナのことを頼んだよ。少し様子を見てくれないか。」
エリーは小さく頷き、レオンもレイナとリーラの後を追って部屋を出て行った。
カイは静かに佇んだまま、その場に立ち尽くしていた。何も言葉を発することなく、ただ冷静さを保とうとしているように見えたが、その瞳にはどこか深い葛藤が滲んでいた。
エリーはそんなカイを見つめ、静かな声で言った。「カイ、私、カイがほんとは優しいこと、わかってるよ」
その言葉が、部屋の中に響き渡り、静寂が二人の間を包んでいた。カイは一瞬だけエリーに視線を向けたが、何も言わず、その場に留まっていた。




