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六星の旅路  作者: dae
第1章 旅の始まり
12/21

12話「レイナ」

三日が経過した頃、カイたちは「ガルナ岩山」と呼ばれる岩山の道を歩いていた。険しい山肌が連なるこの地帯は、鋭い岩壁が空に向かってそびえ立ち、太陽が頭上で強烈に照りつけている。灼熱の光が白い石や砂を焼き、熱気が大地を揺らしているかのようだった。


「まったく……この太陽、殺す気かしら?」リーラが額に汗を浮かべながら、岩の壁に手をついてぼやいた。


「そうだね、日陰が恋しいよ……」エリーも小さく息をつきながら、目を細めて太陽を見上げる。「山って、もっと涼しいものかと思ってたけど、ここは全然違うね。」


カイは先頭を歩きながら無言で進み続けていたが、振り返り、「歩きながら愚痴をこぼすな」と短く言い放った。


リーラは肩をすくめ、カイの後ろで足を進めた。「愚痴を言わなきゃやってられないわ。こんな岩だらけの道、誰が好き好んで歩くのよ?」


「僕はまあ、こういう場所も嫌いじゃないけどね。大地の息吹を感じるっていうか……」レオンがにこやかに言いながらも、周りを見回していた。


「大地の息吹ねぇ……むしろ死にそうな息を感じるわ」リーラが皮肉を込めて返した。


そんな会話の中、レオンが再び口を開いた。「音を上げてるところ悪いけど、まだ『バルテア』までは2週間ほどかかるよ。ここはまだ『アグレナス諸国連合』の領土だけど、『バルテア』は『タルス共和国』だからね。でもそこは商業都市として有名なんだ。特にアルヴァンドの遺物が多く流れ込んでくるから、きっと何か手がかりがあると思う。」


その発言に、リーラはため息をついた。

「遺物……?」エリーが首をかしげた。「それって、どんなもの?」


リーラがエリーの質問に答えようと口を開いた。「遺物っていうのは、昔の文明が残した道具や物品のことよ。たとえば、古代の武器や、壊れかけた魔導具とかね。それにアルヴァンド文明の遺物は、特に魔法的な力を持っているものが多いって言われているわ。」


エリーは目を輝かせて「へぇ、じゃあその遺物って、すごい魔法が使えるの?」と興味津々にリーラを見つめた。


「そうね、ただし、壊れてるものも多いわよ。魔法の杖だと思って振ったらただの木の棒だったり、奇妙な石だと思ったらただの飾りだったりね。」リーラは少し笑いながらそう説明する。


「それはちょっと……残念かも」エリーは苦笑いを浮かべた。


レオンがそのやり取りに笑みを浮かべながら付け加えた。「でも、アルヴァンドの遺物には本当に強力なものもあるんだ。記録によれば、かつての大陸の戦争を終わらせたほどの力を持つ武器もあったらしい。だから、見つける価値は十分にあるよ。」


「戦争を終わらせたほどの武器か……それが本当に手に入るといいわね。」リーラが皮肉混じりに言いながら、遠くに見え始めた山道の終わりを指差した。


エリーはさらに考え込むように、「でも、遺物ってそんなにすごいなら、どうしてみんな見つけられないの?探すのって難しいんだね」と言った。


「ま、遺物探しは運と根気よ。それに、何が本物で何が偽物かを見分けるのも一苦労だしね。」リーラが冗談めかして言う。


レオンが少し頬を掻きながら言った。「まあ、偽物も多いけど、信じる心も大切だからね。エリー、君ならきっと素敵な遺物を見つけられるさ。」


「そうかな?レオン、いいこと言うね!」エリーは嬉しそうに微笑んだ。


「まぁ、商人から買う時はまず疑ってかかるけどな。」カイが無表情で一言加え、エリーとレオンを笑わせた。


険しい道を歩きながら、仲間たちは笑いを交えつつ進んでいった。そして、次の目的地「バルテア」の商業都市に向けて、再びその道を急いだ。


しばらくすると、カイは歩いていた途中で、遠くからかすかな戦闘音に気づいた。金属がぶつかり合う音と、何かが地面を激しく叩きつけるような轟音が耳に届く。カイは鋭く目を細め、音のする方向に目をやった。


「……何かあったか?」カイが足を止め、仲間たちに言うと、エリーもその音に気づいて耳を澄ませた。


「聞こえる……誰か戦ってる?」エリーは不安そうな表情でカイの隣に立ち、手を握りしめた。

カイは内心、この音にエリーが気づいたことに驚いたが、「急ごう。」と短くそう告げ、戦闘の音が響く方へと足早に向かう。


彼らが岩陰を抜けた先、広がる荒野の中央で、一人の女性が巨大な魔獣と対峙していた。魔獣は四足歩行で、まるで地獄から這い上がってきたかのような凶暴な姿をしていた。全身を覆う黒い鱗は岩のように硬く、牙は長く鋭く、瞳は真紅に輝いていた。口からは毒のような煙が漂い、尾はまるでムチのように荒野を叩き、地面に深い溝を作っている。


カイの目の前でその魔獣に立ち向かっているのは、長い金髪を後ろでしっかりと編み込んだ女性だった。彼女の動きは俊敏で、身に着けた軽装甲は動きを妨げないように作られており、戦士としての洗練された装いをしている。筋肉質でしなやかな体型は、戦場で鍛え上げられたことが一目でわかる。特に、彼女が握る武器――太陽の光で輝く槍が、その存在感を際立たせていた。


彼女の武器である槍は長く、鋭利な刃先が光を反射して輝いている。槍を振るうたびに空を切り裂くようだった。槍の柄は細やかな装飾が施されており、一目で業物だとわかる。


彼女の動きは素早く、魔獣の鋭い爪の一撃を軽やかにかわすと、槍を振り上げて魔獣の脇腹に突き刺した。だが、その硬い鱗にはダメージは低い。それでも彼女は焦ることなく、落ち着いて次の動きを計算していた。


「助けないと!」エリーが声を上げた。


しかし、その時、レオンが冷静に言った。「いや、その必要はなさそうだよ。」


「『エイヴィルクス』!」

女性がそう唱えたと同時に、槍を高く掲げ、体全体に雷のエネルギーを纏い始めた。青白い稲妻が槍の刃先に集中し、まるで嵐を呼び起こすかのように周囲の空気がビリビリと震えた。彼女は力強く槍を振り下ろし、そのまま魔獣の胸に突き刺した。


「雷鳴よ、応えろ!」彼女の鋭い声が響いた瞬間、槍から強烈な雷が放たれ、魔獣の全身に電撃が走った。


魔獣はその電撃に耐えきれず、苦しげに咆哮を上げ、ついにその場に崩れ落ちた。最後の雷撃が静かに収まると、荒野に再び静寂が戻った。


エリーは驚いた顔でその光景を見つめ、「すごい……」と小さく呟いた。


レオンは満足そうに微笑み、「見事なものだね、まさに雷の戦士だ」と言った。カイは女性の背中をじっと見つめ、その力強い戦いぶりを黙って見守っていた。


アレクシアはカイたちの視線に気づくと、すぐに身構え、鋭い目つきで彼らを見つめた。彼女のエメラルドグリーンの瞳は一瞬、警戒心と不安を漂わせたが、すぐに表情を引き締め、誇り高い戦士の姿勢を取り戻した。


「どなたですか?」彼女は鋭く問いかけ、槍を肩に担いだまま、じりじりと距離を詰めてくる。


レオンが冷静に一歩前に出て、柔らかな笑みを浮かべた。「お見事な戦いでした。雷を纏う槍、あれほどの力を操る者にはそう簡単に出会えませんね。私はレオン・アルダヌス、古代文明の研究者です。こちらは私の仲間たちで、カイ、リーラ、エリーです。」


カイは軽く頷き、リーラとエリーも無言で彼女を見つめていた。


女性は一瞬だけためらったが、やがて肩をすくめ、誇り高げに名乗り始めた。「……私の名前はレイナ。名乗るほどの者ではありませんが、ここであなたちをを無視するわけにはいきません。」


彼女の口調にはどこか毅然とした態度が見え隠れするが、カイたちに対して敵意は感じられなかった。


レオンは軽く頭を下げ、「レイナさん、ですね。何か目的地があるのですか?この険しい道で一人、少々心配になります。」


レイナは一瞬目をそらし、少しだけ戸惑いが見えたが、すぐに肩を張って答えた。「……特に…決まっていません。どこへ行くかは、その時になったら決めます。」彼女の誇り高い態度が見えるが、その裏には迷いも含まれていた。


レオンはその答えに、静かに頷きながら続けた。「我々は『バルテア』という商業都市に向かっています。アルヴァンドの遺物が流れ込んでいる場所で、少し用がありまして…もしよろしければ、一緒にどうですか?」


レイナはその提案に少し驚いた様子を見せたが、すぐに再び冷静を取り戻し、慎重に言葉を選んだ。「……私が一緒に? いや、そんなこと、皆さんが迷惑ではないなら……その……構いませんが……」


エリーがにっこりと笑って「一緒に行こうよ!」と明るく言うと、リーラも軽く肩をすくめながら「別に私は構わないわ」とそっけなく返す。カイは特に反応はなかったが、特に異論はなさそうだった。


レイナは少しだけ照れたように、口元をわずかに歪めながら「……では、お邪魔させてもらいます」と静かに言い、彼らに加わった。




岩山の険しい道を進むカイたち5人は、しばしば魔獣に遭遇する危険な地域を通っていた。岩場に遮られた狭い通路を進んでいた時、突如として頭上から不気味な鳴き声が響いた。その声はまるで空気を裂くように鋭く、周囲の岩肌に反響し、空気が張り詰める。


「飛んでる相手は厄介ね……」リーラがつぶやきながら、冷静に短剣を抜き、周囲に目を光らせた。


空を見上げると、巨大な鳥型の魔獣が旋回しながら彼らを見下ろしていた。翼を広げたその姿は巨大で、羽根は黒く、光を吸い込むような暗い色をしている。鋭いくちばしは鎌のように曲がり、何度も磨き込まれたように光っている。その体躯は大きく、翼を広げると圧倒的な威圧感を放っていた。カイたちは、上空に飛んでいる敵になかなか手が出せず、苦戦していた。


「このままだと、下からの攻撃は難しい……」カイが冷静に状況を判断しつつ、すぐに作戦を立てる。


その時、レイナが槍を構え、静かにカイに向かって口を開いた。「私が先に行きます!」


カイはレイナの目を一瞬見つめ、彼女の決意を感じ取った。無言で頷き、剣を構えて彼女に続く。


レイナは素早く地面を蹴り、槍を構えたまま魔獣に向かって一直線に駆け出した。

「『エイヴィルクス』!」

彼女の動きはしなやかで鋭く、槍の先端からは薄い雷の光が走っていた。


「こっちに来なさい!」レイナが大きく声を張り上げ、雷を纏った槍を魔獣に向かって投げるように突き出した。槍から放たれた雷光が空を裂き、魔獣の体に当たる。鋭い雷の一撃に驚いた鳥型の魔獣は、激しい叫び声を上げ、空中で一瞬バランスを崩した。


カイは素早く岩場を駆け上がり、魔獣の足元を狙って一気に斬りかかる。その斬撃は強力で、魔獣の鋭い爪を弾き飛ばすほどだった。カイの動きは無駄がなく、まるで敵の攻撃を読んでいるかのような正確さで次々と反撃を加えていく。


魔獣は怒り狂ったように翼を広げて反撃を試みるが、カイの剣の鋭さには敵わない。彼の冷静さと正確な剣技は、まさに熟練の戦士そのものだった。


一方、レイナは再び槍を手に取り、雷の力をさらに強めて敵の翼を狙う。「これで……!」彼女は雷を纏った槍を強力に突き出し、魔獣の翼に直接突き刺した。雷が激しく迸り、魔獣は苦痛に満ちた叫びを上げて地面に叩きつけられた。


「ナイス、レイナ!」エリーが歓声を上げ、レオンとリーラもすかさず駆け寄って魔獣を取り囲んだ。


地上に倒れた魔獣は最後の力を振り絞り、カイに向かって鋭いくちばしを突き出した。しかし、カイはそれを冷静に見極め、横に素早く身をかわすと、一撃で魔獣の首元に剣を突き立てた。


「これで終わりだ……!」カイの低く冷静な声と共に、魔獣はついに力を失い、その巨体は地面に崩れ落ちた。


カイは剣を振り払い、レイナの方を一瞥した。「あいつを地上に降ろしたのは見事だった。」


レイナは少し誇らしげに鼻を鳴らし、槍を肩に担いだ。「別に礼を言われる筋合いはありません。私がやれることをやっただけなので。」


彼女はそっぽを向いて照れくさそうに言ったが、その言葉の裏には確かな実力があった。カイもそれを感じ取り、無言で頷いた。






夜、静かな森の中で焚火がぱちぱちと音を立て、暖かな光が辺りを照らしていた。星空の下、カイたちは焚火を囲み、それぞれが思い思いの時間を過ごしていた。エリーはすでに疲れ果てて眠りに落ちており、彼女の穏やかな寝息が焚火の音とともに静かに響いていた。


カイは無言で剣を手に取り、慎重にその刃を研いでいた。彼の動きは無駄がなく、ただひたすらに集中している。火の光が彼の顔を照らし、険しい表情が浮かび上がる。彼の手元からは規則正しい研ぎ石の音が聞こえていた。


一方、レオンは焚火の向こう側でレイナを見つめ、ふと静かに口を開いた。「レイナ、君の戦いぶりは見事だったよ。正直、驚かされた。あの魔獣をあんなにも簡単に倒せるなんてね。君はどこでそんな技を身につけたんだ?」


レイナはその言葉に少し表情を引き締め、焚火を見つめたまま短く答えた。「生まれ育った家が……少し厳しかっただけです。幼い頃から、訓練ばかりの毎日でした。」


その声には、どこか重い響きがあった。彼女の瞳は炎を見つめながらも、遠い昔の記憶に沈んでいるように見える。


「カイ……さん」レイナは慎重に言葉を選びながら続けた。「あなた、ただの剣士ではありませんね。これまで一緒に何度か戦いましたが、あれほどの剣の腕を持っている人なんて、私もそう見たことがありません。」


カイは一瞬だけ剣を研ぐ手を止め、レイナの方に目を向けたが、すぐにまた無言で研ぎ石を動かし続けた。


「……俺は特別じゃない。力が必要だっただけだ。」


その低く冷静な声には、感情の揺らぎはなかったが、言葉の裏には重い何かが含まれているように感じられた。


「必要だった……?」レイナが少し眉をひそめながら問いかけた。


カイは手を止め、目を伏せて淡々と答えた。「俺は復讐を果たすために剣を握ってる。強くならなければ、目的は果たせない。それだけだ。」


その言葉にレイナは少し沈黙し、焚火の音だけが二人の間に響いた。カイの言葉には、どこか冷たさと孤独が混じっており、彼の過去がほんの一瞬だけ垣間見えた気がした。


「……そうですか。」レイナはそれ以上深くは聞かず、少しだけ寂しそうな笑みを浮かべた。


カイは再び無言で剣を研ぎ始め、彼の瞳は何も語らなかった。ただ、焚火の光がその顔を照らし出し、静かな夜の空気に再び戻っていった。


リーラはレイナの横顔に視線を向けた。「それで、レイナは今はどうして旅をしているの?何か目的があるのかしら?」


レイナは一瞬、迷うように黙り込んだ。彼女の顔にはわずかな戸惑いが浮かんだが、すぐにその表情を隠して答えた。「……生きる意味を探しているんです。自分が何のためにここにいるのか、その答えが欲しくて。」


その言葉は静かだったが、深い孤独が滲んでいた。レイナは焚火の光の中で、誇り高い戦士としての表情を保っていたが、その奥には何かを探し求める切実な思いが垣間見えた。


「そう……何か事情がありそうだけど、深くは聞かないわ」リーラはその答えを受け入れ、特に追及することなく焚火を見つめた。


レオンもそれ以上は何も聞かず、ただレイナの言葉を噛みしめるように静かに頷いた。誰も彼女の出自については問いたださなかったが、その背後にある秘密を感じ取っていたかもしれない。


カイは無言のまま剣を研ぎ続けていたが、レイナの言葉を聞きながら、その手の動きが一瞬だけ止まった。その静かな夜は、焚火の音とともに続いていた。

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