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レベル“11”

「オ、オオ、オオオ……!?」


 ドミニクの手を掴んだまま泳ぐ俺の手が、魂の世界から空気に触れる。

 もだえ苦しむオグルの声が出口だと確信して、俺は思いきり――。


「ゲボオオオオオオオオッ!?」


 オグルの口から、飛び出した。

 騎士甲冑を模したケイオスの兜が開き、頬まで裂けた口から吐瀉物(としゃぶつ)のように出てきた俺とドミニクは、どうにかオグルの呪縛から解き放たれたみたいだ。


「ネイトさん、ドミニクさん!」


 駆け寄ってきたクラリスにドミニクを任せて、肩で息をする。


「はあ、はあ……どうやら、無事に出られたみたいだな」

「そのようだ」


 普通に戦うよりもずっと体力を使った気がするし、魔力もあまり残ってない。

 これがきっと、生物の中に入り込むってことのリスクなんだろう。


「クラリス、俺がオグルの中に入ってからどれだけ経った!?」

「い、いえ……どれだけ、というより、その……ボクが魔法を使ってから、す、すぐに戻ってきました……!」

「オグルの精神世界の中で過ごした時間は、こっちじゃ一瞬にも満たないってわけか! そりゃあ、ありがたいぜ!」


 何時間も経っていれば、クラリスまでやられていたかもしれない。

 ほっと安心する俺だったけど、まだ油断はできない。


『ぐ、この、よくも……!』


 ドミニクを引っこ抜かれても、オグルは体の半分が泥になりつつ、まだ完全に消滅はしていなかった。

 ただ、間違いなく弱体化はしてるみたいだ。


「私がいなくなったことで、あの姿を保てなくなりつつあるみたいだな。追い打ちをかけてやりたいが、まずはジークリンデ達から恐怖を引きはがすとしよう……ネイト、少しだけ時間を稼いでくれ」


 よろよろとソフィー、ジークリンデに近寄るドミニクに、俺は頷く。

 ぱん、と手を叩き、赤と黄色の魔力を手のひらの間に溜め込む。


融合魔法(フュージョン・マギ)レベル10! 『天蓋撃滅(ラストジャッジメント)』!」


 そして放ったのは、アディオルをまとめて焼き払ったレベル10の融合魔法だ。

 ドミニクをはぎ取られたオグルからしてみれば、この攻撃はかなりの脅威になるはず。


『調子に、乗るな、よおおおおおおッ!』


 だけど、オグルは狂ったように叫びながら、手をかざして俺の砲撃を明後日の方向に弾き飛ばしやがった。


「……まだ、反射魔法(リフレクト・マギ)が使えるのか……!」


 もうドミニクは中にいないのに、魔法だけはしっかり残してるのかよ。


『ハハハハハ! 当然だよ、ドミニクの力の半分以上はまだ俺が手に入れたままだ! この程度の魔法なんて、反射できて当然さ!』


「だろうな。だが、お前の恐怖を弾く程度の魔法なら、私もまだ使える」


 それでも俺にとってラッキーだったのは、オグルに完全に魔法が吸収されたんじゃなくて、ドミニクも反射魔法が使えるってことだ。

 黒いオーラを反射ではぎ取られた仲間達が、小さくうめく。


「う、ぐ……」

「ネイト君……」


 やがてよろよろと立ち上がり、仲間達は戦列に加わってくれた。


「申し訳ございません、ネイト様。このテレサ、数分ほど気絶していたようです」

「カッコ悪いところを見せちゃったわね、ネイト。ドミニクの反射魔法のおかげで、どうにか恐怖に心を完全にむしばまれずに済んだわ」

「よし、ここから反撃できそうだな!」


 第2ラウンドを始めようとした俺達だけど、不意にソフィーが何かに気付いた。


「でも、ネイト君! パフが言ってるよ、あのケイオスから出てるエネルギーが、なんだか変なところに吸い込まれてるって!」

『ぎゃ、ぎゃーう!』


 いや、それはパフが鳴き声を上げなくても、俺達全員の目に映ってる光景だ。

 オグルのどろどろになった体から伸びたチューブのような部位が、校舎の中に突き刺さってる。

 そして膨大なエネルギーが注ぎ込まれて、校舎が壊れつつあるんだ。


『ああ、ばれちゃったか。そうだよ、もう君達との遊びは終わりだ』


 ゲラゲラと笑うオグルの後ろで、校舎が地面にできた割れ目の中に落ちてゆく。

 学園を呑み込みかねないほど巨大な断裂の中から感じる、途方もないほどのおぞましいオーラこそが、きっとヴィヴィオグルの正体だ。


『俺の負の意志をすべて学園の地下に注ぎ込んだなら、究極のオグル、ヴィヴィオグルは覚醒する! その時が、この世界が終焉を迎える時だ!』


 この調子だと、完全な復活は間もなくだ。

 しかもオグルは反射魔法を使って、こっちの攻撃を弾いてくる。


「さっきの魔法連続攻撃も通じなかったし、どうすればいいの!?」


 魔力が尽きそうな俺がまともに返事もできない中、ドミニクの手が肩に乗った。


「……ネイト、私の魔法をお前に渡す」

「え?」


 俺以上に疲弊したドミニクの言葉に、全員が驚く。

 だけど、地面が揺らぎ、紫のエネルギー波が地面から漏れ出ている状況でも、ドミニクの言葉はまったく揺らいでいなかった。


「オグルの中にいた影響か、私の中で魔法が不安定な状態だ。その気になれば、お前に魔法を渡し……すべての魔法に、反射魔法の力を付与できるかもしれない!」


 そんなことができるんだろうか。

 ゲームの中で俺が知りえなかった、未知のシステムなのか。

 俺が頭に浮かんだ問いかけを口に出すより先に、ドミニクが俺の背中に手を当てた。


「待ったはなしだ、ネイト! 私の力で、融合魔法を強化しろ!」


 次の瞬間、背中から白い光があふれ出すのが、前を向いていても分かった。

 闇をかき消す光の勢いが凄まじいからじゃない――ドミニクの力が、感情が、願いのすべてが、俺の中に入ってくるのが分かったからだ。

 この魔法の使い方が分かる。

 魔法と共に注がれる、莫大な量のドミニクのマナも感じ取れる。

 そして――この魔法が、融合魔法と合体できるってのも、理解できる!


「すごい……これが、反射魔法……!」


 ドミニクの手が背中から離れた時、白い魔力はオーラになり、俺の全身を覆っていた。

 無意識のうちに、俺はステータス画面を指パッチンで開いていた。

 相変わらず色んな数値が隠された、使い物にならない橙色の画面に浮かぶのは、俺が譲り受けた『反射魔法・レベル1』の文字。

 この力なら、オグルを倒せる可能性がある!

 ふたりのゴールディングが合体した魔法の力を放っておけないと思ったのか、オグルの顔から余裕が消えたのがその証拠だ。

 あいつがビビるくらいの力なら、ここで試さずにいつ試すんだ!


「くらいやがれ、オグル! 火魔法(フレイム・マギ)レベル5、雷魔法(サンダー・マギ)レベル5――」


 両手に輝くのは、赤と黄の魔力。

 これまでが、俺の限界。そしてここからが、限界を超えた力だ。


「――反射魔法レベル1! 融合魔法(フュージョン・マギ)レベル11(イレブン!)


 白い魔力をまとった、限界まで圧縮したエネルギー球が一瞬だけ指先ほどの大きさになり――。




「『(シン)天蓋撃滅(ラストジャッジメント)』!」


 俺の咆哮と共に、手のひらから迸った。

 空間が軋むほどの光は、反射魔法で自らを守ろうとしたオグルを貫いた。

 いや、オグルどころじゃない。


 ――トライスフィアの校舎が真っ二つになるほどの光が、敵を穿ったんだ。

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