ネイト&ドミニクVSオグル!
「ドム、下がっててくれ。俺はこいつに、聞きたいことが山ほどあるんだ」
「私が代わりに聞いておいてやる。ネイト、オライオン侯爵の娘と共にここを離れろ」
こっちが意思を確認するまでもなく、ドミニクはあのケイオスとやり合う気だ。
あと2日で死ぬってのに、じゃあお願いします、で通してはやれないだろ。
「それだけは聞いてやれないな! ケイオスは俺の敵だ!」
「今は私の敵で、ゴールディング領の敵だ」
並び立ちながら言葉でぶつかり合う俺とドミニクを、オグルが嘲笑う。
『おいおい、仲間割れかな? 言っておくけど、俺はケイオスの中でもかなりのアップグレードが施された、予定の中にも出てこない特別な存在なんだよ?』
「ふむ、予定か。貴様の予定などひとつ、これから押し潰されて死ぬだけだ」
『言ってなよ! まずはこのクソ人間どもの首を、自慢の鎌で刎ねて――』
カマキリのような人のような顔で笑い、オグルは先生達の首を斬り落とそうとしたが、そこについてはもう心配しちゃいない。
癪だけど、ドミニクが来た以上、こっちが負ける理由はないんだから。
「反射魔法『天譴』」
魔法名をつぶやいて、彼が手を突き出した瞬間、空気が震えた。
『がっ……!?』
そして、衝撃と共にオグルが揺れ、先生達を放り出して後方に弾き飛ばされた。
そう――あの魔法の最大の利点は、無差別じゃないってところだ。
反射魔法は対象が移動さえしていなければ、吹き飛ばす相手を選んで反射できるって聞いた時は、そんな器用な魔法の使い方ができるのかと驚いたもんだ。
「ネイト、追撃は任せる。ここに残ると言ったのだから、役に立ってみせろ」
だから、本気になればきっとあれくらいの敵ならひとりで仕留められるはずなのに。
俺に丸投げするなんて、本当に余裕たっぷりだな。
「最強無敵の反射魔法なら、もうちょっと頑張れよ!」
「手の内すべてを見せてどうする。少なくとも、私の魔法を知らない相手に何もかもをひけらかしてやる理由はない」
「ったく、とんだワガママ領主だ!」
とはいえ、俺としてもこのまま放っておいてやるつもりはない。
兎の如く駆けだした俺を、宙に浮いたままオグルが睨んだ。
『じきに死ぬくせに……これでも食らって、さっさと地獄に落ちるんだな!』
「そうはさせるかよ!」
『させるかよ、はこっちのセリフだね! お前も死んでしまえ、主人公もどき!』
オグルが構えた大鎌の先端に集中しているのは、恐らくケイオスの生命力を集めた、どす黒くて強烈な負のエネルギー。
奴はそれを、ほとんど間を置かずに俺めがけて発射した。
球体は俺の目前で煌めき、水蒸気爆発のような破壊をもたらした。
『ハハハハハッ! 魔力を圧縮させた砲撃だ、ハファーマルもギリゴルもこんな技は使えなかっただろう! 人間風情には少し過ぎた技だったか――』
教室にクレーターを作り、煙で前が見えなくなるほどの大爆発が起きたんだから、オグルは俺やドミニクが死んだと思っただろうな。
でも、早とちりにもほどがあるぜ。
「――ドムの魔法ってのは、俺以上にチートだな!」
特にドミニクがいるなら、あの程度の爆風は反射されて当然だ。
要するに、俺達は無傷でピンピンして、お前にこれから魔法をぶち込むってわけだぜ。
「火魔法、土魔法レベル3! 融合魔法レベル6『鉄血棘茨』!」
融合魔法で発動した、赤く焼ける鉄の茨がオグルを縛り付ける。
『ぐお、お、おおおおおッ!?』
棘が食い込むだけじゃない、突き刺さった茨はすさまじい高温になっていて、内側からオグルの体を焼き尽くすんだ。
しかも、俺の攻撃はまだ終わっちゃいない。
「ドム、反射魔法でぶっ潰してやれ! どりゃあああッ!」
茨を引っ張って、無理矢理オグルを宙に浮かせて、ドミニクのところまで投げ飛ばす。
いくらあいつがトライスフィアで死ぬと知っていても、こんな程度で死ぬはずがないと知っているからこそ、こうして次の攻撃を任せられるんだ。
「反射魔法――『霹靂』」
俺の予想通り、ドミニクの反射魔法が、槌のようにオグルを真上から押し潰す。
『ゴギャアアアアア!』
全身に圧力をかけられ、ミシミシとオグルの体が地面にめり込んでゆく。
ドミニクが魔法を発動させている間は、あいつは鎌ひとつ動かせないな。
「ネイト、お前の魔法を反射で加速させる。なるべく鋭い魔法を使え」
「分かった! 風魔法レベル4、土魔法レベル4!」
ジャンプしながら体をひねらせて発動させるのは、風によって削られ、鋭く生成された無数の石の槍。
それはドミニクの反射魔法で後ろから押され、投げるよりも何十倍も加速されたまま、目にも留まらぬ速度で――。
「融合魔法レベル8『裁くもの』!」
「反射魔法『天譴』」
オグルの全身を、ことごとく貫いた。
『ギッ……!』
頭以外のすべてを串刺しにされたオグルの首が、奇怪な声を上げて転がる。
首から下の部位は、衝撃に耐えられずにぐずぐずと潰れ、消え去ってしまった。
こうなればもう、何もできないはずだと思ったのか、俺とドミニクは頷き合って魔法を解除した。
とはいえ、妙な動きをすれば即座に魔法を叩き込む準備はできてるけどな。
「ふむ、これで生きているとは思えないが……」
ドミニクの予想通り、オグルは首だけでズルズルと這いずっている。
『ハハハ……俺は、恐怖の病……感染し、またすぐに現れるのさ……!』
頭だけになってもまだ喋るのは、見た目通り虫並みのしぶとい生命力だ。
といっても、こいつの寿命はあと1分も残されてないんだが。
どうしてかって?
「氷魔法『統括の獄・アブダ』」
教室に入ってきていたジークリンデの氷魔法が、オグルをけらけら笑った顔のまま、永遠に凍り付かせちまったからだよ。
水色に固まって、まるで動かなくなったオグルの頭はジークリンデに踏み潰されて、今度こそ完全に生命活動を止めたようだった。
「頭を潰したところで、虫ならまだ這い回るわ。ドミニク、しばらく屋敷にこもっている間に、貴方も随分ぼんやりしちゃったんじゃないかしら?」
ふん、と鼻で笑うジークリンデに痛いところを突かれたのか、ドミニクが顎を掻く。
「ネイト君!」
「ネイトさん……!」
しかも開いたままの扉から、ソフィーやテレサ、クラリスがやって来た。
ドミニクはテレサを見つめて、すぐにいつもの冷たい表情に戻る。
「ネイトの危機に傍にいないとは。テレサ、どこで油を売っていた?」
「返す言葉もございません。掃除にうつつを抜かしていたテレサに何なりと罰をお与えください、ネイト様、ドミニク様」
おいおい、テレサを責めるのはやめろよな。
「気にしてないよ、テレサ。ドム、俺のメイドを叱る権利はお前にないだろ」
「……フン」
俺がテレサを庇うと、ドミニクはバツの悪そうな顔をした。
「あと2日、ここにいる。後始末は任せたぞ、ジーク」
「はいはい」
それから軽く鼻を鳴らし、背を向けてさっさと講堂を出て行った。
残されたのは半壊状態の講堂と、すっかり割れてしまった窓と、ぐったりと倒れ込んだ先生達に、何が起きたのかと入り口からこちらをこっそりと見つめる生徒達。
これまでとは比べ物にならないほどの状況に、ジークリンデすらため息をついた。
「……さて、どうやらかなり、厄介な事態になってるみたいね」
もはや彼女の言う通り、トライスフィアの平和の崩壊は、のっぴきならないところまで差し迫っていた。
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