氷と炎、決着の一撃
「アディオルが全部集まってきたみたいだな、ジークリンデさん!」
「分かってるわ、逃がしはしない! 氷魔法『等活の獄・アブダ』!」
ジークリンデが広範囲の氷で生成したのは、わらわらと集まってきたアディオルすべてを外に逃がさないための氷の壁だ。
城壁の如く俺達と敵を囲む壁は、ケイオス如きじゃ登れないし、壊せもしない。
「あいつらの力じゃ、この氷の牢獄は破れないわ! 思いっきりやっちゃいましょ!」
「りょーかいっ! パフ、焼いちゃえっ!」
『ごおぉーう!』
言うが早いか、パフの口から放たれた炎がアディオルをまとめて焼き払った。
『ギャアアアアッ!?』
とんでもない火力でも溶かせない氷の壁と、魔力の炎を爆発させるパフに挟まれて、アディオルがどんどん黒い粉になって消滅してゆく。
当然まだ怪物は消え去らないけど、変化はあった。
明らかに、さっきパフの炎を受けたアディオルだけが逃げている。
他のアディオルに囲まれて、攻撃を受けないように逃げ回ってるんだ。
「ネイト様、あのケイオスは中央にいる1匹のケイオスを守っているように見受けられます。テレサとクラリス様が活路を開きましょう」
大斧を担いだテレサと人形を連れたクラリスが頷き合う。
「カティム式斧闘術『地割断』」
「幽霊魔法『トリツキコントロヲル』……プラス『ノロイウェイブ』!」
そして斧が砕いた石つぶてと、骸骨人形の手から漏れ出した怨念の波動が、本体を守ろうとする偽物を薙ぎ払った。
『グァアアア!』
『ウギャアア!?』
アディオル達も、逃げ惑っているだけじゃなく、やけくそ気味に突進してくる。
「どりゃああああッ!」
そういう輩を薙ぎ払うのは、俺の役割だ。
電撃をまとった蛇腹剣が、片っ端から敵を切り刻んでゆく。
『『アディオル! アディオル! アディオルを守る!』』
あっちも必死なのか、無数のケイオスで1匹の本体を庇うようにして立ち塞がった。
「こんにゃろ……ジークリンデさん!」
「まとめて凍らせて、頭数をごっそり減らしてやるわ! 氷魔法『叫喚の獄・カカバ』――『紅蓮砕き』!」
もっとも、防御なんてのはジークリンデがいる以上、意味ないんだけどな。
彼女が地面を両手で叩いた途端、地面から氷の柱が無数にせり出て、まばたきの間にとんでもない数のアディオルが貫かれた。
裂けた腹や串刺しになった口から噴き出す黒い液体が飛び散るさまは、むごたらしくもあり、華のように美しくもある。
華麗さと強さを兼ね備えてるのは、ゲーム内でもチート級に強い人の特権だな。
「一撃で半分もケイオスを倒すなんて、やっぱりカイチョーさんはすごいね!」
「俺達も負けてられないな!」
俺もチートを持ってるから、負けちゃいられないんだけどな。
「ですがネイト様、どうやらあの本体だけは異様にタフなようでございます。ジークリンデ様の魔法やネイト様の攻撃を受けても、他の連中のようにやられはしませんね」
「フヒ、敵の数も、あれがいると増える……みたいです……!」
例えば、さっきから軽傷を受けてもピンピンしてるアディオルの本体を倒すには、ギリゴルの時以上に粉微塵にして、欠片も残しちゃいけない時とか。
綺麗さなんて必要ない、圧倒的な魔法の暴力が必要な時とか。
「一撃で消し飛ばしてやらないといけないか、まったく――そういうのは、俺の得意分野だぜ!」
そんな時こそ、チートを持ってる俺の出番だ。
「あら、奇遇ね? ワタシも全力で敵を凍らせるのは、大の得意なのよ♪」
これからどんな一撃をぶちかますか考えているうち、知らない間ににやりと笑ってたみたいで、ジークリンデが俺をにやにやと見つめている。
俺は彼女と頷き合い、両手に魔力を溜めながら叫んだ。
「皆、アディオルの塊を吹っ飛ばしてくれ! 俺とジークリンデさんで仕留める!」
「うん!」
「かしこまりました」
「は、はい……!」
ソフィーとパフ、テレサ、クラリスがアディオルの群れに突撃する。
「「おりゃあああっ!(でございます)」」
3人が全力で発動させた炎と斧の衝撃波、怨念の3つのエネルギーが、本体を守ろうとするアディオルをほとんど吹き飛ばした。
あんなものの直撃を受ければ、魔法に熟達した騎士だってただじゃすまないんだから、アディオルくらいじゃ何匹集まっても防ぎきれるわけがない。
わずかに防御壁を失い、無防備になった本体をジークリンデが見据える。
「氷魔法『焦熱の獄・ウバラ』!」
彼女の指先から放たれた氷の波動は、小さなものだった。
ただ、それがぴとりとアディオルの本体に触れた瞬間、それがばきり、と音を立てて完全に凍結した。
一切の動きを許されない、生命活動、概念そのものの停止だ。
「心臓の奥まで凍り付く、魔力マシマシの氷よ! あとはお願い、ネイト!」
「任されたなら、出し惜しみなしだ! 火魔法レベル5! 雷魔法レベル5!」
彼女の隣で、俺も指先に魔力を集中させていた。
赤と金、ふたつの魔力が轟音を立てて集まり、天使の輪の如く円を描く。
それが幾重にも重なり、地面にひびが入るほどエネルギーが圧縮され、指先が溶けるような熱さを感じた刹那――。
「融合魔法レベル10! 『天蓋撃滅』!」
俺の指から、天使の輪を集めた魔力の球体が発射された。
残像すら捉えられない速さの球体は、アディオルに直撃するのと同時に、残っていた他の偽物を巻き込んで凄まじい破壊を起こした。
これがレベル10の魔法。
本気で撃ち込めば街ひとつを灰燼に帰す、破壊に完全に特化した魔法だ。
『ゴ、ゴ、ゴオオ……』
『ヴィヴィオグル……よみがえる……』
この一撃を受けて、ケイオスだろうと耐えられるわけがない。
アディオルは断末魔を上げながら、エネルギーの中で塵となった。
やがて球体が収束した時、もうそこには黒い物質なんてひとつも残っていなかったし、ケイオスの気配も、紫の石も微塵も残ってなかった。
ただ、石を使ったテロリストだけは、地面にぐったりとはいつくばっていた。
「ふう、今度こそ群れは全滅したみたいだな」
人も死んでいない、ケイオスも倒した――自分で言うのもなんだが、満点だな。
「皆、怪我はないか――どわあっ!?」
そんな風に満足している俺に、突然ジークリンデが飛びついてきた。
しかもまた、俺の顔が彼女の胸に埋まったんだ。
これ、この人の癖なのかな。
「やったわね、ネイト! 誰も傷つけずに助けられたのは、貴方のおかげよ!」
「ちょ、ジークリンデさん、息が……」
辛うじて聞こえてくるのは、周りのヒロイン達のじっとりとした声。
「むー……」
「ぼ、ボク達、蚊帳の外ですね……フヒヒ……ひん」
なんだか嫌な予感がしたけれども、この柔らかさには敵わない。
今回は頑張ったし、ご褒美と思ってもいいのかも。
「ま、役得ってやつ……なのかな?」
「ネイト様、聞き捨てならない台詞が聞こえたような気がするのですが」
「き、気のせい! 気のせいだって!」
重石のようなテレサの声が耳に入ってきて、俺は慌てて自分の考えを頭の中から吹き飛ばした。
――それでも、結局しばらくの間は、そのままだったんだけれども。
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