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獣の秘密を見破れ!

「融合魔法レベル5! 『泥津波(マッドウェイブ)』!」

「『叫喚の獄(だいよんじごく)・カカバ』!」


 ふたりで同時に放ったのは、氷と泥の波。

 津波を彷彿(ほうふつ)とさせる大規模な攻撃は、瞬く間にアディオルの群れを呑み込んだだけじゃなく、そのまま凍結させ、ひび割れと共に砕いた。

 これで一気に20匹は仕留めたはずなのに、氷の残骸の奥から新手が出てくる。

 高給で人を補充するブラック企業の如く、同じ数か、それ以上が集まるんだ。


「クソ、まとめて凍らせても、泥で埋めても、なんで同じ数のケイオスが出てくるんだよ! これじゃあこっちのマナが枯渇する方が先だぞ!」


 泥の波を出すのをやめた俺の隣で、ジークリンデが(あご)に指をあてがう。


「うーん、ちょっとやり方を変えた方がいいかしら?」

「例えば!?」

「そうねぇ、ネイト? 貴方の武器を見せてくれる?」

「武器、武器……だったら、一番使い慣れてるこいつの出番だ!」


 剣や盾を使う主義じゃないが、魔法の武器なら話は別だ。

 俺が定番で使うのは、ご存じ雷の帯と鋼の剣をつなぎ合わせた万能剣。


「融合魔法レベル6! 『雷鳴鞭剣(ライトニングエッジ)』!」


 アディオルが一瞬だけたじろぐほどのインパクトを見せつけるほどの剣を目の当たりにして、ジークリンデは目を輝かせた。


「複数の敵と距離を取りながらまとめて倒せる蛇腹剣(じゃばらけん)とは、ネイトらしいチョイスね! だったらワタシも、真似させてもらうわ♪」


 真似って何のことやら、と首を傾げる俺に、彼女は見せつけるように魔力を迸らせる。


氷魔法(ブリザード・マギ)黒縄の獄(だいにじごく)・ニラブダ』!」


 そしてぐっと力を込めると、彼女の手の中にも俺の『雷鳴鞭剣』が現れた。

 形は明らかに俺の武器なんだけど、色は透き通るような水色だ。


「俺の魔法を、氷で模倣(もほう)した!?」

「魔力の循環と放出、形成するイメージさえ分かれば、真似するなんて簡単よ。ついでにワタシ、護身術代わりに武術を一通り学んでるのっ!」


 彼女は身を(ひるがえ)して迫りくるアディオルの攻撃を避けると、蛇腹剣でまとめて3匹を引き裂いてしまった。


「やっぱ、聖徒会会長ってすげえんだな……おっと!」


 俺も負けじと、限界まで剣を伸ばして敵を切り刻む。

 一方で取り囲むようにして襲ってくるアディオルは、単体じゃトライスフィアの生徒よりも大した戦闘能力じゃないのに、その弱さを物量で補ってる。

 いや、補うどころか、その程度のデメリットなんて気にならないほどの数だ。


『アディオルはルールを捻じ曲げた』

『あるじ、ヴィヴィオグルに力をもらった』


 ガウガウと唸りながら突進してくるアディオルが、ふと聞き慣れない言葉を呟いた。


「ヴィヴィオグル……? 気になる名前を出してくれたところ悪いが、お前らをふんじばって、話を聞いてやる余裕はないんだよ!」


 相手がハファーマルのような1匹だけのケイオスなら、氷と融合魔法で捕らえて拷問のひとつでもやってやりたいが、これだけの数から話を聞くつもりなんて毛頭ない。

 それは俺だけじゃなく、ジークリンデも同じだ。


「行くわよ、ネイト!」

「はい、ジークリンデさん!」


 ふたりで背中合わせになって、剣で地面を削り取る。


「「うおりゃああああああッ!」」


 そして思い切り刃を振り回し、俺達を取り囲むアディオルを切り刻んだ。

 こうなればもう、アディオルは1匹だって俺にも、ジークリンデにも近づけない。


「ところでジークリンデさん、範囲攻撃から武器攻撃に変えた理由は!?」

「あれだけの範囲を攻撃するのは、どうしても魔力を多く消費しちゃうのよ! しかも他の()()()が凍らせたのを砕くなら、氷漬けにして止めるより、ぶった切ってやった方が早いでしょう!」


 なるほど、無敵に見える氷魔法にも弱点はあるわけだ。

 あれだけ大規模な魔法を使い続けてよく魔力がもつものだと勝手に納得していたけれど、実際はジークリンデなりに節約して、考えて発動していたんだな。

 一度出し切っておしまい、の魔法よりも、作ってからは破壊されるまで使い続けられる魔法の方が、よっぽど効率がいい。

 ただ、俺は彼女としばらく話してきてから、何となくわかる。

 真面目な理由は、ジークリンデにとっては優先事項にならないって。


「それ、おまけの理由ですよね!」

「あらあら、分かっちゃった?」

「本当の理由は!?」

「姉弟子として、ネイトにカッコいいところを見せたかったの♪」


 ほら見ろ。

 わざわざ見せ場なんて作らなくても、ジークリンデはカッコいいのにな。

 ただし、めちゃくちゃ調子に乗ってさらに俺をいじってくるのは目に見えているので、見透かされているとしても絶対に言ってやらねえ。


「その余裕が羨ましいですよ……そんでもってお前らは、どれだけ増えりゃあ気が済むんだよ、こんにゃろっ!」

「ワタシも同じ敵の相手ばかりで、そろそろ飽きてきちゃったわ!」


 もう何匹倒してしまったか、俺もジークリンデも数えなくなった。

 今まで食べてきたパンの枚数を数えないのと同じだよ、ウリィ。


「ギリゴルやハファーマルの時みたいに、ごり押しでどうにかなるかと思ったけど、流石に甘くないな! こいつのギミックを解明しないと、勝てそうにない!」


 幸いにも相手は、野性的な本能で群れを成して俺達を襲うだけの、ケイオスのていを成した動物でしかない。

 こっちがハンターになり、知恵と奇策を使えば簡単に倒せるはずだ。


「何かあてはあるのかしら、ネイト坊や?」

「ありますけど、俺じゃあどうにも……って、誰が坊やですか!」


 反射的に俺がツッコんだ時、すぐ近くの物陰で、俺達の攻撃ではない何かでアディオルの群れが吹き飛ばされた。

 新手か、と思った俺は攻撃の矛先を向けようとしたけど、すぐにやめた。


「ネイト君!」


 アディオルを跳ねのけながらやってきたのは、パフの上に乗ったソフィーだからだ。

 しかもこのタイミングは、サイコーにありがたい。


「ソフィー、ちょうどいいところに来てくれた! あいつらの中で、特徴が違うやつがいるかどうか、パフの能力で嗅ぎ分けられないか!?」

合点承知(がってんしょうち)(すけ)! パフはケイオスの匂いを覚えてるもんね!」


 そう、ソフィーとパフのコンビはケイオスの探知に優れている。

 ドラゴンの嗅覚は単なる匂いだけじゃなく、魔力すら嗅ぎ分けられるんだ。


「一番濃ゆ~い匂いをしてるのは……あいつだ、パフ、やっちゃえ!」

『ぎゃおーっ!』


 たちまちアディオルの群れの中から、ことさら怪しいらしいアディオルを発見したソフィーは、パフの口から炎を解き放たせた。

 すると、他の怪物があっさりと溶けていくのに対して、彼女が指さしたやつだけはあからさまに拒否反応を示したんだ。


『ギャアァース!』


 まるで、自分が死んだり怪我をしたりすれば、他にも被害が及ぶと言いたげな反応。

 間違いない、あれがアディオルの()()だ。


「やっぱりな! こういうのは、本体がいて残りは偽物(フェイク)ってのがゲームの相場なんだよ!」


 これまでどれほど倒しても効いていなかったように見えたけど、実際のところは、本物をかばって周りがやられていただけみたいだな。

 ギミックが分かれば大した相手じゃないし、こっちは増援もいる。


「テレサ、定刻通りにただいま到着でございます」

「フヒ、ボク……参上……!」


 頼れる仲間達が集結したのを見て、俺はにっと笑い、アディオルを睨んだ。


「よーし! 全員再集合したわけだし、ここでケリをつけようぜ!」


 『雷鳴鞭剣』をしならせ、俺は敵をビシッと指さしてやった。

【読者の皆様へ】


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