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【sideジーク】解放者の目的

 昔から、鬼ごっこは得意だった。

 広い屋敷を駆け回り、捕まえられなかった従者はひとりもいなかったもの。


氷魔法(ブリザード・マギ)等活の獄(だいいちじごく)・アブダ』」


 そしてワタシは、今回も負けはしない。

 ひょこひょこと逃げ回っていたダスティーの足元を凍らせてやると、彼女は子供を手放して、すってんころりとひっくり返った。

 どうにかしようともがく彼女の肩をタッチして、はい、次は貴女が鬼よ。


「『太陽の家』だけじゃなくて、ワタシの学園の生徒も狙ってくるなんて随分と無謀な手段に出たわね。でも、それが最後の(あやま)ちよ」


 ダスティーがこんな暴挙に出るなんて、ワタシは正直思っていなかった。

 どこかの誰かに余計なことを吹き込まれていないと、思いつきもしないでしょうに。

 屋敷から離れた通りの真ん中でダスティーを捕らえた私がそう思っていると、ふと、彼女の顔が焦りや怒りじゃなくて、戸惑いに満ちているのに気づいた。

 ごめんなさい、と顔で言っていた。


「……貴女……」


 彼女に罪はないと直感したワタシは、ダスティーを封じる氷を解いた。

 近くの建物の影から、のっそりと出てきた連中がワタシの答えの裏付けになった。

 こいつらなら知ってる――ネイトに話してあげた解放者よ。

 魔法を使えず、貴族に虐げられた者達が集まって、ただそれ以上の目的もなくうっぷんを晴らすようにテロ活動を続ける、残念な人達。


「形勢逆転だ。ガキを死なせたくないなら、そいつらから離れろ」


 フードを目深にかぶった黒づくめの男達は、保母さんや子供達を捕えている。


「ねーちゃん……」

「お、お嬢様……!」

「……分かったわ。魔法なら使わないから、その人達に手は出さないで」


 迂闊に刺激して皆を傷つけさせるわけにはいかないし、ワタシは努めて反撃の意志がないとアピールできるよう、両手を挙げて少しだけ後ずさった。

 ついでに、彼女から真意を聞いておかないと。


「ダスティー、ワタシを負かすためにこんな奴らと手を組んだのかしら?」

「ち、ち、違います! わたくし、確かに貴女をどうにかしたいと思っていましたわ! けど、まさかこんな危ない連中だなんて、思いもしませんでしたの!」


 焦り方からして、きっとダスティーは本当に何も知らなかったのね。

 ワタシを倒せるならなんでもするって言って、どこかの恐ろしい誰かに協力してもらったけど、作戦も事情も知らなかった。

 ここまで連れてこられてやっと、相手がどれだけ危険かを思い知ったみたい。

 しかも、ワタシを連れてくる役割まで用意されてたなんてね。


「何でもしてくれる友人としか聞いていませんでしたのに、テロリストだなんて! わたくしもさらわれて、子供を連れてこなければ、か、怪物がわたくしを殺すと……それに、ずっと魔力が吸われているような、変な感覚が……!」

「ドミニクが言っていた、ケイオスってやつの影響ね」


 少し前にドミニクが教えてくれたケイオスってのが、人の精神を汚染するとか、甘い言葉で人を騙して力を手に入れるなんて言ってたわね。

 解放者というより、その怪物に惑わされたと思っていいかも。


「世間知らずの貴族が手助けをしてくれるとは、憎い相手も使いようだ」


 そんな推測をしていると、解放者のひとりがワタシを指さして言った。


「ハーケンベルク家のひとり娘を捕えれば、世間も我々への態度を変えるだろう。抵抗はするなよ、人質とマヌケな生徒を殺されたくなければな」


 ここでホイホイ提案を受け入れれば、相手は増長(ぞうちょう)する。

 抵抗する気はないけど、ナメられるのも(しゃく)ね。


「こっちも条件を出すわ。抵抗しないから、ダスティーと人質は解放してあげて」

「抵抗しないなど、当たり前の条件だ」

「それが呑めないなら、今からここで氷魔法を使って徹底的に暴れてやるわ。ワタシが死ぬ間際まで、最後のひとりまで道連れにされる覚悟があるのかしら?」


 解放者を名乗るおバカさん達がたじろぐ。

 もう一押しで、こいつらは自分達の意志でワタシを拘束するんじゃなく、ワタシの思惑通りに動くようになる。


「皆を傷つけないというのなら、ワタシは何もしないと保証する。疑うのなら……」


 ついでに自分の両手を氷で覆うと、ダスティーが目を見開いた。


「な、なにをしてますの!?」

「反撃しないという意志表示よ。もう、人質を使う必要はないんじゃないかしら?」

「そこまで、どうして……気の迷った、バカなわたくしにまで……!」


 そうね、彼女は確かに気が迷ったのかもしれない。

 だけどやり方はともかく、貴女の行動はすべて、生徒やトライスフィアの未来を良いものにしたいと思っての行動よ。

 褒めこそすれど、バカだなんて言ってあげないわ。


「あら、聖徒会会長が生徒を守るのは当然でしょう?」


 それに、生徒を守るのはワタシの役目だもの。


「……ジークリンデ……!」


 ワタシがウインクしてみせると、ダスティーはボロボロと涙を零した。


「ごめんなさい……わたくしは、貴女が変わってしまったと、貴族の誇りを捨てたと思い込んで……でも、そうじゃない……ずっと憧れた時のまま……ごめんなさい……!」

「うふふ、憧れてもらってたなんて、嬉しい話ね♪」


 さて、ダスティーの本心を聞けて嬉しいのは事実だけれど、事態は変わらない。


「……おしゃべりは終わりだ。お前ら、あれを使え」


 解放者がローブの内側から取り出したのは、噂の紫の石。

 しかも全員が、大小はあるけど石を握り締めてるのよね。


「これを見たことがあるか? 魔力を増幅させ、俺達のような魔法を使えない者に、愚かな連中を倒すための力を与えてくれるアイテムだ」

「『紫の石』。それが何かも知らずに使うなんて、無知って怖いわね」

「なんでもいい。お前のような勘違いした貴族を殺す力は、長年虐げられた我々に与えられた復讐の権利なのだよ!」


 解放者がにやりと笑って、自分から紫の石を呑み込むと、彼らの姿がたちまち黒い炎のような魔力の塊に包まれてゆく。

 そうして生まれたのは、さっきワタシを襲った、人間ほどの大きさがある黒い犬。

 あの犬の正体が解放者だというのは、どうやら疑いようのない事実ね。


「あ、ああ……」

「助けて、誰か……!」


 人質を取り囲んで(うな)る怪物の口からは、もう人間の言葉は出てこない。


『――我はアディオル、食い尽くすもの』


 人間の言葉ではあったけど、あの解放者達が望んだ声なんかじゃないわね。

 純粋な欲望や憎悪だけで動く存在になり下がるのは、見ていてとんでもなく惨めよ。


「自我を失ってでも何かを成し遂げたいというのは、執念だけを見れば素晴らしいわ」


 褒める点がないわけじゃないけど、褒められたものかは話が別。


「でも、貴方達は根本的に間違ってる。自分を捨てるならまだしも、自分が物事を成し遂げたと勘違いするために力を行使するなんて、下の下よ。特に――」


 少なくとも、獣になったなら、ワタシの会話なんて通じないわよね。

 まあ、その方が都合がいいわ。




「――ワタシが時間稼ぎをしてたのに、気づかないようじゃあねッ!」


 物陰にもう、仲間が来ているのもちっとも悟れていないなんてお笑い(ぐさ)だわ。

 アディオルを名乗る怪物の後ろから飛び出してきたのは、両手に違う色の魔力を滾らせる――ネイトよ。


「ネイト!」

「任せとけ! 雷魔法(サンダー・マギ)レベル4、風魔法(ウィンド・マギ)レベル3!」


 彼の背中から放たれたのは、蜘蛛を模した8本足の雷の槍。

 それはばねのように、ぐぐぐ、と勢いをつけて。


融合魔法(フュージョン・マギ)レベル8『蜘蛛雷槍(ザ・エイス・シン)』!」


 攻城弓(バリスタ)よりも早く、すべてのケイオスを貫いた。

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