解放者、強襲!
「フンフンフンフンフンフンっ」
ひっくり返る俺の前で、テレサがバスケ部のようなディフェンスを見せる。
いつの間に残像が見えるほどのブロック技術を会得したんだ、テレサ。
「で、出ました……テレサさんの、フンフン……ディフェンス……!」
「ナイスだよ、テレサちゃん!」
『ぎゃおっ!』
ジークリンデが目を丸くするほどの防御力をクラリス、ソフィーにパフが褒め称えているけど、正直俺はもう、何が何やらさっぱりだ。
「……お前ら、こんなところで何やってんだ?」
のそりと起き上がる俺を見て、ジークリンデがくすくすと笑った。
「あらあら、可愛い守護者のおでましね♪」
そんな余裕しゃくしゃくな彼女が、フンフンディフェンスでダメージを受けていないと知るや否や、3人と1匹は臨戦態勢に入る。
このコンビネーションを、もっと別のところに活かせないのかよ。
「いくらカッコいいカイチョーさんでも、抜け駆けしていい感じになるなんてダメ! 私達はやらしー雰囲気からネイト君を守る……そうっ!」
ソフィーの掛け声とともに、全員が一斉にびしっとポーズを決めた。
「「『ネイト様を守り隊』だよ(です)(でございます)っ!」」
しかもその背後で、パフの炎を使った爆発の演出もセットだ。
ほら、あれ。戦隊モノで5人そろった時に、後ろで爆発する演出だよ。
施設の子供達が遠くではしゃぐ気持ちも何となくわかるくらいのド派手さに、俺はもう、俺はただ茫然とするばかりだった。
「そのまんまじゃねーか」
さて、敵意を向けられているはずのジークリンデは、なんだか一番楽しそうだ。
「ふーん? つまり、貴方達は皆ネイトが気になるんだけど、まだ一歩踏み出せてないライバル同士ってところかしら?」
「そうだよっ!」
彼女に聞かれたソフィーは胸を張って答えるけど、他のふたりはそうじゃない。
「え、あ、いや、気があるかって、フヒ、そういうのじゃ……」
「メイドが主人を守るのは当然のこと。テレサは、ウェディングドレスに身を包み、ネイト様と真っ赤なカーペットを歩みたいとはまったく思っておりません」
さっきまでの気迫はどこへやら、クラリスはともかく、テレサまでもが無表情なのに動きがしどろもどろだ。
というか、ほんとにこいつらは何をしに来たんだ。
「……わけがわかんねーんだけど。ジークリンデさん、通訳できます?」
「鈍感なネイトには、ちょっと難しいかもしれないわね」
相変わらずジークリンデだけが、誰よりも楽しそうに笑ってる。
「でも、ワタシとしてはライバルは大歓迎よ! 誰が何人相手でも、ワタシは一度狙った相手を逃がすつもりはないから、覚悟しなさい♪」
「むむっ、相手にとって不足なしだねっ!」
ついでにソフィー達には話が通じてるんだから、もう何が何やら。
いくら俺だけが男だからって、置いてきぼりは辛すぎるぞ。
「頼むから、誰か分かるように俺にも事情を説明――」
とにもかくにも説明不足が極まっているシチュエーションに耐えかねて、俺はヴァリアントナイツの皆をどかして話を聞こうとした。
ところが、これまたそうはいかなかった。
――少し離れたところで、いきなり爆発が起きたんだ。
「……今のは?」
俺だけじゃなく、その場にいる全員が固まった。
さっきの演出のような爆発じゃない。
大通りから少し離れた家屋から火や煙が見えるほどの、大火事のような破壊だ。
「テレサ、あの爆発も演出のひとつなんだよな?」
「いいえ、違います。あの方向からの炎は、テレサ達の予定に入っておりません」
「じゃあ、誰が……」
困惑する俺達の耳に、今度は別方向からの爆発と、甲高い声が聞こえてきた。
『――我らは人の手に余るものから、人を解き放つ! 貴族の、王族の誤った治世から人を解き放つ! 刃向かうならばすべてを焼き払う!』
魔法で拡声されたようなそれは、大通りを中心として響き渡る悲鳴に混じり、恐るべき炸裂と延焼、恐怖を間違いなく煽り立てていた。
『我らは『解放者』! 新たなる世界の先駆けとなる存在である!』
それもそのはず――爆発を起こしたのは彼らだ。
よりによってこんなタイミングで、テロ活動が始まったんだ!
「『解放者』って、まさか!」
俺がジークリンデの方を見ると、彼女の顔も険しくなっていた。
「さっき話していた通りよ! 近頃王都を騒がせてるテロリストだわ!」
テロリストが現れるというのは、『フュージョンライズ・サーガ』のシナリオを追っていれば、中盤の頭で戦う羽目になるからよく知っている。
でも、いざ戦うとなれば話は別だ。
相手はトライスフィアの生徒と違って、腹を括ってるマジの人殺しで、こっちの挑発やしょぼくれた作戦なんか通用しない。
要するに、敵の格が違うってわけだ。
「大通りから、人が逃げてきます……き、きっと、すぐ近くで活動してます……!」
クラリスの顔にも焦りが浮かぶ中、俺はやるべきことを頭の中で整理する。
それはもちろん、敵を倒す、テロリストの正体を探るとかなんかじゃない。
「こりゃ、ちんたらしてられないな、ジークリンデさん!」
俺とジークリンデの考えは同じ――子供達を守ることだ。
「ええ、『太陽の家』の保母さんと子供達を逃がさないと! ネイトと『守り隊』の貴女達も一緒に逃げてちょうだい、ワタシが護衛するわ!」
彼女が遠くを見据えてぐっと拳を握ると、俺よりもずっと正義感の強い、ヴァリアントナイツも呼応する。
「ひとりだけ戦わせるなんてできないよ! 私もパフと一緒に、皆を守る!」
「ならば、テレサも助力いたしましょう」
「やめとけ、今はジークリンデさんの言うことに従うんだ!」
ソフィーやテレサを制するのは、同じ仲間である俺だ。
テロリストとヒロインを戦わせるなんて、彼女達にバッドエンドを迎えさせるわけにはいかない俺としては絶対に勧められない。
そもそも、ファンタジー世界のテロリストは銃や爆弾を使ったり、特攻なんて仕掛けたりはしてこないけど、もっとヤバい武器を使い回す。
「この世界のテロリストは、魔物を放って攻撃を仕掛けてくるんだよ! あの手の連中は飼ってる魔物はデカいんだ、下手な魔法じゃ返り討ちに遭うぞ!」
魔物――普通の生物とは違う、異形にして凶暴な生命。
彼らは火を吹き、牙をむくそいつらを飼い慣らして解き放つんだ。
「随分と詳しいのね、ネイト?」
「そりゃまあ、ゲームで一度だけ戦ったことが……いや、何でもない!」
危うくネタバレしそうになった自分の口を、俺は慌てて塞いだ。
「とにかく、これまでどうにかしてきた生徒とは勝手が違うんだ! 相手は俺達を殺すのに何の躊躇もない連中だぜ、今は避難を……」
そんなコントまがいのやり取りをしている時間は、明らかに無駄だった。
というのも、もうとっくに俺達の近くまで来ていたんだ。
『グウルル……!』
恐ろしい唸り声を響かせて、悲鳴の間を抜けるようにして姿を現したのは、やはり人間ではない奇怪な生物だった。
「……来やがったか、って、あれは……!」
ただし、黒い外皮に覆われたあれは、魔物なんかじゃない。
「ネイト様、間違いございません。あの姿は……」
「ああ――あれは、『ケイオス』だ!」
俺達の前に出てきたのは、このゲームの大敵『ケイオス』だったんだ。
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