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ヴァリアントナイツ、ゴーゴー!

 ――はっきり言って、ダスティーの代理人達は、俺達の敵じゃなかった。


「フヒヒ……幽霊に、魔法が通じると……思うんです、か……?」


 クラリスの骸骨(がいこつ)人形は、どれだけ魔法攻撃を加えてもダメージを受けない。

 眩しい光をぶつけないと何の効果もないと気づかないまま、気味の悪い人形に無意味な攻撃を続ける女子生徒達に、骸骨がわらわらとまとわりつく。


「きゃあああっ!?」

「何よこれ、コワ、キモ、近寄らないでよおお!」


 まるでゾンビ映画のように、怨念(おんねん)をまとった骸骨が群がってゆく。


「怖い、怖いと……嫌えば嫌うほど……ボクの呪いは、フヒャ、強くなりますよ……!」


 涙をまき散らして叫ぶ生徒のリアクションが、クラリスにはたまらなく楽しいようだ。

 そこから少し離れたところでは、テレサが無属性の強化魔法でバルクアップした生徒達のパンチやキックを、一身に受け止めていた。

 小さな女の子に打撃を叩き込むのに何の躊躇(ちゅうちょ)もない連中は、ある意味職務に忠実だ。


「ふむ、これがトライスフィア魔導学園で2年ほど勉学を重ねた強化魔法ですか。残念ですが、テレサには遠く及びません」


 ただ、相手がテレサだったのが運の尽きだな。

 何発顔面に拳を撃ち込もうが、何発体に蹴りを入れようが、テレサはびくともしない。

 そりゃそうだ、彼女はお前らのそれよりもずっとキツイ魔法の連射が直撃したところで、眉ひとつ動かさないほど強力なバフをかけてるんだからな。


「このチビ! 俺のパンチを受け止め……痛だだだだ!?」

「チビとは失礼でございますね。その空っぽの頭を上から1000回叩いて、半分に縮めて差し上げましょう」


 しかも、ただ攻撃を受け続けるだけじゃない。

 顔面を鷲掴みにして持ち上げられた男子生徒が、苦しそうに呻く。

 もっとも、思わず攻撃の手を止めた彼らを待っているのは、圧力に耐えきれずに気絶した男子生徒を投げ飛ばす、テレサの追撃ではなかった。


「いくよ、パフ! 私達のコンビネーションをぶつけちゃおーっ!」

『ぎゃあーうっ!』


 明後日の方向から突進を仕掛けてきた、ソフィーとパフのコンビだ。

 小さなドラゴンのパフが攻撃に徹し、魔導士のソフィーが指示を出すさまは、傍から見れば飼い主とペットに見えなくもないだろうな。

 敵の攻撃を双方が察知して、守り合うさまに気付けてないなら、主従関係と勘違いしてもおかしくはない。


「な、なんだ!? ドラゴンと飼い主が、互いを守って……」


 ただ、そのワードは間違いなくNGワードだ。

 ふたりはそんなのより、もっと強い絆で結ばれてるんだから。


「飼い主なんてシツレーだよ、私とパフは親友なんだから! 竜魔法(ドラゴ・マギ)『へっどたっくる』!」

『ぐるおおおっ!』


 ソフィーの掛け声で、頭に魔力をまとわせたパフが生徒の群れに突っ込んだ。


「ちょ、待、早いぎいいいっ!?」

「よせよせよせぎゃぼすっ!」


 どれだけ強力な魔法を持っていようが、ドラゴンの突進に耐えられるわけがなく、8人ほどの生徒がボーリングのピンのように、まとめて吹っ飛ばされた。

 そのすぐ近くで、テレサに力負けした男子生徒が倒れ、クラリスの魔法の恐怖が限界に達して気絶した女子生徒が積み上げられた。


「あとは、あそこにいる5人だけだね!」

「ネイト様、とどめはお任せいたします」

「任されたぜ! 『飛行乱打拳(ストーンビット)』、フルバーストだああぁッ!」


 こりゃあ、俺も期待に応えないとな。

 俺の後ろに配置された石の拳が、一斉に残った敵めがけて突撃した。


「「どっぎゃあああああーッ!?」」


 さながらミサイルのような速度で直撃した拳の威力に耐えきれず、5人はグラウンドの端まで押し込まれた末に、ひっくり返ってぴくぴくと痙攣するだけになった。

 風魔法で加速したげんこつを撃ち込まれて、もう一度立ち上がれるとは思えないな。

 要するに、もう俺達に反撃できる相手はいないわけだ。


「さて、これで最後みたいだな。ダスティーさんよ、まだやるか?」


 俺が聞くと、ダスティーは首を横に振った。


「……どうやら、ゴールディング達の見くびっていたようですわね……分かりました。ここはわたくし、素直に敗北を認めますわ」


 ダスティーが敗北を認めた瞬間、グラウンドが湧きあがった。


「やったー!」

「フヒャアっ!?」


 勝利の喜びでソフィーに抱き着かれ、クラリスは目を白黒させる。

 俺もテレサの肩をぽんと叩く。


「う、うう……」

「申し訳ございません、副会長……」


 一方で、よろよろと立ち上がった代理人達は揃ってダスティーの前に並び、尊敬する相手に恥をかかせたのを詫び、深々と頭を下げた。

 これがジョンやアラーナ達のようなどうしようもない連中なら、公衆の面前で処罰を下すんだろうけど、ダスティーはそんな奴じゃないと俺は知ってる。


「貴方達は代理として、精一杯務めを果たしましたわ。責める理由などありません。それより、カレーを用意してくださいまし」


 彼女が健闘をねぎらうのと、まるで準備されていたかのように、テーブルの上に乗せられたカレーがさっと出てくるのは同時だった。


「お待たせしました! 学園経営カフェ『ナンデ・モ・アール』の新作、『辛さ3000倍悶絶カレー』です!」


 ソフィーのお手製料理も真っ青な、ボコボコと泡立つ血のように赤いカレー。

 食べれば地獄一直線のヤバすぎる料理に、ダスティーを慕う生徒達も慌てふためく。


「だ、ダスティー様……!」

「このカレーは、食べた者が医務室に運び込まれるほどの劇物です! どうかお考え直しください、私達が食べますから!」

「モンテーロ家の女に、二言はありませんわ! これくらい、あっという間に……」


 彼ら、彼女らの説得も無視して、ダスティーは椅子に座ってカレーをすくう。

 そして一気に口に運んだ、その刹那。


「おぼおおおぉぉ~っ!? 熱っづああああああああ~っ!?」


 凄まじい絶叫と共に火を吹き、ダスティーは卒倒した。

 白目を剥いて倒れた彼女の唇は、まるで明太子のように腫れている。


「ふ、副会長ぉ!?」

「医務室に運べ、急げ!」


 担架に乗せられて運ばれてゆくダスティーを、ジークリンデは辛さと真逆のところにある甘ったるいコーヒーを飲みながら、心底楽しそうに見つめていた。

 この人、サディストなんだろうな。


「ダスティーでも、辛さ3000倍はダメだったみたいね。残念っ」


 ストローから口を離した彼女は、悪戯っぽく俺のところまで来て、そっと(ささや)いた。


「ネイト、お散歩デートは出来そうにないから、お昼休みに聖徒会室に来てちょうだい。今度は真面目に、貴方に聞いてほしい話があるの……皆には秘密でね」


 さっきまでと違う声色に驚いた俺が振り向くと、ジークリンデはもう俺達に背を向けて、校舎に歩き出していた。


「それじゃあ楽しみにしてるわ、チャオ~♪」


 昨日と同じで、立ち去る時はこっちに顔を見せもしない。

 どこまでも自由奔放な彼女を眺めていると、テレサ達が駆け寄ってくる。


「……ネイト様、ジークリンデ様と何をお話に?」


 色々と相談したいことはあるけど、ジークリンデから秘密にしてほしいと言われている以上、何も話せないのが現実だ。


「な、なんでもない!」

「ふーん……」

「フヒ……」


 そうなると、ソフィーやクラリスがじっとりとした視線をぶつけるのも当然だ。


(うっ、皆の視線が痛い……!)


 結局俺は、3人のメンチビームを背中に受けながらグラウンドを去った。

 こうして、ジークリンデとダスティーの代理決闘は終わったのであった。

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