4人VS20人ちょい
それから俺達ヴァリアントナイツと、ダスティーを慕う男女生徒20人ちょいが芝生を踏みしめてグラウンドで向かい合うには、そう時間はかからなかった。
先生達は案の定、生徒同士の決闘だからと立ち合いにも来ない。
代わりに集まってきたのは、騒ぎを聞きつけた各学科の生徒だ。
「ほんとだ、やってるぜ! ジークリンデ会長と、ダスティー副会長の代理決闘だ!」
ただわいわいと野次馬に来ただけならまだしも、よからぬ会話も聞こえてくる。
「おい、お前どっちに賭ける?」
「会長の代理に10枚!」
「ゴールディングがムカつくから、副会長に15枚!」
自分事じゃないからって、人の喧嘩で金を賭けようなんて、いい度胸だな。
「クラリス、決闘賭博って校則違反だよな?」
「当然です……顔は、覚えましたので……あとで、呪います……フヒ」
あーあ、ご愁傷さまだ。
黒と紫の長髪をなでつけるクラリスは、やるといったらやるタイプだからな。
人形が入ったクラリスのカバンがひとりでに鳴るのを見て、あのバカどもに同情していると、ダスティーが俺達の前に躍り出た。
「最初に言っておきますが、いくら決闘だからといって、過度に危険な魔法の使用はさせませんわ。これはもちろん、わたくしを慕う彼ら、彼女らも同じですわ」
邪魔だから殺してやるとか、決闘だから死んでも仕方ないだとかは、この世界だと(世間的にどんな評価を受けるかはともかく)わりとありふれてる。
貴族主義ならやりかねないと勝手に思い込んでいたけど、ダスティーはそんな手段は使わないみたいだ。
「意外だな。貴族主義に刃向かうやつはぶっ飛ばす、くらい言うのかと思ったぜ」
「従わせるのに意味などありませんわ。単なる暴力ではなく、相手が貴族を敬い、付き従いたいと思える魔法を見せつけるのが、貴族主義の真の決闘でしてよ」
ダスティーが望んでいるのは支配じゃなく、学園の繁栄か。
そういう意味なら、こいつとジークリンデの求める道は並行しているのかも。
「あんた、根本じゃジークリンデ会長と同じなんだな」
俺がそう言うと、ダスティーが顔を真っ赤にして湯気を噴き出した。
「むっきーっ! わたくしが、あれと同じなんて侮辱ですわっ!」
彼女が指さした先にいるのは、野次馬に混じって椅子に腰かけ、特大のカップに入ったクリーム山盛りのスイーツ・コーヒーを飲むジークリンデ。
俺達を代理に選出しておきながら、本人はこの体たらくだから、呆れるのも当然か。
「応援してるわよ、ネイト~っ♪」
「……ああ、ありゃ確かに違うな」
ひらひらと手を振って応援するジークリンデを、ダスティーがきっと睨んだ。
「何を飲んでますのよ、貴女はっ!?」
「何って……『ムーンダッシュコーヒー』の新作、『チョコレートマシマシカタメフラペチーノ』をクリームとチョコチップ多めのトールにしただけよ?」
「代理人を気にも留めずにコーヒーがぶ飲みなんて、バカにしてますの!?」
ダスティーの至極真っ当な意見に、ジークリンデはストローでクリームをズゴゴゴゴ、と勢いよく飲み干してから答えた。
「いいえ、バカになんかしてないわ。ワタシはただ、ネイトが絶対勝つと思っているだけ。信用した人を必要以上に心配するなんて、かえって失礼じゃない?」
なるほど、彼女なりの俺達への信頼の証ってわけか。
ただ単に、バカみたいにコーヒーを飲んでるわけじゃないんだな。
「……それは、確かに……」
「あ、クリームさらにマシでおかわりをちょうだい♪」
前言撤回。この人は確実に、何も考えずにスイーツ片手に決闘を観戦してる。
偶然居合わせたカフェの店員におかわりまで要求するワガママ王女様のふるまいに、とうとうダスティーは反論すら諦めたようだった。
「まったくもう! かまってられませんわ、早速始めますわよ!」
彼女の一言で、周りに緊張が奔る。
野次馬達も騒ぐのをやめて、決闘の始まりに意識を集中させる。
代理人達が両手に魔力を滾らせ、臨戦態勢に入った。
「皆、いけるな?」
「うん♪」
『ぎゃお♪』
「もちろんでございます」
「……全力で……」
俺達も互いに頷き合い、意識を敵に向ける。
「魔導士の誇りにかけ、いざ尋常に!」
右手に風、左手に土のレベル3の魔力を。
パフの翼に、迸る嵐を。
亜空間から取り出した大斧『ベノムバイト』を握り締め。
這いずり出てきた骸骨人形に魂を宿らせ――。
「決闘、開始っ!」
ダスティーの掛け声とともに、最初に攻撃を仕掛けたのは敵の方だった。
「水魔法『サージウェイブ』!」
「土魔法『アッパーピラー』!」
「無属性、強化魔法『ショットナックル』!」
流石に属性魔法科、無属性魔法科問わずエリートを集めてるって周囲の評判通り、様々な魔法が俺達を打ちのめそうと押し寄せて来た。
壁に穴を開けてしまいそうな水流に、地面からせりだしてきた石柱。
炎や風も混ざり合う中中には、自分の手足を強化して、踏みしめたグラウンドが軋むほどの脚力で俺達を蹴飛ばそうとする奴までいる。
確かにこれだけの魔導士の量と質は、ここの生徒でも太刀打ちできないだろうな。
けど、俺達はそうじゃない。
「――ダンカンの時より強くなったってとこ、見せてやるか」
弱さを乗り越えて、前に進む道を選んだ俺達に、できないことはない。
「融合魔法レベル6『飛行乱打拳』!」
石でできた無数の拳が、激流を引き裂く!
「竜風魔法『すとーむすとらいく』!」
『ぐおおぉぉーっ!』
竜が巻き起こしたつむじ風が、炎と雷を消し去る!
「カティム流斧闘術『星津波』」
魔力をまとった大斧が、地面からせり出す石柱を叩き潰す!
「幽霊魔法『ノミコミカアス』!」
そして最後に、骸骨人形が放った呪いの波動が、バフ魔法で殴りかかろうとした生徒全員を弾き飛ばした!
「「どわああああああああーっ!?」」
20人近い生徒が、野次馬のいるところまで転がっていったのを目の当たりにして、その場にいた全員があんぐりと口を開けた。
魔力ってのは、基本的にしっかりと練り込んで魔法として発現させればさせるほど、それを破壊された時の衝撃が大きくなる。
だから、本気の攻撃を放った奴らが大ダメージを受けるのは、当然だな。
「……い、一撃で……」
「20人以上いる生徒が、吹っ飛んだ……!?」
騒めく生徒達の中で、ただひとり表情を変えていないのはジークリンデだけだ。
「やっぱり、ワタシの目に狂いはなかったわね」
彼女は俺達の実力を――あるいは魔法の秘密を、見抜いていたんだろうか。
そう思わせるような視線を浴びる俺達に、驚きを隠せないのはダスティーだ。
「……まるで、何度も死線をくぐり抜けたような力ですわね。おおよそ1年生とそれに付き従うメイドの実力ではありませんわ」
何度敵をぶっ飛ばしても、相手目を見開いた顔だけは気分爽快だぜ。
「ネイト・ヴィクター・ゴールディング。貴方、何者ですの?」
そしてついでに、俺が極悪人だって教えてやるのもな。
「俺か? 俺はただの――」
「みんなのヒーロー、ネイト君だよっ!」
「そこはカッコよくキメさせてくれよ!?」
まあ、たまにこういう日もある。
ソフィーのサポートに思わずずっこける俺を見て、ジークリンデがくすくすと笑った。
「ヒーロー、ね。いいじゃない、そういうの♪」
悪い気はしないのが、超絶美人のいいところだな。
さて、敵がよろよろと起き上がってくるあたり、まだ諦めてないみたいだ。
「ったく……とにもかくにも、やるからにはとことんやってやるぜ!」
ヴァリアントナイツが一斉に魔法を構えると、第2ラウンドのゴングが鳴った。
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