因縁の副会長!
「んもー、ダスティーってばちっとも変わらないのね」
「当たり前ですわ! 貴女を打ち倒して、わたくしこそがトライスフィア魔導学園の聖徒会会長にふさわしいと認めさせるまで、決して折れませんわよ!」
幼馴染との再会のようにけらけら笑うジークリンデと、キンキンと怒鳴るダスティー。
貴族主義の筆頭を名乗る彼女が出てきても、俺は感動のひとつも覚えなかった。
(こんなキャラクター、『フュージョンライズ・サーガ』にいたっけか?)
というのも、俺はジークリンデがバッドエンドを迎えるところまでゲームを進めたけれど、こんなキャラクターは見た覚えがないからだ。
ストーリーのゆがみで発生したのかもしれないし、もしかしたら設定として存在するのに、ゲームで一度も出せていなかっただけかも。
もしもそうなら、あのゲームはやっぱりクソゲー寄りだな。
ひとまず、分からないことはテレサの知識に頼るのが一番だ。
「ええと、テレサ? この人が、聖徒会の副会長?」
「その通りでございます。モンテーロ伯爵家のひとり娘にして聖徒会副会長、属性魔法科所属の3年生、ダスティー・モンテーロです」
「聖徒会所属って……その割には、会長とバチバチじゃねーか」
確かに、さっき聖徒会副会長とは言ってたが、俺は聞き間違いだと思ってた。
この仲の悪さ――というか一方的な感情のぶつけ方からして、とても同じ組織に属しているなんて想像できないだろ。
「ふ、副会長は……貴族主義の、筆頭で……ジークリンデ会長を、い、一方的に……敵視しているん、です……」
「片方は自由を、片方は統治を求めてるってか」
そりが合わない理由に何となく納得していると、ダスティーがやっとこっちを見た。
「……あら、そこにいるのはゴールディングですわね?」
「今気づいたのかよ」
「噂なら聞いてますわよ。名家の生まれでありながら、ジョン・ロックウッドを失脚させて、貴族主義に巨大な穴を開けようとする……台風のような男ですのね」
台風とは、素直な誉め言葉か、はたまた嫌味か。
「またこの流れか。で、あんたも俺を敵視してるのか?」
俺が問いかけると、意外にもダスティーは肩をすくめるだけだった。
「憎たらしいとは思っていますわ。でも、ロックウッドとビバリーという、貴族の風上にも置けない連中を倒したことは、素晴らしいとも思っていましてよ」
「あんた、話が意外と通じるんだな」
「『仇敵にも礼儀を』。我がモンテーロ家の家訓でしてよ」
ほうほう、流石は自分で貴族主義のリーダーを名乗るだけある。
他の連中よりも、ダスティーはずっと話が通じそうだ。
「とにもかくにも、ジークリンデ! 勝手に聖徒会会長選挙を開催して、貴族主義をなくすなど! 責任も背負わない、奔放身勝手な貴女だけは許せませんわ!」
ただ、ジークリンデが絡むと、急に話が通じなくなるらしい。
傍から見れば学園のルールをすべて壊そうとするフリーダムな会長と、規律と正義を守ろうとする副会長の「推せる~」な関係だ。
問題があるとすれば、ダスティーのマジギレリアクションを、ジークリンデがおちょくるのを心底楽しそうにしている点だな。
「無責任なつもりはないわ。ただ、トライスフィアの在り方をしっちゃかめっちゃかにして、新しい学園を作りたいだけよ♪」
「それを無責任というのですわ! もう我慢なりませんわ、今この場で決闘を――」
びし、と指さして再度決闘を申し込むダスティー。
そんな彼女を見ているうち、ジークリンデはぴん、と指を立てた。
「――いいわ、決闘なら受けてあげる」
決闘を受けるのか。会長と副会長の決闘が見られるのか。
周囲がわずかに騒めいた時、俺は彼女の視線がこっちに向いているのに気づいた。
まずい。ソフィーからの経験則で学んだが、こういう表情をしているヒロインは、何かとんでもない計画を思いついたに違いない。
俺が慌てて口を挟むよりも先に、ジークリンデが高らかに言った。
「ただし、代理決闘よ。ここにいるネイトと、貴女のお友達全員とで、どうかしら?」
彼女が宣言したのは、俺を自分の代理とした決闘。
――俺の予想よりもずっとひどい、最悪の計画だった。
「はあああああーっ!?」
周りの驚きをかき消すほどの大声が、俺の喉から飛び出すのも当然だ。
「おいおいおいおいおいおいおい!? なんで俺が、どうして決闘を!?」
「そう慌てないでちょうだい。ちゃんとした理由があるのよ」
仮に理由があってもどうかと思うが、一応聞いておかなくちゃな。
「理由ってのは?」
「ドミニクが育てた弟弟子の実力が見たいからー♪」
「最悪だな、あんたは!」
聞くだけ損だった。
どうやらこのジークリンデ・ハーケンベルクという女性は、その場の思い付きとやりたいこと、楽しいことだけで頭の中が構築されているみたいだ。
ドミニクから話を聞いただけの男に、自分の命運をあっさり託すなんて。
こんなのでよく、聖徒会の会長としてやってこれたもんだよ。
「お待ちくださいませ、聖徒会会長。テレサが異論を唱えます」
俺が心底大きなため息をついていると、テレサが会話に割って入ってくれた。
「テレサ……!」
ああ、やっぱりいざという時に頼れるのはクール系有能メイドだよ。
「ネイト様ひとりでは不利かと。ここはテレサ達も参戦の許可をください」
「止めるんじゃないんかーいっ!?」
前言撤回。
テレサは天然系ポンコツメイドです。
助けてくれるのはありがたいけど、そこは止めてくれ、頼むから。
「ネイト君と私達なら、百人力どころか一億万人力だよっ!」
『ぎゃーう!』
「フヒ……ぼ、ボクなんかでよければ、じょ、助力します……」
しかもそこに、ソフィーやパフ、クラリスまで参戦する始末だ。
大乱闘なゲームじゃあるまいし、『全員参戦!』しなくたっていいんだよ。
挙句の果てにジークリンデは、ヴァリアントナイツが皆、代理決闘に参加すると聞いても止めずに、一層ニコニコ笑うだけだ。
……もしかすると、これが目的だったのか?
「いいお友達を持ったわね、ネイト。さて、ダスティー、あとは貴女の返事次第よ?」
真相を聞く前に、ジークリンデがダスティーに問いかける。
彼女は後ろに連なる、自分を慕う者達をちらりと見た。
「こちらの人数は20を超えますわ。数の差を承知の上で?」
「もちろんよ」
「貴女が負けたなら、今朝の集会での発言を撤回してもらいますわ。そちらの条件は?」
「校内のカフェの新作『辛さ3000倍悶絶タイマ・カレー』を完食してもらうわ」
「なかなか刺激的な条件ですわね……っておバカ! どこまでわたくしをおちょくれば気が済むんですの!?」
ここまで来ると、もはやコントだな。
「もういいですわ! そちらから提示した条件で、今更不利だなんだと言い訳は聞きませんわよ! い・ま・す・ぐ、あそこのグラウンドで代理決闘ですわーっ!」
頬をげっ歯類か狸のように膨らませたダスティーは、ジークリンデの横を、他の貴族主義の生徒を連れてすり抜けていった。
授業も何もかも無視して決闘開始って、ここは蛮族の棲み処かよ。
残されたのは、久方ぶりの決闘に沸き立つトライスフィアの生徒達。
俺の力になろうとなんだか活き活きしている、ヴァリアントナイツの仲間達。
そして、決闘を受けておきながら、自分は高みの見物を決め込もうとする、とてもゲームの同一人物とは思えないジークリンデ。
「頑張ってね、ネイト♪」
「頑張ろうね、ネイト君っ!」
「気合でございます、ネイト様」
「フヒヒ……やるからには、と、とことんです……」
花も咲き乱れるほどの、美少女4人の笑顔を見せられた俺は――。
「……最悪だ……」
げんなりと、肩を落とした。
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