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ようこそ、新しい仲間

 ジョンの秘密は、家族ぐるみでの魔物の育成だ。

 違法とは言ったが、そもそも魔物を抱え込んでる時点でアウトなんだぜ。


「魔物征伐の名誉が薄れてきたのを恐れて、危険な魔物を生み出して退治するマッチポンプを企むなんて、お前の両親は随分とこすいやつなんだな?」


 もちろん、テレサはその理由も探し出してくれた。

 ロックウッド家は確かに名家だけど、魔物による被害も少なくなってきて、貴族じゃなく騎士が討伐する時代になった近頃は、その名前の権威も薄れてきていた。

 そこでこいつらは、身内で危険な魔物を育てて、野に放って自分で倒そうとしていた。

 他人の被害も考えない利己的(りこてき)な発想は、親譲りだったんだな。


「嘘でしょう、ロックウッドさん、まさか……」

「……く、くだらない妄言に決まっているよ。俺の実家は名家だよ、清く正しい……」


 しもべ達からも冷たい目で見られてるジョンは、まだ言い訳を並べようとしてやがる。


「お前はお前で、親からもらった魔物の幼体を、闇取引で売ってるだろうが」

「ほひっ」


 だから、ジョンの悪事も暴露してやる必要があったんですね。

 ちょっと調べりゃすぐに見つかるようなガバガバな隠蔽(いんぺい)で、よくもまあこれまで散々学園の頂点に立つだなんて世迷言(よまいごと)をぬかしてたもんだ。


「魔物を育てるなんざ、貴族でも問答無用で領地の調査、身柄の拘束が入る超重罪だって知ってるよな? もうじき、ロックウッド家の没落RTA(あーるてぃーえー)の始まりだ」


 でも、もうこいつに明るい未来なんて待ってないし、再走の機会も与えられない。

 ジョンも自分や家族の破滅の未来に気づいたのか、椅子に座ったまま、口の端からぶくぶくと泡を吹いてやがる。

 ――さて、俺のお仕置きはまだ終わらねえぞ。


「で、あんた達も関係ないなんてツラしてるけど、結構ヤバいことしてるよな?」


 俺がやさし~く声をかけてやると、悪党どもが一斉にビクッと震えあがった。


「マライア委員長、学園に彼氏がいるのに、外で5人も男と関係を持つのは風紀委員長としてはどうなんだ? しかも金を(しぼ)り取ってポイするんだから、世も末だぜ」

「あ、ちょ、なん、どうして知ってるんですか!?」


 真面目ぶってるマライアの正体は、モテない男を片っ端から食い物にする魔性の女。

 騙された方も悪いとはよく言うけど、「こんな姿を見せるのは貴方だけ」を常套句(じょうとうく)に人をほとんど洗脳まで持ち込むのは流石に許せねえよな。


「書記のパスカルは、あー、世間にバレてない軽犯罪の前歴が山盛りだ。昨日の夜、テレサにリストアップしてもらったんだが、100件超えは想定してなかったよ」

「う、ううっ……!」


 こいつはこいつで、捕まらない範囲の軽犯罪を趣味にしてやがる。

 100件以上もすり、万引きを繰り返して、よく捕まらなかったもんだよ。


「先生方は王都のアングラで、女の子を好き放題してるんだろ? じきにあんた達の身柄を、王都警邏(けいら)隊が拘束しに来るぜ。ついでにテレサ達がドン引きしてるぞ」


 で、青ざめてる先生連中はもうゲロカス以下だ。

 嫌がる女の子に乱暴なんて、うちの女子メンバーブチギレ案件だからな。


「女の子にひどいことするなんて、サイテーだよっ!」

「教職を務める者にあるまじき行いです。あなた方は心底侮蔑(ぶべつ)すべき、恥ずべき方々です」


 ソフィーやテレサに睨まれて、先生達は威厳もクソもなく、身を縮こまらせる。

 お前らが好き放題してた女の子を売り飛ばす施設は、今朝騎士達が押し寄せて壊滅状態に陥ったし、じき女の子がお前らの名前を並べ立ててくれるぜ。

 さて、まだまだ脅せる話はあるけど、とりあえずここまでにしとくか。


「おいおい、どうした? どいつもこいつも、顔色が悪いなァ?」


 わざとらしく声をかけてやると、ジョンの顔に巻かれた包帯の内側がうっ血する。

 怒りとか憎しみとか、自分の無様さとか何もかもがごちゃ混ぜになってるのに、何もできない無能さを、自分で痛感してるんだろうな。


「ぐ、ぐぐ、ぐぐぐぅ……!」

「言ったろ、ジョン坊ちゃま?」


 ぽん、と肩に手を置いて、俺は最高の笑顔で告げた。


「――俺の仲間を潰すつもりなら、自分も潰される覚悟をしとけってな」


 正真正銘の無能になり下がったジョンほど、惨めなものもない。

 もちろん俺の仲間達は、同情なんてしてやらない。


「我々ヴァリアントナイツを、甘く見てもらっては困ります」

「クラリスちゃんを、仲間を傷つける人は、絶対に許さないんだからっ!」


 テレサとソフィーと共に、風紀委員会に怒りをぶつけるのはクラリスだ。


「……委員長……」

「ち、違うんですよ、クラリスさん! あんなのは全部ゴールディングのでまかせです、風紀委員長の自分が、まさか学園の外で6人もお付き合いしている相手がいるなんて……」

「ネイトさんは、5人と言っていましたが」

「えっ!? いや、そのですね……」


 語るに落ちたのを察して、腰が抜けたらしい様子のどうしようもないマライア委員長の前に、ずかずかと歩み寄ったクラリスは、ぎろりと彼女を見下ろした。

 自分の正義を否定していた人が、悪の行いを平然と働いていた。

 貴族に取り入り、本当に大事な正しさを踏みにじっていたんだから、許せるはずがない。


「……二度と、二度とボクの前で……正義も風紀も、語らないでください……!」

「は、は、はいぃ……!」


 がくがくと震えるマライアが恐怖の涙を零していると、外が少しだけ騒がしくなった。

 もちろん、ジョン達を助けに来たやつなんてわけがない。


「おっと、こりゃ警邏隊と騎士が押し寄せて来た音かな?」

「「ひいっ!」」


 ジョンと先生達が、一斉にひっくり返った。

 今更だけど、警邏隊も騎士も贈賄(ぞうわい)なんて通じないし、無駄な交渉なんて試みれば罪が一層重くなる。

 こいつらがこれまで繰り返してきた隠蔽工作なんて、絶対に通じない。

 文字通り、お縄につく時が来たってわけだ。


「ジョンと()先生は拘束、風紀委員のふたりは……ま、好きにしろよ」


 どちらにしても、風紀委員会は解体して再構築になる。

 その時、学園にいられるわけがないマライアにもパスカルにも、席なんて用意されてるわけがないんだからな。

 扉を開けて部屋の外に出る前に、俺は連中を一瞥して、悪役らしい笑みを浮かべた。


「秘密がバレる恐怖に、ずぅーっと怯えながらな」


 最後に少しだけ見えた、半端な悪党どもが本物の悪役に負けて絶望に染まった顔が、ジョン・ロックウッドと仲間達の完全な敗北を示していた。

 俺に続いて、テレサやソフィー、クラリスも部屋を出て廊下を歩く。


「やだやだやだあああああ!! 捕まりたくないよおおおおお!! ひいいいいん!! パパあああママああああああ!!」


 しばらくしてから響いてきたのは、ジョンのみっともない喚き声だった。

 それを聞きながら、ソフィーがパフと一緒に、これ以上ないくらいの笑顔で伸びをした。


「あーっ、スッキリした!」


 どうやらあのジョン達がやられるさまが、爽快極まりなかったみたいだ。


「ネイト君もテレサちゃんも、ワルモノをやっつけるプロだね! 私もパフも、せいせいしたよーっ♪」

『ぎゃぎゃーう♪』


 そう言ってくれるのは嬉しいし、脅してやったのも俺だけど、正直に言うと今回のMVPは俺じゃなくてテレサだな。

 なんせ全員分の悪事とその証拠を1日で揃えてくれ、なんて無茶を達成したんだから。


「今回はテレサの大活躍のおかげだよ。有能メイドの看板に偽りなしだな」

「ネイト様に褒められる有能メイドです、はっぴーうれぴー」


 無表情でVサインを作り、しゅばばばと前後させるテレサ。

 やけにテンションが高いのは、きっと彼女も気分爽快だからだろうな。

 俺も、バッドエンドが回避できて嬉しいよ。


「悪党はとっちめられて、俺達はもとの学園生活に戻れるわけだ。これこそハッピーエンドってやつ……ん?」


 ところで、そのバッドエンドを迎えかけていた当の本人――クラリスは、なぜか俺達から1歩離れたところでもじもじとしていた。


「……あ、あの……ボク、その……」


 ったく、いまさら何を遠慮してるんだか。

 決闘して、一緒に戦って、辛いところも苦しいことも分かち合った仲だろ。

 要するに、だ。


「――遠慮すんなって、お前ももうヴァリアントナイツの仲間なんだからよ!」


 俺達はもう、仲間だ。

 皆も仲間になってほしいって、そう思ってるんだよ。


「クラリスちゃんなら大カンゲーだよっ♪」

『ぎゃおー!』

「どうぞこちらに、クラリス様」


 ぱっと顔を上げたクラリスに、皆が手を差し伸べる。


「……は、はい……っ!」


 赤みがさした顔で笑い、慣れない調子でクラリスが駆けてくるその時、俺は確かに見た。


 ――彼女の背中を押す、エイダの姿を。


 少しだけ俺は驚いた。

 けど、ソフィーとテレサの間に入って楽しそうにしているクラリスに満足したのか、ふわりと消えてゆくエイダが頷くのを見て、頷き返した。


 大丈夫だよ、エイダ。

 俺が必ず、クラリスを守るから。

【読者の皆様へ】


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