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ジョン派VSヴァリアントナイツ!

「う、ぐ……」


 ジョンの腕で首を絞められ、クラリスが苦しそうに(うめ)く。

 どうやら出合い頭に殺さない程度には、あいつらにも理性はあるみたいだ。

 だからといって、俺達がジョンと不愉快な仲間達をぶちのめして、クラリスを汚い腕の中から解放しない理由はない。


「……クラリスを離せ」

『ぐうるるる……!』


 パフが唸り声をあげても、ジョンはいつもの人を見下した態度を崩さない。


「うーん、やっぱり気に食わないね。一度ならともかく、俺に何度も逆らう人間なんて、今までトライスフィアにはいなかったよ?」


 いや、いつもよりもずっと強気だ――強気すぎるくらいに。


「だからさ、やり方を変えることにしたんだ。影で学園を自由にするのはもうやめだ。これからはもっと直接的に、聖徒会でも誰でもなく、俺が支配者だって教えてあげるよ」

「笑わせんな。テメェは思い通りにいかないと癇癪起こすだけの、裸の王様じゃねえか。神輿に担がれたフルチンの自称王様が、いつまでもデカいツラしてんなよ」


 なるほど、ジョンはカッコよく決意を固めたんじゃなくて、俺達に散々追い詰められた、手負(てお)いの獣になっただけだ。

 で、焦ってたところにクラリスが来て、最悪の手段を取ったんだな。

 もちろん、クラリスが囚われるのは俺達にとっても最悪だけど、あいつらにもそうだ。


「これが最後の警告だ――クラリスを離せ。じゃねえと全員、病院送りにするぞ」


 なんせ、臨戦態勢の俺やテレサ、ソフィーとパフに半殺しにされるんだからな。


「……先生諸君は、手を出せないんだよね。だったら、外を見回って来てくれ。ここに他の先生や、生徒がうっかり来てしまわないようにね」


 ジョンの命令にぺこぺこと従って、先生連中はさっさと見回りに出て行く。

 飼い主の命令を守れなきゃ、お小遣いももらえなくなるだろうし、最悪お払い箱にもなりかねないから本気で任務を全うするだろうな。

 お前ら5人そろって、先生なんてやめちまえ、大バカ野郎ども。


「皆、ジョン派の偉大なる第一歩だ。手始めに、彼らを見せしめにしよう!」

(イカ)れやがったな……!」


 自分の権力を信じて疑わないジョンの目には、権力ですべての悪事と面倒ごとをもみ消して学園の頂点に立つ姿しか見えていない。

 だから、理性のある他の人間よりも先に、魔法を使うのに何のためらいもなかった。


「ありゃマズい! ふたりとも、耳を塞げ!」


 ジョンが息を吸い込むのを見て、俺達は耳に手のひらを当てた。

 風紀委員や取り巻きがまだ耳を覆ってないうちに、ジョンは目を見開いて叫んだ。


音魔法(サウンド・マギ)――『あ』ッ!」


 次の瞬間、ジョンの口から衝撃波が放たれた。

 魔力がこれでもかと練り込まれた、とんでもない規模の波動だ。


「「うおあああああっ!?」」


 窓ガラスが吹き飛び、壁にひびが入り、みしみしと天井が揺れて床板が剥がれる。

 かなり距離がある俺達にすら振動が届いたんだから、対策ができていない取り巻き連中や風紀委員が何人か吹っ飛ぶのも無理はない。

 というかあいつ、考えなしに魔法を撃ったから、まず味方がやられてるじゃねえか。


「ネイト君、今のは……!?」

「あいつは無属性魔法、音魔法の使い手だ! 自分が出した声を魔力で増幅して、さっきみたいに破壊力のあるエネルギーに変える! 連発もできるから、気を付けろ!」


 俺がどうしてジョンの魔法を知っているかというと、『フュージョンライズ・サーガ』じゃ連続して放たれる全体攻撃で、厄介極まりないのを覚えてたからだ。

 確かにあんなもんを近距離でくらえば、パフやテレサでも怪我は(まぬが)れない。

 自分の周りに被害はないのか、腕を抑えつけられたクラリスにダメージが入っていないのが、唯一の幸いってところか。


「攻撃範囲が広い割には、あのお方は仲間を巻き込むのにためらいがないようですが」

「そりゃそうだ、あいつにとって自分以外は虫けら同然だからな!」


 しもべ達に同情してやる気はないけど、好き勝手させてやる理由もない。

 俺達が頷き合って、ジョンに向かって駆けだすのと同時に、子分達も動き出した。


「や、やれ、あいつらを倒せ!」

「ジョン様から報酬がもらえるぞ!」


 どいつもこいつも金、金、金。

 金を積まれれば風紀委員でも生徒に手を挙げるんだから、本当にろくでもないな。


「文字通り、金に目がくらんでるってか! だったら、目を覚まさせてやるよ!」


 そんな奴らの頬をビンタするのが、俺達の役割だ。


「雷魔法&土魔法レベル3! 融合魔法レベル6『雷鳴鞭剣(ライトニングエッジ)』!」


 俺の雷と鋼の蛇腹剣が、生徒をまとめて外に投げ飛ばす。


「竜魔法『すらっしゅくろー』!」


 ソフィーの魔力が込められたパフの爪が、風紀委員の魔法を叩き壊す。


「どかないおつもりでしたら、頭を叩き割って差し上げましょう」


 がたいの良い男子生徒が、テレサの大斧で再起不能に陥る。

 いくら何倍もの数で、魔法を乱れ撃って攻めてこようとも、はっきり言って俺達ヴァリアントナイツの敵じゃない。


 そもそもこっちは二度も死線を潜り抜けてるんだ。

 お遊び感覚のいじめっ子連中が、勝てるわけないだろ!


「ぎゃあああ!」

「この、風紀委員に手を挙げるなんて!」


 そっちから襲ってきといて、何言ってんだか。

 外から降り込んでくる大雨が、まるでジョンの末路に見えるくらいには、間違いなく悪党どもは追い詰められていた。

 それこそ、ジョンの余裕に満ちた顔に、少しだが焦りが出てくるくらいには。


「ああ、もう、ちんたらしないでよね! 音魔法『い』、『う』、『え』ッ!」


 いいや、あいつは焦ってる。

 俺達よりも味方の方にダメージがたくさん入ると知っておきながら、破れかぶれに音魔法を発射してるんだからな。

 当然、俺達も足止めされるけど、あっちは味方+校舎の大損害だ。

 というか今更だけど、ファンタジー世界なのにあいうえお、かよ。


「味方も、校舎も壁もお構いなしか!」


 とはいえこのままジョンを放っておくのは、絶対にダメだ。

 あいつは気が動転すれば何をしでかすか分からない――しかも、絶対に言っちゃいけないことや、やっちゃいけないことをやらかす気がしてならないんだよ。


(ジョンの野郎にレベル7以上の融合魔法をぶち込むのになんの躊躇もないけど、クラリスに当たったらシャレにならねえ! なんとか、あいつだけを引き剥がさねえと……!)


 減ったとしても、敵の数がなかなかゼロにはならない状況で、どうにもジョンに近づけない俺をクラリスが見つめている。

 それに気づいたのか、ジョンのやつが鼻で笑う。


「まったく……ここまで俺を苛立たせたのは、2年前のあの時以来だよ」


 あいつが何かを話そうとしてる。

 どうせイライラを吐き出すだけの目的だろうけど、強烈に嫌な予感がする。


「あの、時……!?」


 クラリスに視線を向けたあいつの顔が、最低最悪に下劣だからだ。


「そうか、そうか! 君は知らなかったね、エイダ・ブレイディがひどいいじめを受けて死んだというところまでしか知らなかったんだよね!」

「いったい、何、を……」

「当時、彼女を自主退学させたのは、ひとりの同級生だ。さらに言うと……」


 もがくクラリスを見つめるジョンの顔で、俺は察した。


 どうして今、エイダの話をするのか。

 ジョンはエイダの同級生で、自分よりも目立つ平民を嫌っていて――。


「よせ、言うんじゃねえ!」


 すべてを悟った俺とテレサが、手にした武器で雑魚共を薙ぎ払ってでもジョンのクソ野郎を止めようとした時には、手遅れだった。




「彼女を自殺に追い込んだのはね――俺なんだよ」


 クラリスの目が、かっと見開いた。

 大事な姉の命を奪った張本人は、ジョン・ロックウッドだったんだ。

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