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FLASH!

「さらに、幽霊魔法(ゴースト・マギ)……『ノロイフィギア』……」


 彼女の声がこだましたかと思うと、今度は出刃包丁(でばぼうちょう)のような武器を持った金髪の、しかもひびが入ってぼろぼろになった西洋人形が2体、鞄の中から飛び出してきた。

 おまけに骸骨が人形に触れると、中から出てきた幽体が西洋人形に憑依(ひょうい)する。

 見た目が超コワい上に、あんな刃物で切りつけられたらただじゃすまないぞ。


「少し痛む、でしょうが……切り傷は……あとで、医務室で治してもらってください……」

「こっちの心配をしてくれるなんて、思ったより優しいんだなっ!」

「……マニュアルの、対応です……」


 骸骨のパンチだとか、キッツだとかはどうにか防ぎきれるけど、怨念のこもった魔力の波動や、西洋人形が振るうナイフはかわすしかない。

 しかも、前者は攻撃範囲がかなり広い。

 一張羅(いっちょうら)の制服が破けて、血が零れ、波動で何度も地面に叩きつけられる。

 俺の体に傷がつく分にはいいが、制服は勘弁しろ。テレサに縫ってもらうんだぞ、これ。


「おいおい、ゴールディングが押されてるぞ!?」

「防御不可の波動に、無限に再生する人形の波状攻撃ですからね……」

「あんなの、勝てるわけないわよ!」


 既に周りの生徒は、俺が負ける姿しか想像できないみたいだな。

 確かに、クラリスにひどい怪我を負わせるわけにはいかない以上、こっちは常に魔法の出力を制限してる。

 そう言ったところで、言い訳にしかならないからあえて言わないけど。

 でも、こっちには、ファンタジーの基礎知識っていう隠し技がある。


 何より――俺の融合魔法(フュージョン・マギ)に、できないことはない!


「思っていたより……あっけないですが……フヒヒ、ここまでですね……!」


 既に勝利を確信したらしいクラリスの含み笑いとともに、人形が一斉に迫ってきた。

 その油断が、クラリス、お前の最大のミスだ。


「それはどうかな! 火魔法レベル3、雷魔法(サンダー・マギ)レベル3っ!」


 炎と雷が迸る両手のひらをパン、と合わせて、テレサとソフィーの方を向いて口パクで伝える――「目を閉じろ」って。

 テレサが瞬時に意図を察して、ソフィーの目を覆ったのを見てから、俺は叫んだ。


「融合魔法レベル6――『閃光花火フラッシュフラワー』!」


 次の瞬間、強烈な炸裂音と共に、とてつもない光が手のひらから放出された。


「ひぎゃああああ!?」


 まるでカメラのフラッシュを何十倍にも明るくしたような輝きを受けた途端に、人形はもがき苦しんで、そのうちのひとつからクラリスがぽん、と飛び出してきた。

 直感だけど、俺は強い光で幽霊を追い払えるんじゃないかって思ったんだ。

 あくまで俺の中、あるいはアニメや映画の中の常識だけど、今回は大当たりだ。


「お化けは強い光に弱い、ファンタジーの常識だぜ!」


 現にクラリスが苦しそうに呻いているし、人形はぴくりとも動かない。


「う、く……で、でも……もう一度、憑依すれば……幽霊魔法、トリツキ――」

「そうはさせないっつーの! 水魔法レベル4、土魔法レベル2――融合魔法『大食い湖沼(ハングリースワンプ)』!」


 もう一度人形の中にクラリスが潜り込もうとするより早く、俺の魔法が発動した。

 勢いよく地面に手を叩きつけるのと同時に、地面がわずかに波打って――。


「わぷっ」


 クラリスの体が、地面の中に沈んだ。

 まるで落とし穴にはまってしまったかのように姿を消してしまった彼女が、どこに行ったのかと誰もが見まわして数秒ほどしてから、クラリスはもう一度顔を出した。

 ただし、泥まみれの顔から上だけしか出てこなかったんだけども。


「げほ、ごほ……こ、これは、いったい……!?」


 ま、正確に言うと、地面が固まったせいで出せない、というべきかな。


「地面を水魔法で軟化させてから、土魔法で固め直して敵を捕縛する魔法だ。俺は目的の都合上、敵を倒すよりも捕える魔法が多くあってな。これもそのうちのひとつだよ」


 融合魔法『大食い湖沼』はレベルのわりに魔力をかなり消費する上に、発動場所が限られる魔法だけど、ほぼ確実に相手の動きを制限できる。

 仮にクラリスが筋肉ムキムキのマッチョマンだとしても、俺の魔力がたっぷり練り込まれて硬化した地面から抜け出すのは不可能だ。

 誰かの助けを借りるまでは、あのままだろうな。


「クラリス、幽霊魔法はお前が人形に憑依してないと使えないんだろ? しかも、憑依するには人形に触れる必要がある……ま、要するに勝負ありってことだ」


 しかも幽霊魔法はクラリスの手が触れないと憑依できないし、憑りついていないと何もできないっていう俺の推測も、見事に当たった。

 要するに、もうクラリスは反撃も抵抗もできない。


「い、いえ、まだです……ボクはまだ、負けてません……!」

「確かに負けてないな。でも、お前の先輩は、そうは思ってないみたいだぜ?」

「ふへ?」


 それでもまだ負けを認めなかったクラリスだけど、俺はそうは思っちゃいない。

 実を言うと、この勝負の勝ち負けを決めるのは俺じゃなくて、第三者なんだよ。


「「――クラリス・ブレイディいいぃぃーっ!」」


 正しく説明するなら――鬼の形相でこっちに駆けつけてきた、風紀委員会の面々だな。


「ふひゃひぃっ!?」


 クラリスの顔が、驚きと恐怖と困惑でたちまち染め上げられた。

 ホラー調の表情がギャグっぽくなるのは、言っちゃ悪いが、かなり面白い。


「何だか知らねえけど、ありゃそうとう()()()()()だな。約束は明日の放課後、きっちり守ってもらうぜ」


 眉をわずかに上げながら、俺はもがくクラリスに顔を寄せて言った。


「それと……さっきの石から声が聞こえても、絶対に耳を貸すなよ」


 そうしてぽんぽん、と頭を叩き、俺は背を向けて歩き出す。


「な、なにを……あ、いや、違うんです……ボク、あの、ネイト君を……ひぃ……」


 なおも抵抗を試みていたらしいクラリスの声は、風紀委員会の会長と思しきポニーテールの上級生と俺がすれ違ってから、たちまち悲哀の声に変わった。

 数名の風紀委員の怒鳴り声に彼女のどもった謝罪と言い訳が混じり始めると、周りの生徒も決闘が終わったと判断したようで、蜘蛛の子を散らすように去ってゆく。

 風紀委員の決闘にヤジを飛ばしていました、なんて言えないよな、そりゃ。


 さて、決闘が終わったところで、俺の心はひとつもすっきりしちゃいなかった。


「見事な勝利でございましたね、ネイト様」

「ん、ああ、そうだな」


 テレサやソフィーが隣に並んで顔を覗かせながら歩いても、俺はどうにも勝ったことを自慢したり、さっきのやり取りを突っ込んだりって気にはなれない。


「どうしたの? なんだか浮かない顔だね」

『ぎゃうー?』

「……いや、大丈夫だ。心配させてごめんな」


 本当は大丈夫じゃないけど、ふたりにはこう言っておくしかない。

 俺が気にかけているのは、ゲーム本編なら存在していて、クラリスの正義漢の暴走を諫めるサブヒロイン、エイダについてだ。

 彼女は攻略対象でも、死ぬ悲劇に遭うキャラでもないけど、クラリスにとっては誰よりも大事な肉親で、ゲームでは姉をかばって死ぬスチルすらある。

 なのに、彼女の話を学園じゃあ聞かないし、ここに来てないのはおかしいだろ。

 俺はそれがどうしても気になって、テレサにこっそり声をかけた。


「……テレサ、クラリスについて、ちょっと調べてほしいことがあるんだ」

「ネイト様の頼みとあらば。ですが、少し後になります」

「え、そりゃなんで――」


 クラリスの謎に夢中になりすぎて、俺はすっかり忘れてた。


「――ランチタイムが、まだ続いておりますので」

「ネイト君、一緒に食べようね♪」


 ふたりがまだ、お弁当の入ったバスケットを抱えているのを。

 内臓を焼く激辛料理と、胃袋のキャパシティを越えるドデカ料理との再対面だ。


「……はい」


 満面の笑顔の美少女ふたりに挟まれながら、俺は絞首台への道をとぼとぼと歩いた。




 こうしてお弁当を見事に完食した俺は、その後人知れずひっそりと医務室に行き、午後の授業をすべて休んだ。

 ふたりにはもちろん、こう言っておいた。


 ――決闘のダメージが残っていた、って。

 ――ソフィーの料理もテレサの料理も、最高においしくて大満足だ、ってな。

【読者の皆様へ】


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