結成、ヴァリアントナイツ!
「えぇーっ!? じゃあネイト君がトライスフィア魔導学園に来たのって、生徒を狙ってるワルモノをやっつけるためなのーっ!?」
『ぎゃぎゃーう!?』
「しーっ! でかいでかい、声がデカすぎるって!」
ギリゴルを封印した翌日、俺の朝はソフィー達の大声に慌てるところから始まった。
昨日の約束通り、俺は登校中に駆け寄ってきたソフィーとパフに、教室に向かいながら事情の多くを話した。
俺がトライスフィア魔導学園に来た理由。
紫の石の正体と、それがもたらす脅威がまだ終わっていない事実――そして黒幕の存在。
バッドエンドと転生関連以外のすべてを話し終えると、ソフィーとパフがとんでもない大声で驚いて、俺が慌てて誤魔化して、今に至るってわけだ。
「ごめんね、つい興奮しちゃって……ええと、話を整理するね? ネイト君は最初から紫の石が危ないものだって知ってて、それを壊しに来た!」
足を止めたソフィーが、指を一つずつ折りながら言った。
「ああ、そうだ」
「しかも石をばらまく黒幕がいて、学校で誰かが石を持ってるかも!」
「間違いないな」
「だから皆で、黒幕の悪だくみを止めてやっつけるチームを作るんだよねっ!」
『ぎゃおーっ!』
「なんでそうなる!?」
俺は思わずずっこけた。
ソフィーのやつ、事件に関わる気満々じゃねえか。
「だったらチームの名前も必要だよね! 学園を守る、守護する、防衛する……といったらカッコいい騎士と仲間達……『ヴァリアントナイツ』、これで決まりーっ!」
『ぎゃう♪』
守護するもの。
ひとりと1匹は嬉々として、自分達が初めて名付けたチーム名にはしゃいでいるけど、俺はこうなるんじゃないかって予想は出来ていた。
「『ヴァリアントナイツ』、ね……そうなるのは知ってたよ」
「ん? どうかした?」
「いーや、何でもない」
どうしてチーム名を知っているかなんて、理由はひとつ。
本来ならソフィーと主人公が、同じ名前のチームを結成するからだ。
主人公のいない世界で誰がその役割を担うのかと思ってたけど、まさか悪役が正義の味方になるとは。俺はただ、バッドエンド回避のために暴れただけなんだがなあ。
一方で、これならストーリーの大筋には沿っていると言われると、納得もできる。
(確かにストーリー上、入学して1週間くらいで主人公とヒロインのチームが結成されるのは間違いないんだが……なんだかこじつけみたいな物語の進み方だな)
チーム結成が逃れようのない物語の運命なら、ひとまずそれには従うとして、問題は死なせたくないソフィーが積極的にケイオスにかかわってしまう点だ。
「気持ちは嬉しいんだけどさ、ソフィーを危ない事件に巻き込みたくないし……」
俺としては彼女には平穏な日々を送ってほしいんだが、ソフィーは首を傾げた。
「でも、私は2回も事件の現場にいて、しかもそのうちひとつはパフが被害に遭ってるんだよ? 巻き込まれたどころか、当事者って言ってもいいんじゃないかな?」
「うっ……そこを突かれると、痛いな」
言われてみれば確かに、ソフィーは既に事件の当事者で、しかも俺は彼女に一度真相を暴くべく協力してもらっている。
危険な目に遭わせたくないと言っておきながら手助けを頼んだのは、改めて考えるのはマヌケな話だけど、あの時は本当に、ああするしかなかった。
それに、彼女のそばにいた方が、より近くで守れるかもしれない。
「でしょでしょー? うりうり、ネイト君の痛いところをつっつくぞー♪」
ニマニマと笑うソフィーが、俺の脇をデュクシデュクシ、とつつく。
「分かった、分かったからよせよ! 周りの目も痛いから!」
周囲の白い目に含まれている意味は、「オライオンさんもどうしてあんなやつに構っているんだろう」か、「また悪党が女の子を口説いている」かのどちらかだ。
誤解されるのは、俺にもソフィーにも良くないと思うぞ。
「俺達でチームを結成して、紫の石、もといケイオスの脅威からトライスフィア魔導学園を守る。ここまではいいけど、俺からソフィーに条件を出させてくれ」
「ハグは1日1回まで、とか?」
「そうじゃない、いいや、それがダメってわけじゃないんだけど!」
ああ、この子ってゲームの中でもこんな感じだった。
俺が真面目に話そうとすればするほど、ソフィーは茶化してくる。
他の男子生徒なら、顔面にパンチを叩き込んで黙らせてやればいいんだけれど、ソフィーの場合は上目遣いで見つめてくるから――かわいいから許してしまう。
「えへへ、ネイト君ってやっぱりカッコよくて……ちょっぴりかわいいね♪」
星の模様の瞳に俺が映ったのに気づいたのか、彼女がにっこりと笑う。
くそ、コロコロ表情が変わる活発美少女だと思ってたら、まさかの小悪魔系か。
俺も含めて男ってのはホント、こういうギャップに弱いんだ。
ま、とはいえ、話しておかなきゃいけないことは、ソフィーの目を見て真面目な表情で伝えておかないといけないんだけどな。
「何度でも言うが、俺はソフィーも、パフも、絶対に死なせない。命を賭けて守るから、お前らも危険だと思ったら無理に戦わずに、すぐに逃げてくれ」
俺がこう言うと、ソフィーの笑顔が変わった。
無表情に戻ったんじゃない。おふざけと明るさを伴ったものから、慈愛に満ちた母親や姉のような、目の前の相手を大事に想う優しさに満ちたものになった。
「……ネイト君も、無茶しないでね。約束だよ」
――守ると誓った相手に心配されてるようじゃ、まだまだ頼りないか。
なんだか恥ずかしくなってはにかむ俺の前で、まるで舞踏会で初めて出会った時のように、ソフィーがもう一度微笑んだ。
隣でパフが嬉しそうに鳴くのを聞いて、ソフィーは相棒とも笑い合った。
「それにしても、ネイト君ってやっぱりすごいよ! 普段はこわい人のふりして、陰で学園のために戦うなんて、小説に出てくるスーパーヒーローみたい!」
「そんな立派なもんじゃ……ん?」
そうして俺達がもう一度歩き出し、授業がある講堂に向かおうとした時、ソフィーが俺の後ろを指さした。
俺でもなく、他のせいをと指さしているわけでもないというのは気づいてる。
だって、俺も誰がいるのか、朝からずっと察してるんだからさ。
「うしろ、うしろ♪」
「ああ、分かってるよ――」
振り向きながら、俺は言った。
「――テレサ、そろそろ出てきたらどうだ?」
道に植えられた木の影に隠れている、テレサに向けて。
テレサは少しだけ出てくるのを渋っていたけど、俺が指をくいくい、と動かすと諦めた調子で俺の前までやってきた。
目の下は腫れぼったく、まだ顔に生気は戻ってない。
体調は回復しても、メンタルはボロボロのままだろうな。
「……いつから、お気づきに?」
「ずっとだよ。朝、俺の部屋からいなくなったと知ってから外に出て、ここに来るまでずっと、俺を見守ってくれてただろ?」
俺がさらりと答えると、隣から予想通りの声が聞こえた。
「えーっ! じゃあ、テレサちゃんって昨日、ネイト君のベッドで寝たのーっ!?」
『ぎゃおーっ!?』
ソフィー達が顔に手を当てて、頬を赤く染める。
その言い方だと不純に聞こえるし、俺はソファーで寝たよ。
「メイド寮まで連れていく気力がなかったって、それだけだよ。本人の魔法のおかげで体力はしっかり回復してたし、医務室に運ぶ必要もないしな」
「…………」
「もっとも、なんでずっと俺の前に出てこようとしないのかは、聞いておかないとな」
だいたい理由は分かっていても、単なる俺の予測と、テレサ自身の口から紡がれる言葉とは、重みがまったく違う。
彼女もそれを察してるのか、少しだけ間を空けてから、口を開いた。
「……ネイト様。テレサは、従者失格でございます」
いつもの無表情で無感情なテレサと、今のテレサは別人のようだった。
重い武器を担ぐ彼女の指先が震えてるのを、俺は初めて見た。
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