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悪役貴族は容赦しない!

「ぐぎゃああああアっ!?」


 ギリゴルの顔がたちまち焼けただれて、絶叫が轟いた。

 そりゃそうだ、パフの放つ『ばーにんぐらんす』は、MPの消費が激しい分、序盤でソフィー達が使える魔法としては最大の火力を持つ。

 この単体火力に、ゲームの中で何度助けられたか。

 当然、不意打ちをくらったトカゲ如きが耐えられるはずがない。


「パフ、おまけにもう一発だよっ!」

『ぎゃぎゃーうっ!』


 しかもそこに、今度はパフの尻尾の打撃がクリティカルヒットした。


「うぐ、ぼごォっ!?」


 顔が180度ぐるりと回転したギリゴルの口から、紫色の血が噴き出す。


「今だよ! テレサちゃんを助けて!」


 ソフィーが叫ぶよりも先に、俺は駆け出していた。

 滑り込むようにギリゴルの脇をすり抜け、テレサを抱きかかえる。


「テレサ!」


 俺の腕の中で、テレサは糸の切れた操り人形のようにぐったりとしていた。俺の声にも反応せず、(うめ)きもせず、ただか細い呼吸を漏らすだけだ。


「ネイト君、テレサちゃんは無事!?」


 ただひとつ言えるとすれば、テレサは生きている。

 心臓の音も確かに聞こえるし、外傷もまったく見られない。

 石に支配されていた疲弊(ひへい)はあるだろうけど、それ以外のダメージは見当たらなかった。


「……気を失ってるが、無事だ……よかった……!」


 テレサが無事だと知って、ソフィーもパフも、何より俺自身も、肺の空気を一切合切吐き出すほど安堵(あんど)した。

 死んでいないと確信したつもりでも、万が一、最悪の事態を考えてしまったんだ。


「チィ、ドラゴン如きがァ!」


 さて、テレサを助けたのなら、もうギリゴルに容赦してやる理由はない。

 グズグズになった顔で喚き散らしながら、鋭い爪でパフに切りかかろうとするギリゴルが背中を向けたのを、俺は見逃さない。


火魔法(フレイム・マギ)レベル4、雷魔法(サンダー・マギ)レベル3!」


 炎と雷が、俺の手のひらの中で混ざり合い、うねり合う。


融合魔法(フュージョン・マギ)レベル7『破天砲(ブレイズ・キャノン)』!」


 そして魔法名を叫ぶのと同時に、ふたつの衝撃がギリゴルめがけて放たれた。

 レベル7以上の融合魔法は、基本的に人間というよりはもっと危険な魔物や、魔法的な構築物に対して使う――それだけの破壊力を有している、とも言い換えられるな。

 つまり今、俺はギリゴルに大砲をぶちこんでやったようなもんだ。


「ギギギャアアアアア!?」


 背中一面を炎で焼かれ、雷で心臓を貫かれたギリゴルは耳をつんざく叫び声をあげると、老人のようによろめく。

 そこにパフが、とどめとばかりに爪の斬撃を頭に叩き込んだ。

 オーバーキルになりかねないほどの連撃を受けたギリゴルは、教壇を吹き飛ばして長机をいくつも壊した末に、やっとみっともない格好で突っ込んで止まった。


「なんか、手応えないね? ダンカンの方が強かったかも?」

「そうだな。パフの方がずっと手ごわかったぜ」


 ソフィーの言う通り、こいつ、(ケイオスに序列があるとすれば)下から数えた方が早いくらいの雑魚なんじゃないのか?

 というか、最古の種族とか世を統べる末裔とか言ってるのに、基本は肉弾戦なんだな。


「……人間メ、後悔させてやル……!」


 ひっくり返ったままでも、まだ強気なセリフを吐くほどの余裕はあるんだな。

 顔と背中の皮が剥がれて、腹に穴が開いて、胴が尻尾の形にめり込んでるけど。


「竜火魔法『すないぷばーん』!」

『ぎゃごーっ!』

「ああああああああア!?」


 おっと、パフの火が今度は腕に直撃したぞ。

 今度は皮がめくれてただれるどころか、炭化してぼろぼろと崩れたな。

 ここまで踏んだり蹴ったりだと流石に同情しちまうんだが、プライドがハチャメチャに高いあいつの場合は、弱音の代わりにこっちを卑怯者(ひきょうもの)扱いするだろうよ。


「き、貴様ラ……卑怯だゾ……!?」


 ほら見ろ。

 ぼろぼろと崩れた長机の中から顔を出した怪物の言い分が、これなんだぜ。


「おいおい、それでも世界を統べる種族サマか? 俺みたいな悪役貴族がのこのこやって来て、命令に従うわけないって、ちょっと考えれば分かるだろ?」

「ぐぬヌ……!」


 自分を棚に上げたギリゴルのふざけた言い訳を、俺は鼻で笑い飛ばす。


「お前は自分の力が最強無敵だって信じて疑わないし、ソフィーとパフを過小評価してるし、騙されて当然なんだよ。ああ、もっとはっきり言ってやろうか?」


 俺もソフィーも、もうギリゴルを脅威だと思っていない。

 仮に『フュージョンライズ・サーガ』の中ボスだとか、ステージの大ボスだとか前情報で知っていたとしても、ビビる理由がまったくない。

 こいつは人に寄生するしか能がないくせに大口を叩く、正真正銘のクソザコナメクジだ。


「マヌケ丸出しのくせに、いっちょ前に悪役気取ってるから大やけどしたんだよ、バーカ!」


 びっと中指を立てると、いよいよギリゴルの顔が怒りで(みにく)く歪んだ。

 ――この世界、中指立てるのが通じるんだ。


「……こ、こノ……人間風情ガ……!」


 すると、プルプルと震えるギリゴルの肌がべろりとめくれて、たちまちぬめりのあるつるつるの肌に戻ってしまった。

 しかも炭化した腕も、すっかり骨から肉、肌と元に戻ったんだ。

 見た目がトカゲだけあって、爬虫類のような再生能力があるみたいだな。


「パフの炎と爪、尻尾の連撃がこんな速さで回復するとはな。変なところだけトカゲの真似っこなんかしやがって、大人しくくたばれっての」

「下等生物の分際デ、汚い口を開くなァッ!」


 ギリゴルの口から紫色の魔力が(ほとばし)り、たちまち講堂中に充満した。

 てっきり毒か何かかと警戒したけど、そうじゃない。視界のすべてが紫色になったような光景は、明らかに紫の石の力が発動した時に表れる空間だ。


「『紫闇空間(ダークディメンション)』……ケイオスが生み出す空間だったのか」


 驚く俺の前で、長机を蹴り飛ばしたギリゴルが牙と爪をたぎらせて吼えた。


「もはや貴様ら、誰ひとりとして生かして帰さなイ! 我らケイオスに歯向かったことを後悔しながら、命乞いして死んでゆケェ!」


 こいつは邪魔が入らないようにしたつもりだろうが、俺にとっては都合がいい。

 トラブルが起きて、敵を取り逃がす心配がないんだからな。


「……ソフィー、パフ。下がっててくれ、俺がやるよ」


 俺が一歩前に出ると、ソフィーも同じように前に出た。


「ダメだよ、ネイト君。私とパフがここに来たのは、キミの力になるためなんだよ!」

「もう十分助けてくれたさ。それに、テレサをあんな目に遭わせたやつには、主人の俺がきっちりと地獄を見せてやらないと気が済まねえ!」


 だけど、彼女は少し納得いかないような顔ではあるものの、一歩下がってくれた。

 ちょっと強情なところがあるソフィーが聞きわけてくれたのは、とても助かる。

 俺があいつを倒さないといけないってのもあるんだが、俺がこれから使う融合魔法はレベル10――最大威力の魔法で、仲間を巻き込まない保証がないくらい強力だからな!


水魔法(アクア・マギ)レベル5、風魔法(ウィンド・マギ)レベル5――」


 水色と緑色の魔力が、暴発したかの如く手のひらから溢れ出す。

 俺の両隣に発現した水の柱と竜巻のふたつが合わさり、暴風雨(ストーム)よりも激しく巻き上がり、心臓を凍てつかせるほどの寒さをもたらした時――。




「――融合魔法レベル10! 『希望無き永久の雨(ディスペアレイン)』!」


 空中に解き放たれたのは、刃のように鋭く、杭よりもずっと太い氷塊。

 無数に生成された巨大な氷柱(つらら)が、一斉にギリゴルへと襲いかかった。

【読者の皆様へ】


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