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その名は”ケイオス”

「お前はどっちなんだよ、テレサか、そうじゃないのか」

「ケケケ、どちらでもあり、どちらでもなイ。この女の体を使ってはいるが、心は我ダ」


 人間の言葉で喋っているのに、こいつの声はどこか抑揚(よくよう)がおかしくて、人間の会話を真似ている別の何かと話している気分になる。


「ネイト君、他の誰かだよ……!」


 ソフィーとパフが言うように、やっぱりあれは、テレサじゃない別の誰かだ。

 こんなの、『フュージョンライズ・サーガ』を進めても起きなかったイベントだぞ。石は中盤までずっと、ただ危険な魔力増幅装置としか扱われてなかったんだよ。


(ゲームの中盤でも明かされてない秘密、か。SNSでネタバレでも見つければもっと簡単に謎が解けたんだろうが、まったく、俺の頭がもうちょっと良ければな)


 ただ、俺にも謎を解くだけの情報はある。


(でも、こっちだってオタクの端くれ。こじつけだろうが、考察ができないわけじゃない)


 努めてテレサの中にいる誰かを刺激しないように気を付けながら、でも相手に増長させないように意識しながら、俺は口を開いた。


「……俺の仮説を聞いてくれるくらいの余裕は、あるよな?」

「いいだろウ、聞こうカ」


 意外にも、相手はあっさりと俺の話を聞いてくれた。

 俺達が反抗できないって余裕もあるんだろうが、今はありがたい。


「お前はテレサじゃない――石()()()()だな?」


 単刀直入に本題に入っても、敵は動じない。

 こいつが人間とも怪物とも違う、紫の石に自我が宿ってるなんてのはゲーム中盤でも明かされなかった秘密かもしれないのに、随分と平然としてやがる。

 だったら、もう少し俺のターンを続けさせてもらうぜ。


「石には感情があって、人格がある。お前らはただ魔力を増幅させるアイテムなんかじゃない、さしずめ……精神的に息の合う相手の心を乗っ取る、寄生虫みたいなもんだな」


 ほとんど俺の勘だけど、こいつらはきっと意志を支配する石だ――ダジャレじゃないぞ。


「アラーナが石の声を聞いたのにダンカンが聞けなかったのは、その石ごとに存在する人格と波長が合ったからだ。ダンカンは合わなかったから、ただ暴れただけだ」


 でも、乗っ取るには条件がある。

 そうじゃなきゃ、石を持ってた他の連中もおかしくなってるだろうし。


「もし声が聞こえたなら、力や優しい声で誘惑して精神を乗っ取る。けど、お前らはその人間のすべてを支配して、理解はできなさそうだ。そうじゃないと、テレサがノーパン健康法をしてるって知ってたはずだからな」


 魔法が使えるとはいえ、こいつらのやり方は乱暴で、宿主が何をしていたか、どんな人間かまでは把握できていないし、上っ面の模倣(もほう)が精いっぱいなんだろうよ。

 テレサの場合は口調をコピーして、メイドっぽい仕草でどうにかごまかしてた。

 実際問題、俺もノーパン健康法の件がなければ、ここまで追いつめられなかったよ。


「で、お前はテレサが第2体育館で破壊した石だ。パフを取り込もうとしたけど失敗して、そのかけらを拾って調べようとしたあいつの心を支配したんだろ」


 さてと、これだけ仮説を並べ立ててやれば、もう十分。

 あとはテレサを助けるために、この最低の寄生虫を地上の果てまでぶっ飛ばすだけだ。


「以上、俺の考察タイムは終了だ――テレサを返せよ、石如きが」


 俺らしくもない、たっぷりと威圧を込めた目でテレサの紫の目を睨むと、そいつはぎりり、と歯軋(はぎし)りをしながら唸り声をあげた。


「……ギリゴル」

「なんだと?」

「石などと呼ぶナ。我が名はギリゴル、『ケイオス』の末裔。世を統べる最古の種族ダ」


 果たして、俺の予想は驚くほど的中していた。

 こいつはやっぱり、テレサの中に住み着いた石そのものだったんだ。


(……まさか、当たってたとはな。しかも俺の知らない情報までくれるとはラッキーだぜ)


 おまけにゲームでもまだ俺が聞いていない情報まで教えてくれたんだから、らしくない仮説を並べ立てた甲斐は十分にあったわけだな。

 もしくは、俺どころか誰も知らない、没設定のようなものかもしれないが。


「パフをひどい目に遭わせて……絶対許さないからっ!」

『ごおおおおっ!』


 そんな風に考えていると、ソフィーとパフが俺の隣で怒号を(とどろ)かせた。

 目を血走らせてるパフはもとより、ソフィーも竜の血が混じってるだけあって、怒ると相当威圧感があるんだよな。


「俺もソフィーとパフに同感だな。人やものを支配しないとろくに力も発揮できないくせに、世を統べるなんて戯言を吐くバカにはお灸を据えないと、だろ?」


 もちろん、俺もテレサを使って好き勝手したこいつを、許してやる理由がない。

 手にした紫の石だけを的確に砕く魔法を使ってやろうとしたが、ギリゴルと名乗るやつは不敵に笑ったまま、逃げようとも抵抗しようともしない。


「フン、強気に出られる立場カ?」

「……何をするつもりだ」

「本当ならそこの竜の体を奪い取るつもりだったガ、この女もなかなか戦闘力は高イ。気に入ってはいるとはいエ、我の正体を知る者がいるのは厄介ダ……」


 ギリゴルはテレサが手にした斧を振るい、刃を自分に向けた。

 こいつ、まさか!


「邪魔をするというのなラ……こいつを殺して、次の憑依する相手を探すとしよウ」


 間違いない、テレサの命を人質にとるつもりだ!


「よせ、やめろ!」


 斧の刃で首を斬ろうとするよりも先に、思わず俺は叫んだ。

 仕方ないけど、相手に弱みを見せたのはまずかった。こうでもしないとソフィーが代わりに叫んでいたはずだし、テレサを見捨てられるわけがない。


「ほほう、メイドがよほど大事なのだナ? ならば、取引と行こうじゃないカ」


 当然ギリゴルは、テレサの命が道具になると察したようだ。


「どうやら貴様、我らのことを随分と知っているようダ。そんな人間はこれまで一度も見たことがない……我らがあるじ()も、興味をお示しになるだろウ」


 あるじ――『主人』だろうか。

 こいつらを束ねる誰かがいるとすれば、そいつは間違いなくゲームの黒幕だ。


「南校舎の1階、第4講堂(こうどう)にひとりで来イ。0時ちょうどダ、少しでも遅れたり、仲間を連れてきたりすればメイドを殺ス。こいつを開放する条件はそこで話してやろウ……追ってくるなヨ、すぐに分かるからナ」


 言いたいことをすべて話し終えたらしいギリゴルは、斧を魔法でしまい、部屋を出た。

 ぱたん、とドアが閉まって、足音が聞こえなくなるまで、俺達は動けなかった。


「……行っちゃった」


 ソフィーがぽつりとつぶやいて、俺を不安げに見つめる。


「まさかひとりで講堂に行こうなんて考えてないよね、ネイト君?」


 心配してくれるのは嬉しいが、行かない選択肢はないな。


「でも、そうしないとギリゴルとやらは、テレサを殺すからな。罠って雰囲気丸出しでも、行くしかないさ」

「ダメだよ! テレサちゃんを人質に取るようなワルモノ、何をするか分かんないよ!」


 ぎゅっと俺の手を握り、俺の身を案じてくれるソフィー。

 きっとパフが危険な目に遭って、テレサも正体不明の何かに支配されてる中、俺まで失ってしまわないか心配なんだろうな。

 まったく、メインヒロインのひとりにここまで想ってもらえるのは嬉しい限りだ。


「分かってるっての。俺はひとりで行く、なんて一言も言ってないだろ?」


 だけど、俺は簡単にやられてやるつもりも、テレサをみすみす殺させるつもりもない。


「あいつはテレサのガワだけを真似して、テレサのふりをして俺に近づいた。そんでもって、テレサを支配していれば、俺達に強く出られるって勘違いしてやがる」


 ギリゴルって石は、きっと今まで人を操って好き勝手してきたんだ。

 どれだけ敗北して、石が破壊されかけても自分のせいじゃない、宿主が弱かったからだって言い訳してるうちに、すっかり慢心しきってるんだろうな。

 それがきっと、ギリゴル最大の弱点。

 そしてあいつにとって、最期の(あやま)ちになる。


 こっちにはソフィーとパフがいる。

 もちろん殺させない。

 ――テレサだって、絶対に死なせやしない。


「テレサを利用したのは人生最大の失敗だって――教えてやろうじゃねえか」


 ぱきり、と指の骨を鳴らし、俺は怒りの炎を瞳に灯した。




「ところで、アラーナ先輩はどうしよっか?」

「俺が説得しとくよ……ま、悪役流の説得だけどな」


 ついでに気絶しているアラーナは、ソフィー達を帰した後、てきとうに脅しておいた。

 俺が「石を配ったら半殺しにする」+「今度悪事を働くのを見たら竜の餌にしてやる」って言ったら、あっさり「二度と関わらない」って宣言してくれたよ。

 貴族主義(ノーブル・ワン)の一派閥も、結局ストレートな暴力には敵わないってわけだ。

 というか――これだから気分爽快の悪役ムーブはやめられないんだよな!

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