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ソフィーとの共同作戦

「――つまァり、魔力の探知というのは非常に高度な技能であってェ、鑑定魔法(アナライズ・マギ)の最上級クラスになるのでェ、会得も3年生になってからァ……」


 次の日、俺は普通に授業を受けていた。

 講堂で長々と話しているのは、マッコール先生とは別の、初老の先生だ。

 謹慎処分を受けていない以上、ドミニクから半年前に教えてもらった内容だろうと、生徒である以上、俺は真面目に出席して話を聞かないといけない。


「ゴールディングのやつ、普通に授業受けてるな」

「目を合わせちゃダメよ。あんな悪党、いつ暴れ出すか分からないんだから!」


 他の長机に座っている生徒からの冷たい視線も、囁き声も、もう慣れたものだ。

 とはいえ、テレサがいない状況だけは、本音を言うとちょっと(こた)える。


「おっと、授業はこれでおしまァい。課題は来週までに提出するようにィ」


 努めて何も考えないようにしながら先生の話を聞いているうち、授業の終わりを告げる鐘の音が鳴り響いて、ぞろぞろと生徒達が講堂の外に出て行った。

 今日から早速掃除の罰則だけど、時間は決められていないからいつ始めてもいい。

 何かやるべきことがあるなら、そっちを優先してもいいんだよな。

 だから、俺もノートと参考書を閉じて、わざと最後に教室を出る。

 生徒達はもうすっかり友達と話したり、昼食を食べに行ったりで、俺には関心を――。


「ネイト君! ネイトくーん!」

『ぎゃおーう!』


 おっと、このコンビだけは違った。

 別の行動で授業を受けていたソフィーとパフが、俺に向かって飛びついてきた。

 いつも通りではあるんだが、今回はちょっぴり困る。


「ソフィー……話しかけるのは、校舎の外に出てからだって書いてあったろ?」


 ひとりと1匹を引き剥がしながら、俺が言った。


「今の俺になるべく近寄らない方がいい。助けてくれるのはとても嬉しいけどさ、ソフィーの評価も落ちちまうぞ」

「関係ないよ! ネイト君がどんな風に見られてても、私はネイト君の味方だよ!」


 協力を頼み込んでおきながら、俺はソフィーが一緒にいることで、彼女の学園生活に影響が出ないか心配だった。

 だけど、彼女もパフも、そんなことは些末な心配だと胸を張って言ってくれた。


「それに、私もテレサちゃんを助けたいよ! 今ここにいないテレサちゃんが、寂しそうな顔をしてるって思ったら……胸が、きゅーって痛くなるもん!」


 にっこりと微笑んだソフィーの明るさが、今はありがたい。

 最初はヒロインが登場する順番に不安を覚えたけど、今はソフィーと最初に会えてよかったって、心の底から思えるよ。


「……ありがとう」


 俺が軽く笑えるようになると、ソフィーは歯を見せて太陽みたいに笑った。


「その代わり、テレサちゃんが元に戻ったら事情をちゃんと話してね? キミがテレサちゃんの力になりたいように、私もふたりの力になりたいんだ!」

『ぎゃうぎゃう♪』

「ほら、パフも同じ気持ちだって♪」


 こうとまで言われると、秘密を隠し続けるのは不誠実だな。


「分かった。紫の石について、全部話すよ」


 俺が約束すると、ソフィーとパフは手を合わせて喜んだ。

 もちろん、話せない秘密もあるわけだが。


(俺が転生してきたってのと、ゲームのバッドエンド以外は、だけどな)


 そのふたつを話すと、いよいよゲームの展開がめちゃくちゃになるに違いない。

 でも、それ以外の俺が知っていることは話せるようにしよう。

 俺はソフィーと並んで歩きつつ、予定していた計画を実行に移した。


「さてと、作戦は昨日手紙に書いた通りだ。ソフィーはこれからアラーナとふたりきりで、邪魔の入らないシチュエーションになってもらう。後は俺が何とかするよ」

「でも、どうやって? あの人、いつも下級生と一緒にいるよ?」

「相手が信用ならないと思ってる時だけさ。アラーナがわざわざ仲間に迎え入れたがってるソフィーが頼ってきて、しかも俺とパフもいない状況なら、あいつは絶対に油断する」


 アラーナは俺を警戒しているが、それはあくまで相手が俺だからだ。

 前々から貴族主義の連中が狙っているソフィーが、しかもひとりで接触してきたなら、きっとアラーナは彼女の提案を呑んでくれるに違いない。

 もちろん、俺もパフもソフィーを単身敵のアジトに送り込むつもりはないぜ。


「タイミングを見て、俺とパフが魔法で姿を隠す。ソフィーは作戦通りにやってくれれば大丈夫だけど、もしもヤバくなったら、俺が隠れてるって相手に教えるんだ」


 特殊魔法科の校舎から属性魔法科の校舎に入る頃に、俺は作戦の中でも一番大事なところを、ソフィーに伝えた。


「なんで!? そんなことしたら、ネイト君が……」

「それでいいんだよ。俺に脅されてたって言えば、ソフィーは無実だ」


 周囲の視線を集めちゃいけないってのに、ソフィーはじたばた騒ぎ始める。


「やだ、絶対やだーっ! ネイト君だけを悪者にするなんて、絶対……」


 そうやって俺を想ってくれるだけで、もう十分嬉しいんだよ。

 だからこそ、ソフィーには学園生活をエンジョイしてほしい。

 アラーナをどうにかして石を破壊して、トラブルの根源を絶てば、他のヒロインも助かる。そこに、悪役なんかの居場所はなくたっていいんだ。

 そんな風に俺が勝手に納得しているうち、またあの足音が聞こえてきた。


「騒ぐなっての。ほら、作戦開始だ」

「むー……ネイト君、私はキミを見捨てないからねっ!」


 幸運にも、ソフィーがばたばたと手足を振って抗議しても、周囲の生徒は俺達に視線をほとんど向けていない。

 今なら、俺とパフがどこかに行っても誰も気づかないだろうな。


(まわりの視線が減った……いくぜ)


 ぐっと手のひらの内側にこもるように魔力を放ち、俺はつぶやいた。


融合魔法(フュージョン・マギ)レベル7――『不可視の鏡(ステルスヴェール)』」


 すると、俺とパフの体を風と水のヴェールが包んだ。

 これは風の屈折や水の反射を複雑に組み合わせて、人間の目から対象の姿を完全に覆い隠す、()()()()のようなものだ。

 かなり複雑な魔法で、維持するにはかなりの集中力と魔力が必要になる。

 もっとも、このステルス魔法の効果は間違いない――なんせ、テレサにこの魔法についてしゃべってないし、使っていてもばれたことがないんだぜ。

 それにほら、こっちに向かってくるアラーナも、俺に気づいちゃいない。


「あら、昨日とは別の珍しいお客様ね、オライオンさん?」


 俺と対面した時とはまるで違う、朗らかなお嬢様(ぜん)とした笑顔が証拠だ。

 一方でソフィーはというと、昨日手紙で伝えた作戦を実行に移そうとはしてるんだが、明らかにぎくしゃくしていていつもの調子じゃない。


「あ、えっと、ええと……ごきげんよう、ビバリー先輩!」


 頼っておいてなんだが、ソフィーに演技なんてのは難しいかもしれない。


「ふふっ、そんなよそよそしい態度じゃなくて、アラーナでいいわ。今日はいつも一緒にいる相棒の竜と、あの乱暴者はいないのかしら?」

「パフは……友達に預けてきたの! ちょっと、困った話があるから……」

「困りごと?」


 わちゃわちゃと身振り手振りで何かを伝えようとするソフィー。

 アラーナを(した)う生徒も、すっかりその天真爛漫(てんしんらんまん)さのとりこになってるみたいだ。


「あのねっ! 貴族主義(ノーブル・ワン)について興味が、そのね!」

「緊張しなくていいわ。ゆっくり、私に話したいことを教えてちょうだい?」


 そうして、もう一度アラーナがソフィーに近寄った時、彼女は不意に身を寄せた。

 ちょっぴり驚いた様子のアラーナの目を見つめて、彼女は小さな声で言った。




「――私……ゴールディングに、パフを人質にされて脅されてるの」


 わーお。ソフィーのやつ、実は演技派だったか。

 それはともかく、これが俺の作戦。


 ソフィーが貴族主義に寝返ったように――ついでに、悪役貴族の俺にひどい目に遭わされてるとも見せかけるんだ。

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