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一難去って――

 翌日、俺達の大暴れは魔導学園でちょっとした騒ぎになった。

 第2体育館がひと晩の間に半壊した上に、ダンカン一味は医務室送り。

 それだけならまだしも、先生達が「魔法を用いた道具の暴発」とかてきとーな言い訳をつけたもんだから、生徒達が騒めくのは当然だろ。

 朝から体育館のあたりには生徒が集まり、授業を行うはずの教室や講堂はがらんどう。

 中には用務員や購買のおばちゃんまで野次馬に紛れる始末だ。


 で、結局授業にもならないからって、原因を究明するまで近寄るのも禁止にした上で、午前中の授業はすべてナシ、って結論に至った。

 色々説明はしていたけど、誰も集中できないからってのが一番の理由だな。

 だから、俺とテレサは昼間からカフェテラスにいるんだ。


「――昨日はありがとう、ネイト君、テレサちゃん!」


 俺の手を握り、満面の笑みで感謝を告げてくれたソフィーとパフと一緒に、だ。

 ぶんぶんと手を振る彼女の体には、傷ひとつない。

 昨日はあれだけ恐ろしい魔力を吸っただけでなく、パフの方に至っては爆炎神機(プロメテウス)で散々殴られたのに、どっちも元気100倍だ。


「お、おう……」


 内心ちょっぴりビビりながら、俺は納得もしていた。


 ソフィーはいわゆる『リジェネ』――自動回復に近い力を持ってる。

 かつて竜人族は、自己再生能力を持っていたと言われてた。なんでも体の半分が吹っ飛んでも、ピンピンしてるとかしてないとか。

 その末裔であるソフィーにも、かなりの回復能力がある。

 しかも、昨日受けた傷や石による魔力への被害も、ほとんど残っていないくらい強力だ。

 ゲームの中でもパーティーを編成する際、戦闘に慣れていないプレイヤーはソフィーを組み込むべきだって公式からアナウンスがあるくらいだからな。

 で、彼女と同じ素質を持つパフにも、当然物凄い回復能力があるってわけだ。


「とてつもない回復力でございますね、ソフィー様。聞けば、並の人間であれば1週間は王都の診療所で治療しなければならないとお聞きしましたが」

「私、昔から怪我とかがすぐ治るんだー! 腕を折っても足を折っても、子供の頃に魔法実験に失敗して部屋が爆発した時も、次の日にはパワー全開だったよ♪」

『ぎゃおーす♪』


 そりゃあ、あの程度のダメージじゃあなんともならないわけだ。

 今回は、ソフィーとパフのタフさに助けられたぜ。


「でも……どれだけ元気でも、今回は私ひとりじゃどうしようもなかったな」


 ふと、大型犬のようにはしゃいでたソフィーが急に大人しくなった。


「私だけだったら、パフを助けられなかった。きっと取り返しのつかないことになってたし、皆にも迷惑をかけてたし……だから、ふたりには本当に感謝してるの」

「何言ってんだよ。ソフィーがパフに想いを伝えなかったら、俺達がいてもどうしようもならなかったぜ」

「その通りでございます。ソフィー様のご友人を信じる心こそが肝要(かんよう)だったのです」


 テレサの言う通り、ひとりと1匹の友情が奇跡を起こしたんだ。

 俺達がやったことなんて、ちょっとしたお手伝いみたいなもんだよ。


「ううん、ふたりがいなきゃ、私だけじゃどうしようもなかった。魔法が苦手でも、パフがいれば大丈夫だなんてバカなこと考えてたんだもん」

『ぎゃーう?』

「安心して、パフ……私も、もっと魔法を使えるようになるからね。ひとりでも強くて、パフがいればもっと強くなる、オライオン家最高の魔導士になってみせるから!」

『ぎゃおーうっ!』


 ソフィーがガッツポーズをとると、パフも鳴いて応えた。

 今のひとりと1匹ならきっと、ゲームの中よりもずっと強いコンビになれるはずだ。


 何より、今こうしてソフィー達が笑ってるのが、俺にとっては何より嬉しかった。

 歪められたストーリーがもたらした危機の中、俺はヒロインを運命に奪わせなかった。俺の半年間が、決して無駄じゃなかった証拠だ。

 もちろん、これからも黒幕を倒さない限りトラブルは続く。

 だけど――。


「――誰も傷つけさせないから。俺が守るよ」


 頭の中に浮かんでたセリフが、口をついて出てきた。

 しまった、と思った時には、もうソフィーもパフも、テレサも俺を見つめてた。


「ごめん、ごめん。独り言だからさ、気にしなくていいよ」


 軽く流して話を続けるつもりだったのに、ふたりともじっと俺に視線を向けている。


「……そういえば、ネイト君? あの時の言葉、覚えてる?」


 ふと、ソフィーが思い出したように言った。

 あの時とは、はて。


「覚えてるって、何をだ?」

「体育館で、私をぎゅってしてくれながら言ったことだよ! 私、ネイト君があんな風に思ってくれてるって知って、すっごく嬉しかった!」


 そうだった。

 俺ってば気分が高まって、思わずソフィーを後ろから抱きしめたんだった。クサい

 あんなクサいセリフを言ったなんて、今思い返しても顔から火が出そうだ。


「あー、あれは勢いで口走ったというか、何というか……」

「ふーん? ネイト君って、勢いで女の子がときめいちゃうようなセリフを言っちゃえるんだ。意外とナンパな男のコなのかな~?」

「そ、そんなんじゃねえって! 女の子と付き合った経験もないしさ!」

「……へぇー」


 ついうっかり、情けない経験不足について口から飛び出してしまったけど、ソフィーの視線はバカにするようなものじゃなかった。

 なんというか、こう、大型犬というよりは――獲物を捉えた、竜の目だ。


「じゃあ、ライバルがいない今のうちに……お返しのハグをしちゃうぞーっ!」

「わああっ!?」


 いうが早いか、ソフィーは俺に飛びついてきた。

 しかも入学初日のハグどころじゃない、真正面からのハグで逃げ場がないし、抱きしめる力もこの前よりはるかに強い――捕食者のそれなんだよ。


「ちょ、やめ、人が見てるから!」

「ふっふっふー、皆が見てるからいいんだよ、アピールできるからね~♪」

「ど、どういう意味だよ!?」

「む~っ! ドンカンさんなネイト君には、お仕置きのハグ、マシマシだ~っ!」


 ゴールデンレトリバーならハハハこやつめ、で済むけど、こっちはソフィーだ。

 道行く生徒が全員振り返るような、最高にキュートな美少女だから大変だ。

 おまけに推定90近いサイズのものが顔に直撃して、ひっきりなしに形を変えてるもんだから、息ができないやら嬉しいやら。


「ねえねえ、休みの日になったらデートしよっ! いっぱいおめかしして、ご飯もいっぱい食べて綺麗な景色も見て、パフと一緒に王都散策だーっ♪」

『うぎゃーうっ!』

「わぶ、ちょ、テレサ、何とかしてくれっ!」

「……はあ。ネイト様がここまで豊満がお好きな方とは。テレサは悲しゅうございます」


 ついでにテレサの視線はとんでもなく冷たいやらで、もうパニックだ。

 周囲からはこれまでで最高クラスのひそひそ声と、男子生徒の嫉妬の怒りに満ちた呪詛(じゅそ)が聞こえてくる。こんな形で目立つなんて、想定外にもほどがある。

 どうしてこうなった、なんで悪役扱いの俺が主人公みたいな扱いを受けてるんだ。

 俺はただ、ヒロインを運命から助けようとしただけだぞ!?


「ソフィー、分かった、分かったから……」


 どうにかこうにか彼女を引き離そうと、俺がジタバタともがいていた時だ。




「――ゴールディング君……少し、いいですか」


 暗く(よど)んだ声が、俺を呼んだ。

 誰かと思って振り向いたけど、俺には誰なのかが分かっていた。


「……ダンカン!」


 すっかり虚ろな目で、生気を失ったダンカンだった。

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