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大・成・敗!

「うわあ、何だあの魔法!?」

「メイジャーの取り巻きが、皆吹っ飛んじゃったわよ!?」


 野次馬連中ののんきな驚きの声が、あたりを飛び交う。

 たった一撃で4人の魔導士のたまごがノックアウトされたし、当然だよな。

 しかもあいつら全員、しばらく起き上がってきそうにない。まあ、ドラゴンの尻尾ではたかれて、斧の柄でぶん殴られて立ち上がるスタミナがある方がおかしいぞ。

 しかも俺達全員、相当な魔力を練り込んだ魔法を付与したんだからな。


「お見事でございます、ネイト様。それに、ソフィー様とパフ様も」

「えへへ、そうでしょそうでしょ! 私とパフなら、悪い人をやっつけるなんてちょちょいのちょいなんだよーっ♪」

『ごぎゃうっ!』


 Vサインを作り、ソフィーはブロンドの髪を(なび)かせて、にっと笑った。

 テレサのバフ魔法『パワーサポート』や、俺の融合魔法も負けちゃいないぞ。

 ちなみに俺が使ったのは、雷魔法レベル2の破壊力と風魔法レベル3の加速力を活かしたパンチ、レベル5の融合魔法『雷風拳(サンダーシャウト)』。

 シンプルな技だけど、奇襲にはこういうのがうってつけだ。


「ねえねえ、ネイト君! 私のカッコいいところ、見てくれた?」

「ああ、見てたよ。けど、褒めてやるのは後だ」


 俺はカフェの外で痙攣する雑魚から、ダンカンに視線を戻す。


「テレサと一緒に、友達を安全なところに連れて行ってくれ。俺は、癇癪(かんしゃく)持ちの腰巾着にお灸をすえてやらないといけないからな」


 さて、一瞬でしもべを4人も失った元腰巾着は、ただ茫然としていた。

 どうやら本気で、ルール無用で俺達を叩きのめせると本気で思ってたのか、現実をまだ受け入れられていないみたいだ。


「……こ、ここまでやること、ないでしょう」


 で、口を開いたかと思うとこれだからな。


「まだ合図も出していない、立会人もいないのに攻撃をすると? か、仮にも公爵家の生まれなら、決闘の決まりくらい、守ったらどうですか?」

「お前、自分の言ったことも覚えてないのかよ」


 自分から難癖をつけて来たくせに、立場が悪くなると取ってつけたような言い訳を並べ立てる――こりゃ、本当に原作のネイトそのものだな。

 俺は原作のネイトを知ってるし、自分自身だから分かってる。

 こういう手合いは、一度痛い目に遭わせないと、理解もできないもんだ。


「ヒキョー者! 先に攻撃したの、そっちでしょーっ!」

「ソフィー様、相手は害獣でございます。人語など解するはずもございません」


 おっと、友達を逃がしてるふたりが、火に油を注いだな。

 ここまで言われて納得するとは思えないけど、逃げ道くらいは用意しとくか。

 そうじゃないと、追い込まれたバカが何をしでかすやら。


「公爵の息子にケンカ売って、取巻きをぶっ飛ばされて、屁理屈こねてまで続けるってのか? これ以上何もしないって約束するなら、俺も何もしないからよ、さっさと……」

「ふ、ふ、ふざけるなあああッ!」


 ああ、ダメだ――分かっちゃいたけど、キレた。

 こいつがネイトだったら確実に逆切れするって思ってたけど、予想通りだ。


土魔法(グランド・マギ)! 『ゴーレムクリエイト』ッ!」


 ダンカンはカフェの中だってのに、鈍色の魔力を滾らせた手のひらを地面にたたきつけて、人型の巨大な人工物を生成した。

 赤いひとつ目をぎらりと光らせる土色の岩の巨人は、決闘に夢中になっていた生徒や従業員が逃げ出すほどの威圧感をもたらす。


「うわははははーっ! どうですか、これが魔導学園に入学する前に2年の月日を(つい)やして強化した魔法ですっ! ゴーレムの拳は騎士の鎧もぐちゃぐちゃに潰しますよッ!」


 こんなのが味方に付いたんだから、そりゃあダンカンの気もまた大きくなるよな。周りの連中も、今度こそ俺がやられるって顔をしてる。

 俺はというと、テレサとソフィー、その友達が巻き込まれないところにいるかの確認中。


「さっき言いましたね、これは決闘だと! だったらお前が死んでも仕方ないでしょうよ、恨むなら歯向かったお前自身を恨みなさい、ゴールディング――」


 よし、確認完了。俺が魔法を使っても問題ないな。

 だったら、ダンカンの自信とか傲慢とかを、全部へし折る時間だ。


「融合魔法――『雷鳴鞭剣(ライトニングエッジ)』」


 左手から放たれた、雷で繋がれた土魔法の鋼の蛇腹剣。

 それが鞭のように振るわれた刹那、まばたきする間にゴーレムは細切れになった。


「あ、あ……?」

「土魔法を応用した防壁とゴーレムの生成はたいしたもんだ。俺の知ってるダンカンは、そんな出力の魔法は使えなかったぜ」


 ガラガラと音を立てて崩れ落ちるゴーレムのさまを見て、ダンカンは絶句してる。

 あまりにあっさりと、自分の最高傑作が破壊されたもんだから、思考が追い付いてないみたいだな。


「でも、俺には勝てねえよ。世界に変えられただけのお前じゃあな」


 この場にいる全員が唖然とする中、俺はダンカンのすぐ眼前まで来て言った。


「もう一度だけ忠告しといてやる……このまま自分勝手に好き放題やってると、痛い目に遭う。特に、紫の石は受け取るなよ。死ぬよりずっと、後悔する羽目になるぞ」


 まあ、俺の説教なんか聞かないだろうが、紫の石についてだけは教えておかないとな。

 これくらいなら、未来を捻じ曲げるほどの言動にはならないだろうし。


「誰が! 誰がお前の言うことなんて聞くあぼばぁッ!?」


 で、こいつの反応も予想できていた。

 目をひん剥いて怒鳴るダンカンの頭を、俺は蛇腹剣でぶん殴った。

 たった一撃だけど、雷を伴った打撃を頭にくらったダンカンはぐるりと白目になって、仰向けに倒れ込んだ。

 安心しろ、峰打ちじゃよ……蛇腹剣の峰ってどこだろうか。


「ネイト君!」

「ネイト様、お怪我は……」


 ソフィーとテレサが駆け寄ってくるのを見て、俺は笑った。

 取り巻きに突き飛ばされた女の子はしきりに俺にお礼を言うし、周囲の野次馬はケンカが終わったものだと思って、それぞれ感想を話し合いながらカフェから離れていく。

 身勝手なもんだけど、こっちはこっちで都合がいい。


「よーし、後は先生の到着を待つとするか。ここまで大暴れしたら、流石にほっとくなんてありえないだろうしな」


 ダンカンは先生が関しないと言ってたけど、それにも限度はあるはずだ。

 事実、カフェに続く校舎側の廊下から、先生が何人か走って来てるし。


「しかしネイト様、この鼠が介入をしないと……」

「だからいいんだよ。先生が普段介入しないってことは、どっちの味方でもないってことだ。つまり、いざとなれば都合がいい方の味方をしてくれるってわけだ」


 権威に与するのなら、(くらい)が高い方か弱みを握られた方につくのが定石だ。

 そして俺の身内にはひとり、あらゆる方面から最大の信頼を得ているエリートがいる。


「忘れたのか――俺はあの、ドミニク卿の弟だぜ?」


 言っておいてなんだけど、家族の権威を借りるのは、顔から火が出るほど恥ずかしかった。

 だけど、どうせ俺は悪役だ。

 使えるもんは、全部使わないとな。

 というか……「これなら負けない」と思い込んでるバカを、同じものでへし折ってやるのは爽快だろ?

 



 結局、俺の予想通り、先生はどちらにも罰則を課さなかった。

 入学初日で浮かれていたが故の魔法の暴走と認識して、俺とダンカンに注意をするだけに留まった。

 しかも決闘としては、当然認められない。子供の戯言程度の認識しかされなかった。

 ダンカン達が、自分が怪我したと言っても何も変わらない。

 面倒ごとを深刻化させたくないって気持ちもあったんだろうけど、「ドミニク卿の弟だから、今回は……」って言った瞬間は吹き出しそうになったぞ。


 つまり、実力でも権威の差でもダンカンは大負けしたってわけだ。


 あの気弱な眼鏡君と同一人物とは思えないほど顔を歪ませて、あいつはどかどかと廊下を歩き去っていった。

 ひとまずみんな無事で済んで安心はしたけど、俺は少しだけ気になることがあった。


 ダンカンがずっと、ずーっと。

 ――ズボンのポケットの中で、()()を転がしていたんだ。

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