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おさらいストーリー

「魔導学園って、こんなに疲れる場所だったのかなぁ……?」

「入学初日から災難でございますね、ネイト様」


 マッコール先生の熱血指導が終わると、その日の授業も終わった。

 トライスフィア魔導学園の伝統として、初日の授業は簡単なレクリエーションや校内の案内のみに留まる。

 あとは学校を好きに楽しむもよし、明日に備えて休むもよし。

 ソフィーのようにクラスメートと仲良くなって、学校を散策するもよし、だ。

 彼女はたちまち他の女子生徒と仲良くなって、大型犬の如く冒険に出かけて行った。


(友達を引っ張って教室を出てったけど、ソフィーの気持ちも分かるな。こんな広い学園は、あの子にとっちゃダンジョンみたいなもんだ)


 というのも、トライスフィア魔導学園は比較的大規模な町よりもはるかに広い。迷う生徒は毎年絶えず、中には何日も迷子になる生徒もいるとか、いないとか。

 そんな特徴だけど、ゲームでは全く活かされてなかった。行けない施設もあったり、そもそも名前だけでデータもない場所もあって、がっかりしたのを覚えてる。

 だけど今は、魔導学園の色んなところを余るところなく散策できる!


 ゲームじゃ見られなかった施設を体験できると思うと、どうにもわくわくしてきたけど、それは後でだってできる。

 今やらなきゃいけないのは、腹ごしらえと今後の目的の再確認だ。


「テレサ、食堂で食べたいもんとかあるか? 俺がおごるよ」

「では、お言葉に甘えて『カフェ・マジカリテ』のチョコラーメンをいただきます」

「……ほ、本当にそれでいいんだな?」

「甘いものは、テレサの好物でございます」


 長い、長い廊下を歩いた先にあるらしい『カフェ・マジカリテ』に向かう道中で、テレサの妙な味覚に肩をすくめる俺は、校舎の中庭に視線を向ける。


(……やっぱり、ここは設定どおりだ。明らかに貴族……()()主義がはびこってるって感じだな)


 えばった様子で歩く女子生徒と、その視界に入らないようにする新入生の集団を見て、俺は思った。


 ――トライスフィア魔導学園は、決して平和な場所なんかじゃない。

 悪の巣窟でなくとも、ここには魔法が使えれば、身分が高ければ何をしてもいいって勘違いしてるやつがこれでもかってほどいるんだ。

 貴族エリートと平民の格差は、いかんともしがたい。

 当然の如くいじめに発展するし、それが原因で退学を選ぶ生徒もいる。


(で、そんな弱みや怒りを狙って渡されるのが――『紫の石』だ)


 俺のゲームの記憶が、邪悪の根源を思い起こさせる。

 コンプレックスや選民思想につけこみ、誰かが紫の宝石を配り始めるんだ。

 もちろん、善意なんて微塵(みじん)もない。魔力を増幅させる代償に精神を乗っ取り、自我を崩壊させるのが『紫の石』の恐ろしいところにして、石を配る秘密結社の目的だ。

 で、ノアとヒロインが『ヴァリアントナイツ』ってチームを組んで、正体を突き止めるべく東奔西走する――これが、『フュージョンライズ・サーガ』の大まかなストーリー。


(もっとゲームを進めてれば、今よりずっと情報が手に入ったかもしれないのにな……)


 サブクエストだ何だにうつつを抜かさなきゃよかった、と俺は後悔する。

 一方で、安心できることもある。


(でも、もともと石を使う立場の(ネイト)が石を持ってないから、テレサは犠牲にならない。それに、ソフィーは唯一石の犠牲にならないヒロインだ)


 そう。

 今の時点で、俺は運よくふたりも石の脅威から守れているんだ。

 ネイトが悪役じゃないから、テレサは自爆しない。ソフィーはストーリーの都合上、石の被害に遭わないまま主人公と合流する。

 話の本筋とずれはあるけど、ひとまずそこについては気を張らないでよさそうだ。


「ねえ、あれって、ゴールディングの……」

「初日から学園の備品を壊したらしいぜ。乱暴者の次男坊(じなんぼう)って噂は、本当らしいな」

「しかも、ソフィー様をはべらせていたんでしょう? なんだか弱みを握っているようで、怖い人だわ……」


 ただ、ネイトの評価があまり良くないのは、もうそういう世界だからとしか言えないな。

 こんな状況も、もうちょっとましになってくれるとありがたいんだけど。


「ネイト様、あなたの良さはこのテレサが一番よく知っておりますよ、なでなで」

「はは、ありがとな……」


 テレサの慰めが胸に染みる現状を噛みしめつつ、俺はこれからに思いを馳せる。


(これから出会うヒロインにも嫌われるかもしれないけど……絶対に、守らないとな)


 俺が知っている範囲で出会うヒロインは、今のところ3人。


 無属性魔法科に属するデコメガネ真面目系剣士、クラリス・ブレイディ。

 100年にひとりの逸材と呼ばれる異質な属性魔法の使い手、ジークリンデ・ハーケンベルク。


 それにソフィーを加えた4人と、隣にいるテレサと、死なせないという意味なら学園にいる全員が、俺の守るべき対象だ。


(ははは、随分と厄介な()()プレイみたいだな)


 ゲームなら死んでも何度だってやりなおせるけど、ここはリアルだ。死ねば蘇らないし、死んだ人にもそれぞれ悲しむ人がいる。


(だけど、やらなきゃいけない。主人公と同じ話の展開にはならないのなら、早めにヒロインと会っておかないとな。紫の石を渡そうとする奴らもいるだろうし、俺が先に……)


 だからこそ、どれだけ傷つこうとも、誰も死なせちゃいけないんだ。


「……ネイト様? 何かお考え事を?」

「ん? ああ、いや、何でもないよ」


 おっと、自分でも知らない間に険しい表情にでもなってたのかな。

 ひらひらと誤魔化すように手を振りながら俺が笑うと、テレサは少しだけじっと俺を見つめてから、足早に歩きだした。

 従者を心配させるなんて、これじゃあご主人様失格だな。

 廊下の先に見えてきたカフェで、チョコラーメンだけじゃなくて、スイーツも買おうか。

 なんて考えながらカフェのすぐ前までついた時、俺もテレサも、ふと足を止めた。




「――何を言ってるのか、自分で分かってるのか!?」


 耳をつんざくような怒声が、カフェの中から聞こえてきたからだ。

 しかも、がちゃん、どたんと何かが倒れて割れる音とともに、別の声まで聞こえてくる。


「何度でも言ってあげる! キミ達、すごく、すーっごく、カッコ悪いよ!」


 前者はともかく、後者には聞き覚えがある。


「ネイト様、今のお声は……」

「ああ、分かってる。ソフィーだな」


 何が起きてるかはさっぱりだ。

 けど、ソフィーの声が聞こえただけじゃなく、中にいた生徒が面倒ごとから逃げるようにドタバタとカフェから出てきたんだから、放っておけない。

 生徒の波を裂くようにして、俺とテレサはカフェに入った。

 そこにはやっぱり、ある程度予想していた光景が広がっていた。


「あ、ネイト君!」

『ぎゃうーっ!』


 モダンな雰囲気の漂うカフェは、テーブルや椅子がひっくり返った惨状と化していた。

 その中心にいるのは、しゃがみ込んで泣いている生徒を庇うように立つソフィーとパフ。

 そしてソフィーと向かい合うように立つのは、いかにも貴族のお坊ちゃまって感じの新入生が4人と、彼らを率いるように仁王立ちする男子生徒。

 入学式の前に、俺を睨んでいた生徒だ。


「……お前……」


 あの時はソフィーとパフの乱入でそれどころじゃなかったけど、今、違和感の正体が分かった。俺はこいつをゲームで見たし、知っている。


 いや、俺が知らないはずがない。

 こいつは――。


「――ダンカン?」


 ネイトの腰巾着――ダンカン・メイジャーだ。

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