実力、お披露目、全力で!
結局、教室に戻ってくるまで俺のそばにはテレサとソフィーがくっついてた。
どれくらいくっついてたかって言うと、もう俺が歩くの諦めて引きずられてるのも構わずに、どかどかと指定クラスが表示される校舎のホールに向かうくらいだ。
「へー! じゃあ、ネイト君って努力家なんだね!」
「もちろんです。ネイト様ほど勤勉で己に厳しく、人に優しいお方をテレサは知りません。そしてテレサ以上に、我が主に詳しい者はおりません」
「じゃあテレサちゃんは、ネイト君博士だね♪」
「……博士というほどではありませんが、誉め言葉として受け取らせていただきます」
しかもいつの間に意気投合したのか、楽しそうに歩く始末だよ。
女の子の関係の変化ってのは、ちっとも分からない。
そんなこんなで、俺達はクラス分けの張り紙がでかでかと貼り付けられた大広間に来て、自分達がどのクラスに所属するのかを確かめる。
トライスフィア魔導学園に入学したなら、まず大きく分けて3つのクラスに入る。
ひとつは基礎的な属性魔法を学ぶ『属性魔法科』、ひとつは無属性魔法をまんべんなく学ぶ『無属性魔法科』、そしてどちらにも当てはまらない稀少技能を伸ばす『特殊魔法科』。
入学前に提出した書類に自身の魔法適性を記して、それに合ったクラスが選ばれる。
俺とソフィーが入ることになったのは、当然特殊魔法科だ。
「そんじゃ、今からオリエンテーションだからな。ほらほら、離れろ離れろ」
「ネイト様のご命令とあれば、かしこまりました」
「もっとぎゅーってしたかったのにぃ~っ!」
……本当に、助けただけでここまで気に入られるのは予想外だ。
そういうのはノアの役割で、そいつがいないならそんな相手もいないと思ってたんだが。
とにかく、教室に入った俺はふたりから解放されて、左右の腕が空く機会を得られた。
ただし、それは先生の話を真面目に聞くからだとか、ゲームで言うところの操作説明をじっくりとっくり聞くからだとかじゃない。
ある意味で俺は、一番面倒な離れ方をしたんだ。
「――さあぁーっ! お前ら魔導士のたまごの、燃える青春パワーを見せてくれぇーっ!」
この超熱血教師、レオ・マッコールのせいで。
赤いとさか頭と筋骨隆々の体躯が特徴的な男性教諭は、なんと授業初日からあらゆる説明をすっ飛ばして、自分が担当するクラスの生徒を連れてグラウンドに出た。
「あの的が見えるなっ!? あれをお前達の持つ最大最高の青春パワーで撃ち抜くんだ、やり方は問わんっ! 溢れるやる気の炎で俺を感動させてみせろぉーっ!」
そして彼が指さしたのは、射撃場に設置されているような的だ――要するにマッコール先生は、『板を魔法で撃ち抜くテスト』をやらせると言い出したんだ。
要するに、異世界転生系の小説とかマンガでよくあるあれだ。
だけど、ゲームを思い返してみれば、ある意味納得できる展開でもある。
この教室はゲームの中だと、色んな魔法の試し撃ちができる『トレーニングモード』ができる場所で、先生に話しかけてこのグラウンドに移動するんだよ。
要するに、ある意味この状況はストーリー通りってわけだ。
「え、ええと……『マナ・ショット』!」
さて、俺の前ではすでに何人かの生徒が先生の前で魔法を発動させていた。
トライスフィア魔導学園は魔法を学ぶ場所だけど、たいていの生徒はここに入学するまでにいろんな形で魔法を学び、属性の有無を問わず魔力を発射するくらいはできる。
この生徒も同じで、素質は特殊だが、今使えるのは発射魔法だけだ。
半透明の魔力の塊は的に命中したけど、焦がすことすらできない。
「グレェートっ! 全力の熱意と確かな実力は感じられたぞぉーっ! よし、次!」
だけど、マッコール先生は満足げに女子生徒の肩を叩いて褒めた。
彼は生徒に、強力な一撃じゃなく、全力の一撃を求めてるからな。
ちょっとでも手を抜いたやつがいたら、何度でもやり直させる。
「どうしてだっ! なぜ本気を出さないんだあぁーっ!?」
「ご、ご、ごめんなさい、ごめんなさい!」
「謝らなくていいっ! 大事なのは全力の青春パワーだ、さあ、もう一度だぁーっ!」
涙をダバダバ流しながら、熱い青春の物語を聞かされつつ男子生徒が肩を揺さぶられるのを見ると、流石の俺でも同じ目には遭いたくないって思うよ。
というか、どうやって手抜きと全力を見極めてるんだよ。
謎に頭を捻らせていると、8人ほどの挑戦を経て、今度はソフィーの番が来た。
「いくよ、パフ! 竜火魔法『すとらいくばーん』っ!」
『ごぉーうっ!』
ソフィーの掛け声とともに、パフの口から勢いよく火球が放たれた。
竜は他のどの生き物よりも優れている、と言われるだけあり、幼いながらもパフが放った火の玉は強烈な勢いで的に命中した。
しかし、もうもうと立ち込める煙の中から出てきた的には、焦げた跡しかなかった。
あれ、と首傾げているソフィーの横で、マッコール先生がガハハと笑っている。
「オライオン、見事な魔法の一撃だっ! だがな、あの的は先生の無属性防御魔法で守られている! 新入生が破壊するのは無理というものだぞっ!」
「ええー? じゃあ、ネイト君なら壊せるかなー?」
おいおい、ここで俺の名前を出すのか。
「なにっ!? それは気になるな、ゴールディングは前に出てきてくれっ!」
他の生徒達の視線が、一斉に俺に集まる。
こうなるととても隠れるわけにはいかないので、後ろから聞こえるテレサの「無表情フレーフレーダンス」の掛け声を聞きながら、的の前に立った。
(……さて、いいアピールチャンスが来てくれたな)
他の異世界転生者なら、自分の力を隠しておきたいと思ってわざと弱めに魔法を放つか、あるいは何かしらの手段で誤魔化すだろうな。
けど、俺の場合はその逆。出し惜しみせず、力を見せつける。
それが、隠れてる誰かへの抑止力になる。
俺がいる限り、悪事は簡単に働かせないぞって警告だ。
(黒幕野郎……俺を見てるかどうかは知らないけどな、ソフィーや他の誰かを傷つけようっていうなら、俺の魔法を相手にすることになるぜ!)
気合を入れる俺の両手に、青と黄色の魔力が渦巻く。
「水魔法レベル4、雷魔法レベル4――」
ふたつの魔力を組み合わせ、生み出されるのは雷をまとった水の槍。
俺は野球のアンダースローよろしく、思い切り体をひねり――。
「融合魔法レベル8! 『激流雷槍』ッ!」
槍を、渾身の力で投げ飛ばした。
空気を轟音で裂いた槍はまっすぐ的へと吸い込まれ、凄まじい衝撃と共に直撃した。
的は槍の破壊力に耐えきれず、台風の如き突風の中で粉々に吹き飛んでしまった。残ったのは雷撃の残滓と水の痕跡、そして黒焦げになった的を支える棒切れだけだ。
「へへっ、どーだ?」
俺が自慢げにテレサに振り向いて笑うと、彼女は無表情サムズアップで返してくれた。
他の生徒は、ソフィーも含めて唖然としてる。まあ、こんなもんをいきなり見せつけられたら驚くよな。そこに関しちゃ、ちょっと反省だ。
「――すっごいじゃないか、ゴールディングゥ~っ!」
「ぎゃあああっ!?」
なんて思いながら顎をさするに、急にマッコール先生が飛びついてきた。
すごい汗の匂いだ、ついでに涙が頭にかぶっててすごい不快感だ。地獄だ。
「先生の青春防御魔法を上回るとは、俺は猛烈に感動したぞぉーっ! 皆も、ゴールディングのように俺を超えてくれ、青春パワーを高めていこうなぁーっ!」
「おご、ご、ごぶ……」
胸板に顔がぶつかり、不快感が限界まで高まる。
皆の俺をちょっぴり羨む顔が、たちまち「こうなるくらいならほどほどでいいや」という表情へと変わったのが、先生の腕の間から見えた。
ただひとり、ソフィーだけが目を輝かせてくれたのはありがたかった。
「ゴールディング、お前の強さの秘訣は、熱い青春の汗をたぎらせているからだな~っ!」
「いや、違います……むぐぐ……」
結局俺が解放されたのは、授業の終わりを告げる鐘が鳴ってからだった。
【読者の皆様へ】
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
「面白い!」「続きが読みたい!」と思ったら……↓
広告下にある評価欄の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に押していただけると嬉しいです!
ブックマークもぽちっとしてもらえたらもう、最高にありがたいです!
次回もお楽しみに!