皆の力、ひとつの力
『ギャアアアアアアッ!?』
腹に風穴があいたオグルの絶叫が響いた。
まさか無敵の防御魔法が破られるなんて、思ってもみなかったみたいだな。
『な、なんで……俺の反射魔法が……通用、しない……!?』
「お前のじゃない、ドムの魔法だ!」
そうだ、あの魔法は無敵じゃない。
ドミニクなら理解できた弱点を、魔法を盗んだだけのお前は理解していないんだ。
「俺の融合魔法に纏わせた反射魔法が、お前の防御壁を中和して貫通させたんだ! それだけじゃねえぞ、ドムからもらった魔力で、こっちの魔法の威力は底上げされてる!」
さらに複数の種類の魔力を手のひらに溜め込み、俺は連続して発射する。
「まだまだ、ありったけの魔法をたたき込んでやる!」
残り少なかった魔力も、ドミニクからもらったおかげで無尽蔵に膨れ上がってる。
無数の氷柱を、石の刃を、雷と風の斬撃を、何度でもオグルに撃ち込む。
『ガアアアアア!』
しかもあいつは、俺が使う魔法の効果で反射しようとしても反射できないまま、高威力の魔法をくらい続けるんだ。
ここでとどめを刺さないで、いつあいつをぶっ倒すってんだ!
「皆、あいつの反射能力は俺が無効化する! 全力の魔法を、あいつ越しに裂け目に叩き込んで、ヴィヴィオグルの復活を止めるぞ!」
俺の声に応えてくれた仲間達が、後ろから魔法の援護をしてくれる。
「いくよーっ! 竜火魔法『えんどれすばすたー』っ!」
『がうる、ぐるあああああっ!』
ソフィーとパフが、これまで以上に強烈な竜の炎を。
「幽霊魔法『ノロイバズゥカ』……!」
クラリスが、超特大級の怨霊の塊を。
「氷魔法『焦熱の獄・ウバラ』!」
ジークリンデが、敵に触れれば赤い氷の華を咲かせる棘の氷を。
ありったけの魔力を注ぎ込んだ俺達の魔法は明らかにオグルを弱らせて、再生能力も無視してダメージを与えられてる。
『ギギ、ギ、ギィィ……!』
けど、オグルがヴィヴィオグルにエネルギーを注ぎ込むのは止められない。
このままじゃ、敵を倒すよりもラスボスが覚醒する。
「もうじきヴィヴィオグルが目覚めちまう! 次が最後の一撃だ!」
全身全霊の一撃を解き放つ覚悟を決めた俺の背中に、テレサの手が触れる。
「ネイト様、テレサが魔法を強化いたします。どうぞ、ケイオスにとどめを」
テレサのバフのおかげで、さらに腹の底から力が湧きあがる。
やっぱり、テレサは世界一頼れるメイドだよ。
「ああ……分かった!」
右手に白いオーラを集中させて、俺はオグルめがけて駆け出した。
もちろん、俺が使うのは融合魔法と反射魔法だけじゃない。
「レベル11まで進化した融合魔法とテレサのバフなら、竜の力、幽霊の力、氷の力を融合させられる! 皆の力で、オグル、お前を倒す!」
今の俺には分かる――皆の力をひとつにして、最強の魔法にできるって!
「竜魔法レベル10! 幽霊魔法レベル10! 氷魔法レベル10!」
皆が放つ魔法の力を、疾走しながら手に溜めてゆく。
ドラゴンの火が、恐るべき怨霊が、すべてを凍らせる氷が俺の力になる。
「強化魔法レベル10! 反射魔法レベル1――」
そのすべてを合わせ、ドミニクの魔法をまとわせる。
メイドの強化魔法でさらに膨れ上がった魔力は、七色に輝き――。
「――融合魔法レベル41! 『フュージョンバースト』!」
俺の右拳から放たれた渾身の一撃と共に、オグルの顔面に直撃した。
空間が歪み、校舎を粉々に破壊する勢いの魔力が、オグルの黒い体を消滅させてゆく。
圧倒的な魔力の衝撃はオグルの防御も、反射による迎撃も許さず、ヴィヴィオグルにエネルギーを注入するチューブごとこの世界から消し去る。
『ふ、ふざけるなあああああ! こんな技、ゲームにないだろうがあああああ!』
「俺と仲間の絆は、ドムとのつながりは、ゲームのシステムだけじゃ測れねえんだよ!」
たった今、この瞬間だけ許された、限界突破のレベル。
俺達全員の願いが起こした奇跡の前に、常識なんて通じない。
ゲームとか運命とか、そんなもんを超越した力は、紛れもなくヒロイン達とドミニクをハッピーエンドに導く、奇跡の魔法なんだ。
『そんな、あり得ない、俺は、世界が、バッドエンドを望んだのに!』
ヴィヴィオグルの悲鳴が、オグルの叫び声が、バッドエンドを求めている。
悪いが、俺が転生した時から、それだけは迎えさせねえって決めてたんだよ。
「だったらその世界ごとぶっ壊して――俺が、ハッピーエンドを作ってやる!」
血が噴き出すほど拳を握り、オグルの顔にめり込ませる。
割れ目から放たれる負のエネルギーがどんどん小さくなってゆき、ヴィヴィオグルの声と思しきものが消えてゆく。
何もかもすべてのバッドエンドを終わらせる、渾身の一撃が――。
「これで終わりだ、ケイオスーッ!」
――オグルの頭を貫き、砕いた。
その途端、オグルとヴィヴィオグルとの繋がりが消え、紫色のオーラが霧散した。
『あ、アア、アアアアアー……ッ!』
オグルの声が白いオーラに呑まれ、割れ目が閉じてゆく。
辺りに残っていたオグルの残滓である黒いオーラ、恐怖の具現もなくなり、とうとうケイオスの親玉とそれの遣いは、最初からいなかったかのように消失した。
ただ、俺は見逃さなかった。
割れ目の間から、いくつかの紫の星が尾を引きながら、北の方へと飛んでゆくのを。
「……倒した、のかな……」
「み、みたい、ですね……」
でも、それを追いかける気力はもうない。
「はあ、はあ、はあ……もう、指一本動かねえよ……」
白い魔力が弾けるように消えて、俺はその場に仰向けに倒れ込んだ。
「ネイト君!」
「まだあそこは危険かも、彼をこっちに連れてきて! テレサ、近くの診療所から治癒魔法の使い手を呼んできてちょうだい!」
「かしこまりました」
ソフィーとクラリスに担がれて、俺はジークリンデのそばに寝かされる。
治癒魔法を使ってもらわないと死ぬかも、なんて考えていると、隣に別の誰かが寝かされているのに気づいた。
ぴたり、と触れた手の温かさが、誰かを教えてくれた。
「……この手……ドムだよな……?」
「そうだ、私だ。お前が命を賭して守ってくれた、ドミニクだ」
そういえば、ドミニクもだいぶ無茶をしたんだよな。ぶっ倒れて当然か。
真上に太陽が昇ってるし、あともう少しだけ何もなくいてくれよな。
「このまま、夜が明けるまで……死ぬなよ……」
俺が小さく笑うと、ドミニクの笑い声が聞こえた。
「お前もな。その命は、お前ひとりのものじゃない」
ああ、そうだ。
俺もいつかはバッドエンドを迎えるけど、最後の最後まで抗ってやる。
顔を覗き込ませて、心から心配してくれる仲間達の為に。
「分かってるよ……大好きな、仲間の……皆の、ものだ……」
俺の命を――俺を、誰よりも愛してくれた皆の為に。
その日、ドミニク・エドガー・ゴールディングは生き延びた。
それはつまり――バッドエンドを回避した証拠でもあった。
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