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「お疲れ様でした」
「お疲れ様でした~」
外はとっくに夜を迎え、空は夜空が広がっている。
「あ~腹減った~。 カノウ~御飯食べに行こう~」
「それなら店長に賄いもらっておけばよかったのに」
「だってここの店の料理飽きたし~。 それに自分が働いている店じゃなくて、別のジャンルのが食べたいんだよ~」
「それ店長に言うなよ? 泣くぞ?」
「知ってる。 さっき泣いてたから~」
すでに店長にも同じ事を言った後らしい。
食事処の店長は初めて働く従業員に殺し屋だと間違われるくらいの恐ろしいオーラと顔をしているのだが、真実は子犬に吠えられただけで怯える小心者である。
そんな店長が従業員に別の店の物を食べると言われたら、ショックで涙を流してしまう。
「次の出勤の時には謝っておけよ?」
「まかせろ。 A級グルメを御馳走するよ~」
「やめろよ? 店長泣くどころか立ち直れなくなるぞ?」
ヘラヘラと笑みを浮かべながら「分かってる」と言う坊は、次の出勤した際に店長の好物であるスイーツを持っていくと言った。
そうして他愛無い話をしながら何処で晩御飯を食べようとかと2人でブラブラしていると、道の真ん中で大勢の人が集まっているのが見えた。
「ねぇ~。 どうかしたの~?」
坊は近くで眺めていた冒険者らしき人物に声をかけて、この集まりの理由を尋ねる。
「ん? あぁこれな。 なんでも冒険者同士が結構ガチ目の喧嘩をしてるらしい」
「え、それって大丈夫なんですか?」
冒険者同士の領地内での喧嘩はご法度となっている。
理由はもちろん人災を防ぐ為のものだ。
冒険者は幾多数多の危険な境遇を過ごす仕事だ。
それはつまり、相手を殺す方法も身に着けている。
剣術、魔術、体術、暗殺術といった技を身に着け、冒険者達は人間の宿敵である魔物た対峙してきた。
しかし、その技と呼ばれる物は時に人間にも向けられる。
奪い、傷つけ、脅して、殺す。
人間は敵対する存在がいると言うのに、同じ人間に対しても同じをする。
それを未然に防ぐ為に王家と呼ばれる人間界のトップは法案にて、領地内での冒険者の喧嘩、もしくはそれに準ずる行為のすべてを禁止した。
もしもその法案を破った場合、禁錮もしくは死刑と重い刑罰を指定している。
「よくはねぇよ。 だけど見て見ろ。 あの喧嘩してる2人」
冒険者が指をさす方へ視線を向けると、そこにはすでに剣を構えている大柄な男と魔術を発動しようとしている魔術師の姿が人混みの隙間から見えた。
「あの2人はランクAの冒険者だ。 喧嘩の理由は分からんが、あんな上級ランクの冒険者のマジ喧嘩の間に入ってみろ。 そっちの方がお陀仏だ」
どうやら喧嘩をしている冒険者2人はかなり有名な実力者らしく、周囲にいる冒険者達も無闇に止めに入らないのも実力が違いすぎているせいらしい。
「坊、悪いけどちょっと待っててくれ」
「え~。 カノウまさかあれ止める気?」
「まさか。 それこそ本当に死んじまうよ」
「じゅあ~どうするんだ?」
「こういう時に騎士団ってのがいるんじゃないか?」
「な~るほど」
騎士団とはユートピアの治安を守る兵団の事だ。
魔物と戦うエキスパートは冒険者だけではない。
いついかなる時も人々を守り、国を守る存在は必ず存在する。
それが騎士団。
魔物だけでなく他所の国からの侵攻された際にも機能する組織である。
その為、冒険者が起こす騒動の時は騎士に止めてもらうのがベストなのだ。
「そこまでだ」
しかし、近くの騎士団の駐屯地に向かおうとした時に、有名で誰も近づけなかった冒険者の喧嘩に1人の人物が割って入った。
その人物は全身銀色の鎧を身に纏い、煌びやかな雰囲気を身に纏っていた。
「貴様達はこんな街中で一体何をやっている。 冒険者ともあろう者が恥ずかしくないのか」
一瞬、興奮気味の喧嘩をしている冒険者2人がその人物に襲い掛かるのではないかとヒヤヒヤしたが、不思議と冒険者は暴れる所かその人物に従うように剣を下ろした。
「・・・チっ。 行くぞ」
「我々も失礼いたします」
2人ともパーティー仲間であろう人達を連れて、何事もなかったかのように何処かへ行ってしまった。
それを一部始終見ていた人達はその光景を見て歓声を上げた。
「流石は勇者様だ!」
「あぁ! あの冒険者達を言葉だけで止めちまいやがった!!!」
まるで窮地を脱した瞬間のような歓声の中でカノウを首を傾げる。
「勇者・・様?」
「そっか~。 カノウは初めてみるのか」
いつの間にか隣に立っていた坊に驚き肩を飛び上がらせたが、坊はそんな事は気にせず話を続ける。
「今から半年前に魔族の王、魔王が倒された事はしっているよな~?」
「あ、あぁ。 たしか1000年続いた人間と魔族の戦いに終止符をうった大英雄」
「そ~。 んで、その長く続いた戦いを終わらせたのがあの人だ」
いつの間にか人々の波にのまれて身動きが取れなくなった勇者と呼ばれる人物に視線を向ける。
「あれが・・勇者・・」
「さ~。 大事にもならなかったし、俺らも御飯食べに行こう~。 グズグズしていると営業時間終わっちまう~」
「ん? そっちは今来た道だぞ坊。 どこ行くんだ?」
「だから~、御飯食べにいくの~。 そこにいい感じのスイーツが売ってる店もあったし買っていこう~」
「・・・なんだ。 やっぱり賄い食べに行くのか?」
「賄いじゃなくて、客として食べに行くの~。 ホントは別の店が良かったんだけど、この騒動見てたらどうでもよくなったし。 それなら食べなれた店で食べようと思っただけ~」
「店長に飽きたって言った事を謝りに行くならそういえばいいのに」
「・・・だから~。 もう探すの面倒になっただけだって~」
ぶっきらぼうな表情でそういう坊の背中を追って、カノウは付いていく。