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三題噺もどき2

作者: 狐彪

三題噺もどき―にひゃくじゅうさん。

 



 年のおわりに向け、空気がせわしなく動く。そわそわと浮ついた気持ちが、ぞわぞわと這い上がってくる。

 色々と溜め込んでいた、いらないものとかいらない事とか。それを片付けるのに躍起になったりしてみて。

「……」

 独り暮らしの我が家は、部屋が荒れているのが当たり前で、そっちの方が落ち着く。だから、この混乱に乗じて片付けてみるかと、腰を上げる気にはならない。

 いつものように、いつも以上に、散らかし荒らして、休息の地を作っている。

「……」

 ただ、今は。

 少し頭を冷やしたいと思っていたので。

 ―風呂場にいた。より正確に言うと浴槽の中。

「……」

 散らかり放題のリビングには、色々なものがありすぎて―見たくないものがありすぎて。逃げ場のないあの部屋よりは。ここの方が今は落ち着く。

 ここには、必要最低限のものしかないし。何も視界に入らない。

 ―他人の色が入っていない、唯一の場所。

「……」

 浴槽の中に。

 どぷり、と全身を沈めて。

 首から上は水上にある。ぐたりと、浴槽の端に背をもたせて、天井を見上げている。

 そこには、ぐるぐると回る換気扇がある。

 ひたすらに、静かなモーター音だけを鳴らして。

 ぐるぐると。

「……」

 ふいに、身体が震えた。

 あぁ…今は暖かな湯につかっているわけではない。

 端的に言うと、水風呂状態だ。頭を冷やしたかったのだから最適解だろう。シャワーも出しっぱなしにしてしまっているから、先程からバシャバシャと跳ねている。

「……」

 何だったか。

「……」

 どうして。

 どうして、こんなことをしていたんだったか。

「……」


「……」


「……」


「……」


 ―あぁ。

 そうか。

 昨日、一人になったからだ。

 独りに、なってしまったからだ。

「……」

 視界が、ゆがむ。

「……」

 昨夜。

 そう、昨夜。

 ―んん。だからこの風呂溜まっていたのか。昨日の夕方に使って、そのままにしていたのだろう。まぁ、そんなことはどうでもいいのだが。

「……」

 なんだったか。

「……」

 えーと。

 そう。

「……」


 ふられたのだ。


「……」


 目の奥が、ぐずりと熱くなる。


「……」


 そう。

 そうだ。

 それで、冷静さを欠いてしまって。

 頭を冷やそうと思って、今の状況に陥っている。

 ―いや、ホントに冷静じゃないな。

「……」

 昨夜。

 昨夜だ。

 もう、クリスマスも近づき始めた昨日の夜。

 あの人が家に来た。

「……」

 それで、寒いだろうから、中に入ってと言ったのだ。

 そうしたら、何て言っていたか。

「……」

 入らない。

 もうここにも来ない。

 もう二度と会えない。

 別れよう

「……」

 そんな感じの事を言っていた。

 はっきりとは覚えていない。

 ただ、そんなことを玄関先で言い放ってから、そそくさと帰っていった。

「……」

 まぁ、実のところなんとなく予感はあったのだ。

 それでも、見ないふりをしていたのは事実であって。信じて居たかったのだ。

 だが、現実を突きつけられた。隠していた本人から。

「……」

 うん。

 そりゃ。そうかとも、思うのだ。

 こんな、科学者の出来損ないみたいな仕事をしているやつより。いい人はいっぱいいる。

「……」

 それでも、良いと言ってくれたから。

 一緒にいてくれたから。

 大丈夫だとおもっていたのだ。

「……」

 それにしても、唐突すぎるよなぁ。

 いきなり。

 しかも、玄関先で、口先だけで。

 別れよう。もう会わない。らしい。

 そうか。

 もう不要なのか。

「……」

 もう。

 いらないのか。

 いる必要もないのか。

「……」

 はぁ。

 いっそ、このまま水に埋もれて。

 おとぎ話の人魚のように、泡となって消えることができればいいのに。

 そうすれば、こんな苦しい思いも。悲しい思いもせずに済むのに。

 ただ静かに、消えることができるのに。

「……」

 目から零れ落ちる液体が、やけに鬱陶しく感じてしまって。

 無意識に爪でひっかいていた。

「……」

 その爪は。

 ガリ―と頬にできたニキビをつぶした。




 お題:人魚・科学者・ニキビ

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