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影と光

 空はしばらく呆然として少女を見ていたが、すぐに気持ちを切り替えて彼女に手に持っていた銃を向けた。子供とはいえど、影だ。その手にはしっかりと銃が握られており、決して油断してはならない存在であることが分かる。


「来るな! 近づいたら撃つぞ!」


「……」


少女は銃を向けられても動揺すらしない。その無機質な感情を宿した目は何を考えているのか分かりづらい。

 刹那、少女は銃を持ったまま瓦礫の上から空の方に向かってジャンプした。


「なっ!?」


 予想外の行動に瞬時に反応出来るわけもなく、空は少女の踏み台となる形で体の上にのしかかられた。体重の重みに耐えられる訳もなく、空は地面に仰向けに倒れた。その拍子に空が手に持っていた銃は空の手から離れてしまった。


 動こうにも少女に体を踏みつけられ、身動きが取れない。そのまま抵抗も虚しく、空の喉元に銃口が向けられる。少女が引き金に手をかけたその瞬間だ。


「警戒心が散漫だぞ! 影!」


「……!」


突如、地下に乱入してきた副団長によって空は死を回避することとなる。副団長が手に持っているものは日本刀だ。そんなものがどこから手に入ったのかは分からないが、副団長はそれを少女に向かって勢いよく投げ飛ばした。


 少女は凄まじい反応速度で投擲をかわしたが、かわしきれはしなかった。頰の肉が少し抉れて、軽い出血をしている。


「……」


「逃すものか!」


少女は武が悪いと判断したのか、地下室の穴から外へと逃走した。それを副団長が凄まじい勢いで落ちていた日本刀を拾い、追いかけていく。副団長と少女の年齢差は見た感じ、7歳程。足の速さで取り逃すことはないだろう。空は安心して手から滑り落ちてしまった銃を拾い上げた。


「おーい、空!! 大丈夫か!?」


安心しきっている空の元にかけてきたのは陸だ。かなり走ってきたようで息を切らしている。


「いきなりいなくなんなよ! 心配したじゃんか!」


「ごめん」


空は素直に謝った。


「逃げていた子供達は?」


「影がシェルターの内部に二人、入り込んでたんだ。それでパニックになっちまって子供達はみんなバラバラに逃げてるよ」


「アリスと瑠花は無事かな?」


「俺もはぐれちまったから分かんない。けど、あいつらは悪運が強いから大丈夫さ」


陸も空と同様にアリスと瑠花のことを心配しているみたいだが、空を安心させるためなのか不安を煽るようなことは言わない。

 

「一度、部屋に戻ろうか? もしかしたらそこにいるかも」


「そうだな。帰巣本能ってやつだな」


空と陸は辺りを警戒しながらも、シェルターの3階にある自分達の部屋に向かった。


「懐かしいな〜。二週間前もさ、陸が僕達と離れ離れになったことあったよね」


「そんなこともあったな。結局は合流できたから結果よしなんだけどさ」


二週間、影が公園に現れたあの日だ。陸は行方不明の兄を探しに行くと言って公園で一旦、別れたのだ。その後、空の住んでいたマンションに影が侵入してきたので、三人で陸の家に向かったのだ。予想していた通り、陸は家に帰っていてそこで合流したという訳だ。


「兄さん、どこいったんだろうな? 空は大人達がどこに行ったのか分かるか?」


「……。いや、僕にも分からないよ」


空は沈黙の末、陸に嘘をついた。本当は空は大人達がいないその理由を知っている。しかしこのことは口外してはいけないと約束してしまったし、言っていいことだとも思わない。空は物思いに耽っているとふと、疑問に思った。


(なんで、大人達の死体がないんだ?)


空は足を止め、物事の矛盾に気がついた。13歳以上の者は老衰で死ぬ。それなら老人の死体がいっぱい残っている筈だ。けれど、街にはそんなものはなかった。


(誰かが片付けたのか? それとも……)


「空! 前だ!」


「え?」


考え事に集中してた空は周囲への警戒を怠った。前から血だらけの影が銃を振り回しながら追いかけてくる。


「どけえぇぇぇぇ!!」


「「うわあぁぁー!!」」


いきなりかわせるはずもなく、空と陸はそのまま彼に吹き飛ばされると思いきや……。


「いい加減、観念しろ!!」


背後から影を追いかけてきた団長が手に持っていた薙刀を満身創痍の影の背中に勢いよく突き刺した。それこそ体を容赦なく貫通するほどの勢いだ。影はその一撃で呆気なく地面に倒れる。


「大丈夫だったかい。君達?」


「は、はい!」


普段との大人しそうな雰囲気とはうって違ったため、空は少し恐怖を覚えながらも返事をした。団長は血で染まった薙刀を影から引き抜くと、服に飛んだ影の血を払った。


「奈々を見なかったかな? 一人で突っ走って行ってしまってね」


「ふ、副団長なら地下のシェルターから外に出ていきました」


「全く、やれやれだよ。単独行動は避けろとあれほど言ってあるのに」


団長は自身の身長よりも長い薙刀を地面に引き摺りながら、地下の方に向かって歩いていく。


「あ、団長待ってください!」


「?」


「もし、事が済んだら少しお時間を頂けますか?」


団長にはいくつか聞きたい事があった。それはさっきの疑問も含めてのことだ。団長はそれに対して、驚きもせず頷く。


「勿論、僕の方から君を呼ぼうと思っていたところさ」


こんな状況に置いてもすました顔を浮かべながら、団長はその場を立ち去っていく。


「行こうぜ。空」


空は陸の言葉に流されるように目的地に向かって足を早めた。


* * *


 少女、吹雪は怪我した腕を抑えながら薄暗い廊下を歩いていた。


(油断した。あんなてだれがいるなんて思わなかった)


影のリーダーである兄から特定の人物の暗殺を命じられ、命を刈り取りに行ったつもりだったが、まんまとしてやられてしまった。

 あのオレンジの髪の女。日本刀なんてものを容赦なく振り回してきた。後もう少しで兄の命令を遂行できるところだったのに残念でたまらない。


「失敗したのか?」


「……!」


傷に気を取られていた為、前に立ち塞がっている兄の姿に気付かなかった。吹雪は慌てて、腕の傷口を隠した。


「いえ……はい。失敗しました」


一瞬、言い訳を言おうとも考えたが、それは言い訳嫌いな兄の感情を逆撫でするだけだ。


「こっちは爆弾も銃も貸してやってるってんのに情けない限りだぜ……。いいぜ、こいつを貸してやる」


兄は自身の手に持っていたものを吹雪に投げ飛ばした。それを受け取って見た吹雪は驚愕する。


「に、兄様。これは……」


「次はないぞ。吹雪……!」


兄はそう言うと言いたい事は言い終わったのか、廊下から去っていく。吹雪は渡されたものを手で強く握りしめ、次こそは失敗出来ないと心に誓った。












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